TD-LTEにおけるアップリンク側のスループット向上ロードマップ

もう1つのLTE、「TD-LTE」の現状と将来展望

Deep dive: What is TD-LTE?

2015.08.07

Updated by Naohisa Iwamoto on 8月 7, 2015, 12:09 pm JST Sponsored by NOKIA

LTEというと、周波数分割多重方式の「FDD」方式が世界の主流を占める。日本をはじめとして、FDD方式のFD-LTEから商用化が始まった国や地域は多い。一方で、時分割多重方式の「TDD」方式のTD-LTEも中国などを中心に商用化されている。日本でも、ソフトバンクグループのWireless City Planningが提供する「AXGP」や、KDDIグループのUQコミュニケーションズが提供する「WiMAX 2+」は、TDD方式の技術を採用しており、TD-LTEとの互換性がある。さらに、第4世代移動通信システム(4G)向けに割り当てられた3.5GHz帯では、TDD方式で現行のLTEよりも高速なサービスが提供される計画だ。

日本でも広がりが見えてきたTD-LTEの発展の一翼を担ってきたのが、ノキア(ノキアのNetwork事業部門)だ。ノキアでTD-LTE部門を担当するバイスプレジデントのAidy Zhang(章旗)氏に、TD-LTEへの取り組みと成果、今後の課題を尋ねた。

ノキアでTD-LTE部門を担当するバイスプレジデントのAidy Zhang(章旗)氏

ノキアでTD-LTE部門を担当するバイスプレジデントのAidy Zhang(章旗)氏

──ノキアのTD-LTEへの取り組みには、どのような経緯がありましたか

Zhang氏:TDD方式のサポートは、ノキアとしては17年の歴史を持っています。まず1998年に、TDD方式のCDMA方式の1種であるTD-SCDMA方式をノキアとしてサポートする決断をしました。そして、2001年には世界初のTD-SCDMAのコールを行いました。その後、CDMAからLTEへの技術開発の中心が移行するとともに、TD-LTEの技術開発に取り組み、2009年にはTD-LTEのファーストコールに成功しました。

2010年にノキアはインターオペラビリティ(IOT)向けのR&Dセンターを開設しました。有料の施設ではありますが、すべての端末ベンダーに対して開放されています。今後も、R&Dセンターは継続していく計画です。

ノキアのTD-LTEに対する取り組み

ノキアのTD-LTEに対する取り組み

TD-LTEの基本的な検証が終わったことを受け、2011年にはTD-LTE-Advancedの技術開発に取り組みました。TD-LTE-Advancedは、TD-LTEの次世代である4Gの技術で、数Gbpsといった高速なサービスを目指します。

──TD-LTEの導入状況はどのようなものですか。

Zhang氏:ノキアはテクノロジー企業ですが、実際にノキアのテクノロジーがビジネスで使われていることに意義があると考えています。ノキアのTD-LTE製品は、世界の48の事業者が採用しています(2015年6月時点、以下同)。それも、世界のトップ20事業者のうち、15社にTD-LTEネットワークをノキアが提供しているのです。毎日7TBのトラフィックを、ノキア製品を使ったTD-LTEのネットワークが処理している計算です。

世界で商用化が進むノキアのTD-LTEネットワーク

世界で商用化が進むノキアのTD-LTEネットワーク

TD-LTEは急速にサービスも利用も立ち上がってきています。その1つの要因が、端末側の対応にあることは容易に想像できます。アップルのiPhone 6/iPhone 6 PlusがTD-LTEに対応したことは、TD-LTEにとって大きな動きでした。TD-LTEネットワークのトラフィックは、iPhone 6の登場により3倍の規模に膨らみました。

このようにTD-LTEネットワークのトラフィックは急増しており、ネットワークの増強も求められています。ノキアは中国における4G対応製品の外資系ベンダーとしてはトップの地位を占めていると自負しています。特に、北京や上海など多くの大都市でTD-LTEのネットワーク構築を行い、マーケットシェアを伸ばしています。

米国でもスプリントに対してTD-LTE製品を納入しています。スプリントはWiMAXを推進していたClearwire社を買収したことで、TD-LTEの周波数を多く持っており、高スループット、高容量なネットワークを実現する計画です。ノキアはそのスプリントに対して、同社のTD-LTEネットワークにTD-LTE製品を提供しています。

──ノキアのTD-LTEプロダクトの特徴を教えて下さい。

Zhang氏:ノキアのTD-LTE製品は、ネットワークKPI(重要性能指標)が高いことが特徴です。ノキアのBTS(無線基地局装置)が提供する各セルでは、それぞれ600のアクティブユーザーをカバーするキャパシティを確保しています。他のベンダーでも、高いキャパシティをうたう製品はありますが、アクティブユーザーで600ユーザーをカバーできるノキア製品の性能は高いと考えています。実際、チャイナ・モバイルのネットワークでテストした結果、ノキア製品がネットワーク品質、ネットワークパフォーマンス、ネットワークキャパシティの観点からナンバーワンに選ばれました。

上海で2015年4月に開催された大きなイベントでは、マクロセルとスモールセルを併用したHetNetの構成でTD-LTEを運用しました。早朝から深夜までのイベントには14万5000人が来場し、ビジーアワーには同時に4万9000のユーザーを収容しました。デバイスの種類も500以上に上り、1日の総トラフィックは500GB近くにもなりました。そうした条件でも、ノキアのネットワークは各セルで600のアクティブユーザーを実際にサポートし、ダウンタイムはゼロ、急激に通信量が増えるバーストトラフィックにも対処できました。高いKPIを達成できた、1つの実証データだと考えています。

──TD-LTE-Advancedの研究開発の成果はいかがでしょう。

Zhang氏:TD-LTE-Advancedの研究開発への取り組みを開始した2011年から現時点までに、ノキアではTD LTE-Advancedに多くの投資をして、世界初となる数々の記録を残してきました。例えば、中国の厦門(アモイ)で行われた厦門国際マラソン大会では、ライブのテレビ放送の中継にTD-LTEを使い、テレビのマラソン中継を安定してTD-LTEで伝送する実績を作りました。また、2014年にはスプリントと共同で、キャリアアグリゲーションによるダウンリンク2.6Gbpsのスループットの達成も実現しました。

さらに、TDDとFDDのコンバージェンスにも取り組み初めています。キャリアアグリゲーションによってTDDとFDDを同時に使うことで、2014年には3.7Gbps、2015年には4.1Gbpsまでスループットを向上させる実績を残しています。

最先端の技術開発だけでなく、TD-LTE-Advancedに対応した製品もすでに提供しています。コンパクトな1台のベースバンドユニットで、120MHzの帯域をカバーできます。また、無線ユニットでは、1台の8送受信モジュールで、3セクター、6キャリアをサポートします。4×4 MIMOで3CC CA(コンポーネントキャリアのキャリアアグリゲーション)に対応しているため、すでに最大660MbpsのTD-LTEに製品として対応しているのです。ポートフォリオも多様で、主要なTD-LTEのバンドはほとんどカバーしています。マクロセル向けだけでなく、マイクロセルや、FlexiZoneと呼ぶ独自のコンセプトによるスモールセルのサポートもすでに行っています。

TD-LTE-Advancedにおけるノキアのロードマップは、大きく「ローンチ(Launch)」「ブースト(Boost)」「エボルブ(Evolve)」の3つのステージで進化していくことを想定しています。2015年は「ローンチ」で、キャリアアグリゲーションによって220Mbpsをサポートします。2016年から2017年にかけてが「ブースト」で660Mbps、2017年以降には1Gbpsに達する「エボルブ」の段階に進みます。スループットの向上だけでなく、同時にパフォーマンスの向上も目指したロードマップです。

TD-LTE-Advancedのロードマップ

TD-LTE-Advancedのロードマップ

──TD-LTEおよびTD-LTE-Advancedの普及に向けて、技術的な課題やチャレンジはどのようなものがあると考えていますか。

Zhang氏:TD-LTEの大きな課題は、2つあると考えています。1つは同期制御、もう1つはアップリンクのスループットです。

TDD方式では、時間軸を区切ってアップリンクとダウンリンクを交代で通信します。このため2つの周波数帯でアップリンクとダウンリンクをそれぞれ通信するFDDと違って、1つの周波数帯で双方向の通信が可能になります。しかし、時間軸でアップリンクとダウンリンクを切り替えるには、通信する機器同士が正確な時刻の同期をしていなければなりません。ノキアのTD-LTE関連製品では、ハードウエアモジュールがすべてGPSをサポートしているため、GPSの時刻情報と同期して正確な時刻を利用することができます。またタイミング同期プロトコルのIEEE1588(ToP)をサポートしています。

アップリンクの問題も大きな課題です。1つの周波数帯でアップリンクとダウンリンクを共存させるTDD方式では、アップリンクのスループットを高めることが課題です。特に、マクロセルとスモールセルが共存するHetNetの構成を採ったネットワークでは、マクロセルとスモールセルの間の干渉を調整する必要があります。ノキアのシステムでは、マクロセルとスモールセルで共通のソフトウエアを使い、協調制御することで干渉を制御するほか、干渉信号をデータ信号の利得へと置き換えることもできます。

アップリンクのパフォーマンスは、2014年には前年までを基準にして1.3倍に向上しました。2015年には2倍へ、2016年には5.5倍へと高める計画です。近い将来には、10倍のスループットを得られるようにします。

──なぜ、アップリンクの重要性が高まっているのでしょうか。

Zhang氏:これまでのモバイルブロードバンドでは、ダウンリンクを中心にした設計がなされてきました。Webやメールがアプリケーションの中心だったころは、情報を受け取る側のダウンリンクのスループットやキャパシティが要求されたからです。しかし、SNSの普及などによって、高解像度の写真や高精細なビデオをアップロードする利用法が急増しています。そうしたアップリンクのキャパシティやスループットの要求は、スタジアムやフェスティバル、コンサートホールなど限られた場所に非常に多くの人が集まるケースで高まります。人が移動しているところではアップリンクのキャパシティはそれほど要求されませんが、人が留まるところでは情報共有のためのデータのアップロードが集中するからです。

ノキアは、アップリンクのキャパシティを増強するソリューションを事業者に提供します。ハードウエアに手を入れずにソフトウエアだけでアップリンクのキャパシティを2〜3倍に上げることが可能です。さらにセルエッジでは10倍にアップリンクのキャパシティを上げることもできます。さらに、2015年3月に開催されたMobile World Congress 2015では、TD-LTEのアップリンクのキャリアアグリゲーションのデモを行いました。

TD-LTEにおけるアップリンク側のスループット向上ロードマップ

TD-LTEにおけるアップリンク側のスループット向上ロードマップ

──TDD方式とFDD方式は共存できるのでしょうか。

Zhang氏:TDDとFDDは、相反するものではありません。それぞれの特性を生かして共存するソリューションを提供しています。その1つとして、ノキアではFDDとTDDのLTEでキャリアアグリゲーションを行うテストを行っています。キャリアアグリゲーションによって、FDDのトラフィックをTDDにオフロードするのです。

周波数でアップリンクとダウンリンクが決められているFDDと異なり、TDDでは帯域をすべてダウンロードに割り振ることも可能です。FDDでアップリンクとダウンリンクの双方の通信を確保し、その上にTDDをキャリアアグリゲーションすることでダウンリンクのスループットを高めるといった利用法が考えられます。ピークレートを向上させるだけでなく、カバレッジの強化にもつながるソリューションです。すでにチャイナテレコムなどと共同で、マーベル製の商用のチップセットを使ったTDDとFDDのキャリアアグリゲーションの試験が進められ、260Mbpsのスループットを達成しています。

FDDとTDDのキャリアアグリゲーションを商用チップセットで実現

FDDとTDDのキャリアアグリゲーションを商用チップセットで実現

──日本の通信事業者に対して、ノキアからのメッセージは

Zhang氏:ノキアは日本でもR&D体制を強化しています。パナソニックシステムネットワークスを統合したことは大きな力になっていますし、日本にR&Dセンターを開設してさらに機能強化を図ります。パナソニックシステムネットワークス出身の人材の豊富な経験を活用して、日本の通信事業者に対してのサポートを行います。

日本の事業者がどのようなビジネスを展開するのか、どういったプロダクトを求めているのか、理解していくことが求められていると考えています。その上で、ノキアは、日本向けの新しいプロダクトも展開できる準備を整えていますし、日本のローカルサポートの強化も行い、日本市場に貢献していきたいと思います。

 

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。