IP500 Alliance日本支部プレジデント 豊崎 禎久氏(前編):IoTビジネスの主役はOEMメーカーになる
日本のIoTを変える99人【File.006】
2015.11.24
Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on November 24, 2015, 17:20 pm JST
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IP500 Allianceは、ドイツのベルリンに本部を置く標準化団体で、ベルリンの他、サンノゼ、ニューデリー、東京に支部を置く。メンバーはASSA ABLOY、BOSCH、GEZE、Honeywell、Siemensなど欧州の企業を中心に約40社が参画しており、日本からはオムロン、富士通、ローム、豊田通商、スタビリティの5社が参画している。2005年からIoT/M2M向け通信規格の策定に向けた活動を開始し、2014年にはOEMメンバー向けに商業プロダクト(モジュール)の提供が始まっている。
日本でもIP500対応の920MHz通信モジュール「CNX100」が技適を通過しており、さらに世界初のデュアルバンド(920MHz/2.4GHz)通信モジュール「CNX200」のサンプル出荷も始まるなど、ソリューション開発の準備は整いつつある。また、今後は日本企業が独自に強い技術・市場を持つ減災市場、東京オリンピックに向けたエンターテインメントやスマートビークルなどへのソリューション開発を通し、ドイツと日本がハイテク分野で手を組んで米国に負けない世界標準を目指していくとしている。
この動きを日本で牽引する、IP500 Alliance Japan/ Asia Pacific プレジデントの豊崎禎久氏に、その目指すところについて聞いた。
IP500 Allianceは、ドイツのベルリンに本部を置く標準化団体で、ベルリンの他、サンノゼ、ニューデリー、東京に支部を置きます。メンバーはASSA ABLOY、BOSCH、GEZE、Honeywell、Siemensなど欧州の企業を中心に約40社が参画しており、日本からはオムロン、富士通、ローム、豊田通商などが参画しています。2005年からIoT/M2M向け通信規格の策定に向けた活動を開始し、2014年にはOEMメンバー向けに商業プロダクト(モジュール)の提供が始まっています。
近距離無線通信にはBluetoothやZigBee、Wi-SUN、Z-Waveなど多数の規格が混在していますが、IP500は500kbps程度の比較的高速な通信で距離10メートルから500メートル程度のエリアを広域にカバーし(規格上は500メートル/1Mbpsの通信が可能)、物理層にはIEEE802.15.4、IPv6接続には6LoWPANを採用して相互接続性を確保した低コスト・低消費電力な1000から2000ノードの大規模メッシュネットワークを構築することが特徴です。
マーケティング的には「IoT3.0」として、セーフティとセキュリティ(防犯防火)にフォーカスし、ビルオートメーション用の通信プロトコル標準であるBACnetやEUの防火防犯認定規則であるVdS(Vertraven durch Sicherheit:ドイツ語で「セキュリティによる信用」を意味する)とドイツ電気技術者協会(VDE)にも対応しています。ドイツ電気電子情報技術委員会(DKE)がスマートビル&スマートホーム管理システムの標準規格として認証した唯一の規格でもあります。
ドイツのDKEが唯一の規格として認めたということは、IP500に準拠していないソリューションは、ドイツでビジネスエントリーができないということです。一方で、日本のビル管理システムの現状はというと、国際規格のBACnetをモディフィケーションしたプロトコルを採用しているので、日本で作ったビル管理システムはそのままでは国外では使えないガラパゴスなんです。GoogleがNestを買収したのもこの分野のソリューションを意識しているはずですが、彼らが見ているのは第一にアメリカ市場です。そしてヨーロッパにはやはりそのままでは出ていけません。
BEMS、HEMS、ビルオートメーションとスマートフォンを誰がつなぐのかという話ですね。私がこの規格を日本に入れようと思ったのは、ドイツと日本は自動車やカメラ、インダストリー分野で技術的には元々近しいところにあり、ドイツ政府が認定した国際IoT規格を活用することで、日本企業がグローバルなビジネスができるのではないか、また国内でも新たなビジネスが誕生するのではないかと考えているからです。
IoTというキーワードには2年ほど前から注目していて、個人的に主宰している「ニッポン半導体再成長させる会」というイベントでもテーマとして取り上げていました。IoTで日本の半導体産業を再興したいと真剣に考えてきました。
いま、日本のICTは技術もサービスもアメリカから入って来ていますが、このままでは日本のフィールドはなくなります。IoTでは今後セキュリティの問題が明るみに出るX-dayが必ず来る。もし日本が単独でがんばっても、かつての半導体産業と同様にアメリカにつぶされます。
でも欧州ならアメリカにもの申すことができます。世界を席巻するGoogleに対して独禁法で歯止めをかけるなど、正面からアメリカと戦える。日本は欧州と組むことで、IoTの世界でもアメリカに蹂躙されるのではなく、世界で活躍できると考えました。その思いをIP500 AllianceのHelmut Adamski(ヘルムート・アダムスキー)CEO&会長が理解してくれたんですね。
▼日本でのIP500 Allianceの戦略について説明するヘルムート・アダムスキーCEO&会長。
ヘルムートとの出会いは、私が招聘教授をつとめていた慶応大学の先生のご紹介です。彼らがスマートビル管理のマーケットに注目していることに関心を持ちました。日本ではビル関連のお客様は要求が厳しく、日本メーカーはそれを乗り越えてきました。きちんとしたものづくりができる日本企業と、ドイツの安全な無線規格を組み合わせることで、ビルマーケットに革新的かつ、価値あるソリューションをもたらせると評価したのです。
2014年の11月に彼が私の主宰するイベントに参加するために自費で来日したことで、彼も本気だということが分かりました。本格的にヘルムートとIoTによる日本ハイテク産業再興のためのグランドデザインを描く作業に入りました。
グランドデザインの形ですが、まず、日本が強い産業をより強くしていかなくてはいけません。日本の製造業は、ネットとつながらないものづくりのレガシーな分野で活躍されています。言い換えると、未来戦略に対するものづくりができていません。単純なスマートフォンなどのネットでつながるものづくりでは負け組です。
シスコの予測では、IoTでネットにつながるデバイスの数が爆発的に500億個(2020年)増えるとされています。ウェアラブルデバイスなどの新たなIoTベースの機器は、新たなビジネスを生み出します。その中で日本企業がグローバルに活躍するためには、あらゆるところにセキュリティとセーフティを入れていくしかありません。
ノード端末からクラウドまでの中で、半導体を含めたセンサー部品では利益を生み出すことはできません。シスコとIDCの予測では、IoTによってクラウドに集約されるデータ量は44兆ゼタバイトと言われています。このビッグデータを人工知能で分析して機能を提供するところに新しいビジネスがあります。
それはたとえば煙感知器のデータから人工知能が火災を感知し、適切に人を誘導して消防車や救急車を呼ぶといったアクションを起こすといったことです。センサーがメッシュネットワークでつながり、通信回線が絶対に切れない技術が必要となります。また、規格上相互接続性を完全に保証する必要があります。
IP500はそれを実現した規格です。OEM側、そして最終ユーザーの要求が盛り込まれているのです。そして現在の規格をベースに、スマートシティ、プラントや工場の計測・制御分野、ホームオートメーションおよび各種産業分野、医療分野向け管理監視などの幅広い応用分野を目指しています。
▼IP500の4つのターゲット市場とOEM分布
私の課題の一つは、IP500という規格をまず日本で認知させ、2020年を見据えてオリンピック会場や空港でのアクセスコントロールや対テロ対策などを含む安全分野でのIoT活用を実現することです。米国企業が開発しているボディスキャンなどのシステムも現在はスタンドアローンで、クラウド側と接続するネットワークに接続されていません。経営トップに対して、新しいネットワークに接続することの重要性を啓蒙、教育・ビジネス提案していくための時間が必要です。
【参考動画】IP500 Alliance 説明会でのプレゼンテーション(2015年10月)
(後編に続く)
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