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人工知能と創造性の狭間で人は

2015.11.23

Updated by Satoshi Watanabe on November 23, 2015, 21:51 pm JST

先日、白鴎大学にお邪魔して講演を行った際、お声掛け頂いた小笠原教授の研究室での楽屋話も含めて、人工知能とこれからの仕事の変化についてが話題となった。

本件、人工知能と人間の競争、あるいは役割分担はどのように行われているのかとの単体の議論も興味深いが、周辺の関連した議論と組み合わせて見取り図を作ってみると問題構造が立体的になって面白い。当日、学生向けにも人工知能との競争を軸にした議論は時間の都合上十分に出来なかったこともあるため、この場を使って少し補足してみたい。

人工知能と人の競争

まず、入口の議論をコンパクトに確認する。
本件はシンプルに理解すると、高度な知性は人間のみが持っている独自能力であり、侵されることのない聖域であったとの暗黙の前提が揺るがされて各所動揺している、というのが基本となる。

前史を振り返ると、人間と機械との議論が産業革命以降長く行われてきた。人が体を使って行う作業を大規模且つ高速に機械が代替することによって、労働力としての人間はお払い箱になってしまうとの議論である。中高の歴史の教科書をめくるとラダイト運動などの事件についても普通に載っている。機械の普及は、人間の仕事を頭を使う仕事、ホワイトカラー業務の方にシフトさせる変化を生み出した。

人工知能が高度な情報処理を担えるところまで発達してきたところで、このホワイトカラー業務についても機械とコンピュータがゆっくりと代替し始めている。また、サービス業務についてもロボットと人工知能を組み合わせることで一般に考えられているよりも広い分野で代替が起きてしまうのではとの議論がここ数年盛んに交わされている。

肉体労働は無くなり、ホワイトカラー業務もサービス業務も何もかにも人間から奪われてしまう、人類はアイデンティティを失い、果ては人工知能が人間の知能を上回るシンギュラリティの訪れにより人間はそもそもこの世から必要とされなくなってしまう、というのが描かれている恐怖のシナリオである。

新しい人間の役割と学び

実際のところ、変化がどの程度まで進むのかについては現時点で全てはっきりとしている訳ではない。故に各所で論争が起きている。しかし、最終的な到達点と程度はともかく、変化は既に始まっているというのは緩やかなコンセンサスを得ている。この10年15年で言うならば、人工知能と人間はどのように役割分担を進めていけば、人間が幸せを感じ、且つ世の中が平和で効率よく回るのかとの議論が必要とされている。

つまり、新しい人間の役割とは何かを問いかける設題である。

この設題は、隣で起きている、仕事に関する知識とスキルのあり方についての議論と親和している。これからの仕事と学びについての動きを簡単に振り返りたい。

背景となるのは、事業環境が短いサイクルでめまぐるしく変わるのが常態化してしまっており、身に着けたスキルや知識がじき通用しなくなる、若いころ身に着けた仕事能力でキャリア全体を全うできなくなってきているとの理解が広がっていることである。

ちょうど技術的にもデジタル化されオンデマンド化された学習環境が広範に整う状況が生まれていることもあり、継続的な学習とスキルの獲得や学び直し、過去の経験が新しい環境対応を邪魔しないためのアンラーニングといったフレーズがゆっくりと共通理解に至ろうとしている。

こちらの議論からすると、人工知能の出現というのは確かに過去なかったパターンではあるものの、いずれにせよ新しいスキルと仕事の仕方を身に着けなければならないことには変わりない、との理解が導き出せる。人工知能云々の前に、人間は自分達の課題で既にいっぱいいっぱいなのである。

人に残されたラストリゾートは何か

人工知能という新しいパートナーあるいはライバルを得、めまぐるしく変わる環境に対応すべく継続的な学習が要されるように世の中変わってきた、とシンプルに理解をまとめたとして、では人間がすべきことの軸になるのは何なのか。手当たり次第に新しいことを学んでいけばいいのか。

はっきりとしたコンセンサスは得られていない設題であるが、度々出てくるのは、創造性というキーワードである。人に残されたラストリゾートは新しく何かを思い描き生み出していく創造性ではないか、と。

創造性が鍵であるとの議論は、デザインやクリエイティビティへの注目がビジネススキルとしても近年高まっている流れともまた符号する。

人工知能とロボットの本格普及の兆し、変わる仕事観と学び、クリエイティビティへの注目といった動きは必ずしも連動して起きているものではないが、まとめて眺めてみるとひとつ大きな方向性を指し示しているように見えて興味深い。

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渡辺 聡(わたなべ・さとし)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任助教。神戸大学法学部(行政学・法社会学専攻)卒。NECソフトを経てインターネットビジネスの世界へ。独立後、個人事務所を設立を経て、08年にクロサカタツヤ氏と共同で株式会社企(くわだて)を設立。大手事業会社からインターネット企業までの事業戦略、経営の立て直し、テクノロジー課題の解決、マーケティング全般の見直しなど幅広くコンサルティングサービスを提供している。主な著書・監修に『マーケティング2.0』『アルファブロガー』(ともに翔泳社)など多数。

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