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出来損ないのWindowsはなぜ世界を席巻できたのか

2015.03.16

Updated by Ryo Shimizu on March 16, 2015, 08:49 am JST

いまや当たり前のように使われているWindowsですが、その最初のバージョンであるWindowsバージョン1.0を実際に使ったことがある人はほとんどいません。

わずかに当時のCMが残っているのみです。
プレゼンテーションをしているのはスティーブ・バルマー前社長。

最初にWindowsが発売されたのは1985年でした。
しかしその出来はお世辞にもいいとは言えません。
1年早く発表されたMacintoshと比べると対照的です。

WindowsがMacintoshに対して見劣りした理由は二つあります。

一つは、Macintoshがハードウェアごと設計されたものであったに対し、Windowsは既存のIBM PC/AT互換機で動かすためのものだったということ。

Macintoshは最初から32ビットCPUであるモトローラ68000を搭載していましたが、Windowsはすでに普及しているPC/AT互換機の非力なCPU、8086で動くようにしなければなりませんでした。

もう一つの理由は、当時のMicrosoftはAppleから資金提供を受けてMacintosh用のソフトウェアを開発していたため、契約上の縛りがあったためです。

しかもこの時点で、Windowsのライバルは無数に居ました。
デジタルリサーチ社のGEM、IBMのTOPVIEWなど、数々の有力なライバルの中でも、Windowsは1歩も2歩も見劣りする状況でスタートせざるを得ませんでした。

また、WindowsにはMacと比較して根本的な思想の違いがありました。
それはDevice Independence(デバイス独立性)です。
つまり、ソフトウェアはデバイス(機器)に依存すべきではないという哲学です。

当時、コンピュータはメーカーによってまったくデバイス(機器)の設計が異なり、デバイスごとに異なるソフトが求められるのが当然の時代でした。

Microsoft自身が、そうした各社が独自に開発したデバイスの差異を吸収するため、移植作業をすることで利益を得ていた時代です。

しかしソフトウェアの本質部分はデバイスに左右されないところにあるはずです。
デバイスごとの差というのは、そのハードウェアのちょっとした個性に過ぎません。

そこでソフトウェアをデバイス依存の鎖から解き放ち、ひとたびWindows向けに書かれたソフトは、あらゆるメーカーのWindowsマシンで動作するべきである・・・いまでは当たり前のことですが、当時は画期的すぎて無謀ともとられかねない過激な思想でした。

Macintoshが専用ハードのための専用OSであるのに対し、Windowsは汎用ハードのための汎用OSを志向して作られていたのです。

思想的には当時のMacOSより優れていたものの、実装面とハードウェアの非力さに泣かされてうまく離陸できなかったWindowsですが、時代が32ビット全盛時代になるとともにチャンスがやってきます。

IBM PC/AT互換機が32ビット化すれば、やっとMacintoshと互角に戦えます。
次いで作られたWindows2.0、そして32ビット版WindowsであるWindows/386で、ようやく戦えるようになったのです。ビル・ゲイツはどれだけWindowsの評判が芳しくなくても、自分の信念、「デバイス独立性」を諦めずにバージョンアップを続けました。その結果が、今日のマイクロソフト帝国を支えているのです。

さらにWindows3.0では、大幅に機能を強化し、386プロテクトモードを大胆に活用した高性能なOSの片鱗を初めて見せ始めます。また、この頃ようやくハードディスクが低価格になり、Windowsのような大規模なソフトを動かす環境が整えられました。

ついに時代が追いついてきたのです。
とはいえ、社内はIBMと共同開発していたOS/2一色で、Windowsチームの旗色は決して良くはありませんでした。

そこでWindowsチームは、世界中にごくわずかに存在していたWindows2.11のユーザー達にむけてマーケティングを開始します。Windows2.11ユーザの2/3はギークと呼ばれるオタク集団でした。好奇心で珍しいOSを使うような層です。そこで彼らに対し徹底的にWindows3.0を売り込んだのです。

Windows2.11の非力さを知っていたギークたちは、Windows3.0の完成度に驚き、口コミでWindows3.0の評判が流れます。ギーク一人を味方につければ100人の一般ユーザを連れて来る、ということが事前の調査で解っていました。だからこそWindowsチームは徹底的にギークを攻めたのです。

OSを売るためにギークをまず攻める、というやり方は、法人ユーザしか眼中になかったIBMにはない発想だったのかもしれません。

このあたりの歴史についてかなり詳しく書かれているのが「マイクロソフト戦記」です。

筆者のトム佐藤氏はMicrosoftでWindowsのプロダクトマネージャーとして活躍した方で、まさにオセロゲームのように、Windowsがデファクトスタンダードを獲る、その現場にいらした方です。

私が非常に面白いなと思ったのは、冒頭で「Windowsの成功はボース=アインシュタイン凝縮で説明できる。つまり科学的に正しかったからこそ、Windowsは成功した」とされているところです。

ボース=アインシュタイン凝縮は量子力学上の概念ですが、こうした概念でマーケティングを表現すること自体が面白いと思いました。実際のボース=アインシュタイン凝縮についてはかなり難しいのですが、本書を読むとそれがどういう意味なのかわかるという仕掛けになっています。

また、トム佐藤氏はMSXに深くかかわっている方でもありました。
MSXとは、かつてアスキーが旗振り役となり、Microsoftと世界中の家電メーカーを巻き込んだホームコンピュータ規格です。

今でも根強い人気があり、秋葉原ではMSXの中古品が高値で売られています。

アスキーの西和彦とMicrosoftのビル・ゲイツの確執やプラザ合意以降の急激な円高がもとで空中分解してしまったプロジェクトに深くかかわったというトム佐藤氏は、その時の経験をWindowsのマーケティングで最大限に活用し、大成功をおさめます。

まさに本書は「失敗は成功の母」を一冊で体験できる本で、ビジネス書としても業界史ものとしても楽しめます。

ビジネスを考えるうえで迷ったときに非常に参考になると思います。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。