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「大都市交通センサス」で感じた公的統計IoT化の必要性と難しさ

2015.11.22

Updated by Asako Itagaki on 11月 22, 2015, 17:41 pm JST

11月17日から19日、首都圏・中京圏・近畿圏で5年に1度の「大都市交通センサス」の利用者調査が実施されました。たまたま私はこの期間中出張のため京都におり、調査票を17日に京都、19日に東京の2ヶ所で受け取ることになりました。調査票は駅の改札から出てくる人を対象に配布されていました。

調査票には「調査票を受け取られた日の鉄道を利用した移動についてお答え下さい」という注意書きがありました。インターネット回答もできるそうでURLが記載されていましたのでアクセスしてみると、調査票を受け取らなかった人でも鉄道を利用していれば回答できると書いてありました。

▼回答入力用URLにアクセスしたところ。調査票を受け取らなくても回答できる場合について書かれている。
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改札出口での調査票配布であれば回答者が「鉄道利用者」であることは間違いないですが、インターネットのメールアドレスのみの確認ではそこが担保されないんだけど大丈夫なんでしょうか。ともあれ自分は調査票を持っていたので、東京で受け取った調査票に印刷されたIDナンバーを入力して19日の移動状況を回答し、送信しました。そこで思ったのが、「もう1枚の調査票には回答してよいのだろうか?」ということです。

調査票には「複数枚受け取った場合は1通のみ返信下さい」と書いてあるのですが、国土交通省のサイトにある過去の報告書を見ると、データは首都圏・中京圏・近畿圏別々に集計されているようです。なので、17日の京都で受け取った調査票についても、回答すれば近畿圏のデータとして有効になるのかもしれないと思ったのです。

インターネット調査の件で感じた疑問も合わせて、同封された記入例にあったフリーダイヤルに電話をして聞いてみました。

よくわからない問い合わせ窓口の回答

電話に出た人(女性)は「もしもし」と言ったきり名乗らず、こちらから「大都市交通センサスの問い合わせはこちらでよろしかったでしょうか?」と聞くと「はい、何でしょうか」という対応でした。まずは別エリアで受け取った調査票の扱いについて聞いてみました。

Q1:たまたまこの期間中出張で東京から京都に行っていたので、調査票2通、違う日に東京と京都で受け取ったのですが、回答は両方書いてもいいんですか?
A1:どちらでも構いませんが任意の1通でお願いします。記入されるのは出張で使われた経路でも、普段通勤や通学に使われている経路でも、どちらでも構いません。

……どちらか任意の1通にしてください、というのはいいとして、記入内容が実際の乗車経路でも普段使っている経路でもいいというのはヘンです。たしかに記入例には「1回めの移動目的が通勤・通学で、普段使っている経路が運休の場合は普段の経路を」みたいなことが書いてますが、「通勤・通学以外の移動目的の場合は当日の利用状況を」とも書いてあるわけです。

また、インターネット回答の場合、調査票に印刷されたIDナンバーでエリアが振り分けられて、エリア外の住所や交通機関については「その他」扱いで詳しく回答できない設計になっています。つまり、京都の調査票IDで首都圏の移動について回答しようとしても、ほぼ情報量が無い回答しかできなくなります。その意味でも「任意の1通で、普段の経路でもたまたまその日の経路でもOK」というのはまずいんじゃないでしょうか。

既に「このコールセンター、ほんとに大丈夫か?」という気分だったのですが、せっかく電話をしたのでインターネット回答についても「家族が調査票を受け取ってないけど回答したいと言っている」という設定で質問してみました。

Q2:うちの家族がこの調査票見て回答してみたいといってるんですが、紙がなくてもインターネットで回答できますよね?
A2:インターネット回答は調査票番号を入力していただかないと受け付けられませんが。

Q3:インターネットの受付画面に『調査票がない人』の選択肢があって、メールアドレス入力すると回答できるようになってますけど?
A3:個人情報をいただいて構わなければそれでも回答できます。

Q4:調査票には「調査票を受け取られた日の鉄道を利用した移動についてお応え下さい」と書いてありますが、インターネットの回答は12月18日まで受け付けてますよね。「調査票がない人」はいつの移動について答えれば良いですか?
A4:11/17から19の間の任意の日について、思い出して回答お願いします。

A2を聞いた時点で「この窓口の回答は信用できない」と見切りをつけたので、自分で「調査票がない人」の回答画面を確認してみました。(※回答データの送信はしていません)

最初にメールアドレスを入力すると、回答フォームのURLがメールで送られてきます。送られてきたURLを開くと、前日の鉄道利用について記入すること、また前日が土日・祝日の場合は、前の週の平日で鉄道または空港発着バスを利用した日の行動と考えて回答するようにという旨が表示されます。

▼登録したメールアドレス宛に送付されるURLを開いたところ。「前日の利用状況についてお伺いするものです」と書かれているので、素直に解釈すれば「回答している日の前日」の状況について回答を求められていると思うだろう。
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この次の画面で「いつのご利用についてですか」と日付を選ばされます。それはいいのですが、表示されているカレンダーは11月20日以降の日付も表示されており、選択可能になっています。そしてここに来るまで、画面上のどこにも「11月17日から19日までの日付を選べ」とは書かれていません。回答は12月18日まで可能ですから、調査期間外の情報が入り込む可能性は高いと推測します(もしかすると送信ボタンをぽちっとしたあと「期間外」と判定されてエラーになる可能性もありますが、試してません)。

国政調査も今年から本格的にオンライン回答が始まりましたが、あれは10月1日現在を想定した悉皆調査で調査票番号を全対象者が確実に持っている前提で、原票もその調査票番号で管理されていました。なので、「紙かオンラインか」という違いだけで、オンラインだからといって「回答者が本当に調査対象者なのか」「調査対象期間はいつからいつまでなのか」という問題は発生しませんでした(虚偽回答が混ざる可能性はもちろんありますが、それはオンラインでも紙の場合と変わりません)。しかしこの大都市交通センサスは違うはずです。回答者の利便性を考えてオンラインでも回答できるようにしたのかもしれませんが、それで設計通りの調査ができないのでは本末転倒です。

なぜ「調査票を受け取った人だけがIDを入力して回答する」ではなくメールアドレス登録での回答を受け付けるようにしたのか、データをどのようにクリーニングするつもりなのか、それともコールセンターの回答が間違っているのか、確認しようと国土交通省に電話をしてみたのですが、何度か電話しても担当者不在ということで現在のところ質問できていません。

時代に合わせて変わる調査手法

大規模交通センサスは利用者へのアンケートだけではなく、鉄道・バス会社等に対するOD調査(着時間帯別駅間移動人員)、鉄道輸送サービス実態調査(路線別・時間帯別の通過電車の定員数に基づく輸送力)など複数の調査データに、国勢調査をはじめとする各種統計データを合わせて分析することで、さまざまな鉄道利用状況を明らかにしています。

▼大都市交通センサスの調査体系(平成22年大都市交通センサス 首都圏報告書 P24より
大都市交通センサス 平成22年

また、昭和35年から5年おきの調査を継続する中で、交通インフラや社会状況の変化に合わせて調査手法や調査項目を変えています。報告書がインターネット上で公開されている中でも、第9回(平成12年実施)までは「定期券所持者」を対象とした調査で、原則として「定期券販売所における定期券購入者を対象としたヒアリング調査」だったのが、第10回(平成17年実施)から定期券利用者と普通券利用者の両方を対象にした現在の方式(調査票配布・郵送回収)に変更されています。そして今年はスマートフォンやタブレットによる回答も可能になりました。

「今や鉄道利用者のほとんどがICカード乗車券なんだから、調査票を使ったアンケートなんて無駄だし廃止すべき」という意見もあるようです。しかし、報告書の内容を見ると、アンケートの回答は「出発地から駅までの交通手段と所要時間」についての分析や、乗り換え実態調査のための基礎データ(前回アンケートの結果を元に乗り換えのモデルケースを設定し、ラッシュ時とそれ以外での所要時間や移動距離を実際に調査する)として活用されています。また、今回の調査からは(おそらく訪日外国人の増加を見越して)空港バスの利用状況と、訪日外国人も対象に加えることになりました。こうした点を含め、「三大都市圏における公共交通政策検討の基礎資料」とするための調査だそうですから、ICカードによる改札通過時刻の記録と列車運行状況の照合だけでは少々不足のようです。もちろん、個別の移動履歴データを統計用に提供することは目的外利用にあたるという大きな問題もあります。

「大都市交通センサス」の根拠法令は「統計法に基づく一般統計調査」ですが、公的統計については平成26年に閣議決定された「公的統計の整備に関する基本的な計画」でオンライン調査推進がうたわれています。そんな背景もある今回の調査のあやふやさは、従来の紙の調査票によるアンケートからオンライン調査に手法を変える過渡期だからなのでしょうか(それにしても税金使って整備している統計なんだから、もう少しちゃんとやってくれよと思いますが)。

ともあれオンライン調査というのも過渡期の姿で、将来はビーコンとスマートデバイスを併用して、「事前にアンケートをとって、同意を得た人の特定の日の移動経路とをビーコンで追跡する」などの方法で、もっとスマートに正確なデータが取得できるようになるでしょう。と、さらっと書きましたが、その時に一番ハードルになるのは「事前の同意」です。同じ「自分の行動履歴を渡す」にしても、自分でアンケートに回答するのとセンサーにトラッキングされるのでは心理的なバリアの高さが全然違います。そして一度仕組みができてしまえば、「黙ってスイッチをオンにされて同意なしのトラッキングが国家や警察によって行われ、個人の監視に使われるのではないか」という疑念もつきまといます。法律と制度の整備だけでなく、「技術的にブレーキをかける仕組み」と「センサーでトラッキングされることへの社会的合意」がなければ、公的統計のIoT化はまだまだ難しいと感じたのでした。

【関連情報】
大都市交通センサスの調査概要(国土交通省)

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。