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20151105jipdec-12015年9月29日に一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)は次世代電子利活用推進フォーラム内で「ビッグデータへの知的財産アプローチ」と題したワークショップを開催しました。

本テーマ第3回では、第2回に続き、ワークショップの最後に行われたパネルディスカッションにおける議論をご紹介します。

【登壇者】(順不同)

(パネリスト)
青山学院大学大学院法学研究科 客員教授 川上 正隆 氏
株式会社インテック 部長 堀 雅和 氏
特許業務法人信友国際特許事務所 所長・弁理士 角田 芳末 氏
株式会社オプテック 代表取締役会長 大原 茂之 氏
株式会社企 代表取締役 クロサカタツヤ 氏

(モデレーター)
JIPDEC 坂下哲也


パネルディスカッションでは、当日の講演に加え、パネルディスカッションから参加された角田氏、大原氏、クロサカ氏の話題提供から、まず全体が整理されました。具体的には、法的な観点(川上氏)、事業者の関心(堀氏)、知的財産(特許)の観点(角田氏)、人材育成(大原氏)、モチベーションの観点(クロサカ氏)に整理されました。

ワークショップ全体のサマリ

はじめにモデレーターから、ワークショップ登壇者からの論点等の整理がありました。

1. 川上氏のポイント(法的な観点)

・データ利用とプライバシー論がセットで扱われることとなったために、議論が足りない領域がある。
・事業者が保有するビッグデータが不正に消去等した場合、事業者ができる対応と法的な課題(下表参照)。

事業者が保有するビッグデータが不正に消去等した場合、事業者ができる対応と法的な課題

・現実的には不正競争防止法や民放民法の不法行為で対処していくことになるだろう(詳細は第1回参照)。
・知財の観点からデータについて議論するのは重要である。進めるにあたって、パーソナルデータの部分だけ個人情報保護法のガイドラインに対応しなければならないというというダブルスタンダードのようなことが起きないように留意すべきである。

2. 堀氏のポイント(実務的な観点)

・位置情報・動線情報は誰のものなのか。例えば、リアルタイムのデータを蓄積したデータベースは著作権対象外になってしまい、何かあっても権利を主張できない。
・機械が生み出すログは誰のものなのか。例えば、保守サービスを行う場合のログの所有権は、メーカーにあるのか、サービスの受益者にあるのか明確になっていない。

3. 角田氏のポイント(知的財産(特許)の観点)

・特許公報のなかでビッグデータが特許公報を検索すると296件あり、うち登録済みの特許の公報は41件ある。(ワークショップ開催時点)
・出願は増加傾向であり、早期審査請求制度を利用し、早く権利化まで進める動きもみられる。一方で、請求項のなかにビッグデータなどデータを上げているものは稀である。

4. 大原氏のポイント(人材の観点)

・データを実際に利用するのは、人であり、制度だけつくっても、そこで人が有効に機能しなければならない。そのため、データ利用についても、人材開発が重要である。
・IoT時代には技術のわかる人材が戦略を立てて、ビジネスを興せる環境を整備する必要があるのではないか。

5. クロサカ氏のポイント(モチベーションの観点)

・英米では、パーソナルデータについて人格権と財産権が両論で扱われている。
・データが組み合わされる環境では、利用者から「個人情報なので削除してください」と削除要求があった場合の対処が難しくなるが、これをどう切り分けるか、また対処していくかは、当面の重要な課題
・一方で、企業の事業資産としてのビッグデータに財産権を認める議論もしていかないと、データ利用がコストのみと感じられ、利活用が進まないのではないか。

以上の各登壇者のポイントを、モデレーターが、その場でまとめた図が下図です。

ビッグデータを利用する際の事業者側のリスク
(当日投影資料より)

この図では、各登壇者の話から、ビッグデータを利用する際にリスクが大きいと投資インセンティブが働かないため、利活用にもネガティブフィードバックがかかるような状況になってしまうため、知的財産の観点からも議論し、それに対応できる仕組みを考えなくてはいけないのではないかという点をしめしています。

また、図では、左側から、デバイス、ローデータ、分析の仕組み、解析結果というプロセスを経て、データが蓄積することを示しています。この蓄積されたデータの価値を保つことが、投資ではなくコストになってしまうと利活用のモチベーションはどうしても鈍化するという事を示しています。

ここまでの議論の整理を経て、ディスカッションが進行しました。ディスカッションでは、来場者も参加し、活発な議論が行われました。そこで出た意見を幾つかご紹介します。

来場者も参加したディスカッション

1. データそのものが特許になるのか。

ディスカッションでは、「データそのものが特許になっている事例紹介に驚いた」との意見がありました。

これについて、角田氏から、「データベース自体が特許になることはない。紹介した特許は、センサから得られたデータやデータベースに蓄積されているデータを新しいビジネスに活用するための技術である。いわゆるビジネス特許といってもよいもの。データ自体は特許されることはなく、データを有効に活用して新たなビジネスを考えた点で特許になった例を説明した。説明ではクレーム※の一部をブロック図として示したが、クレームにはそれ以上の限定的な記載が含まれているとご理解いただきたい。」と解説がありました。

※クレーム:特許を請求する範囲のこと

2. 機械学習の結果として生まれたデータの知的財産権の扱い

参加者から「ビッグデータが機械学習によって、個人情報(パーソナルデータ)により結び付きやすくなっていく指摘(川上氏)があったが、アルゴリズムが一般的なものである場合は集めたデータの質、集め方、集めた量で権利が生まれてくるというのはあるのか」という質問がありました。

川上氏から、「特許の場合は基本的に進歩性・新規性のある技術に対して付与されるので、データが特許になるということはない。データの量よりも、その背景の技術が優れた新しい技術かというところが重要である。」と解説がありました。

また、川上氏は、「技術の発明者に権利があるということは明らかであるが、AI等がつくり出した技術(発明)は誰のものか、情報(著作権)は誰のものかについては現在何も枠組みが無いことが課題ではないか。」と続けました。

3. 二者間を超えて利用されるデータの所有・利用の権利関係について

参加者から「データホルダーはデータの財産上の権利について意識しているが、一方で、個人(ユーザー)とも向き合っている。例えば、個人と媒体、媒体と広告事業社さらに分析プラットフォームの間に、データの権利関係があることをどのように捉えたら良いのだろうか」との質問がありました。

20151105jipdec-4川上氏からは、「データの利用に関する契約では、データのオーナッシップについての権利を契約の中で主張するケースは多い。問題が発生するのは、パーソナルデータ流出等のインシデントが起きた後である。その場合、その権利主張は第三者には難しいのではないか。パーソナルデータや、データを提供してくれた個人から見た場合、元データは私が提供したのだから私個人のものだろうという考えになる。媒体に提供したデータが当該社に流れて、そこで流出したとしても、ユーザーからしてみると、(自分と向き合っている)媒体の管理責任と映ってしまう。このことから、二者間の契約上主張される権利と、対外的に通じる権利では意味が違ってきてしまう。」との指摘がありました。

ワークショップの最後では、参加者から、「法制度を創ろうと思うと時間がかかる。ビッグデータは排他権ではなく、投資を保護するアプローチ、つまり不正競争防止法のフェアユースの考えのもと活用を促進すべきではないか」という提案があり、提言をまとめるような活動の必要性が示唆され、登壇者・参加者を含め、次回開催を確認しました。

ワークショップを通じて、「データは誰のものか、という問題」から、データの財産権を認めていくことが必要ではないかという課題意識の共有ができ、評価指標の必要性や、価値の最大化にはテクノロジーが必須であり、それを作り出す人材の育成など議論すべき論点の抽出ができました。このような活動を通じて、知財から見たデータ利用の議論も起きてくることを期待しています。

 

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