株式会社ソラコム 代表取締役社長 玉川 憲氏

株式会社ソラコム 代表取締役社長 玉川 憲氏(前編):ICTとは遠かった業界とIoTを近づけたい

日本のIoTを変える99人【File.008】

2015.12.18

Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on 12月 18, 2015, 17:23 pm JST

株式会社ソラコムが2015年9月に発表したIoT向け格安モバイル通信サービス「SORACOM Air」は、「NTTドコモのMVNOとして、L2卸契約接続で、MVNOに必要なデータセンター機能をアマゾンウェブサービス(AWS)上に実装する」という、これまでの通信事業者の常識とはかけ離れた構成で話題をさらった。AWSのエバンジェリストとして活躍してきた玉川氏が、新たなステージとしてなぜ「IoT向けモバイル通信」という分野を選んだのか。

株式会社ソラコム 代表取締役社長 玉川 憲氏

玉川 憲(たまがわ・けん)
株式会社ソラコム 代表取締役社長。2010年にAWS日本市場の立ち上げにエバンジェリストとして参画。2012年より、アーキテクト、トレーニング、コンサル部隊を統括。2015年、株式会社ソラコムを起業し、革新的なIoTプラットフォームの開発に従事する。Amazon クラウドデザインパターン(CDP)の発起人。元IBMソフトウェアエバンジェリスト。

世界を変えるプラットフォームに魅力を感じていた

私がソラコムを始めるにあたって、2010年の日本市場から携わったAWSに大きな影響を受けています。5年間、AWSでエバンジェリストとして活動してきて、「フェアでオープンなプラットフォームを作るビジネスが良いものだ」と感じていました。

AWSができる以前は、新サービスを立ち上げるためには自分でサーバーを用意する必要があり、そのために数百万円、数千万円の資金が必要でした。潤沢に資金がある大企業ならともかく、スタートアップにとってはそのためのお金を集めるのに年単位の時間がかかり、その間に考えていたことが陳腐化してしまう。そんな事例をいくつも見てきました。

AWSが登場したことで、初期投資なしに従量課金で最先端のクラウドサーバーやストレージを利用してサービスを開発できるようになりました。Netfilix、Uber、Pinterest、Dropboxなど、世界を変えるようなサービスが次々と誕生しました。AWSは文字通り「世界を変える」プラットフォームでした。そこに魅力を感じていました。

2000年頃と同じ課題がまだ立ちはだかっていた

一方で、世の中全体を見渡すと、IoTの動きがおもしろかったのです。IoTを構成する要素はクラウド、モノ、インターネットの3つです。

クラウドは進化して、データ保存コストは2006年に比べると10分の1以下になりました。データベースにデータ保存するためだけにコストをかける必要がなくなり、「とりあえずデータを置いておく」ということが可能になりました。貯めておいた過去のデータを分析して、さまざまなことができるようになりました。

モノの方も、スマートフォン、タブレット、スマートウォッチ、ドローンなど、少し前には考えられなかったようなデバイスがたくさん出てきました。また、Makersムーブメントや3Dプリンターの普及などでプロトタイピングのコストも下がっており、アイデアを形にすることが以前とは比較にならないほど低コストで手軽にできるようになりました。

おもしろいモノを作ってインターネットでクラウドにつなぐとすごいことができる。わくわくする世界ですし、さまざまなチャレンジをしている人がたくさんいます。

ところが、IoTをやろうとすると、1つ課題が残っています。インターネットへの接続です。IoTはInternet of Thingsですから、インターネットに、そして、クラウドに接続することが大前提です。有線接続や光のネットワークがどこにでもあるとは限らないし、無線LANもセキュリティ面の問題や、SSIDをセットする必要があるためどこでもつながるわけではないという点で問題があります。一番簡単で、どこでも同じように使えるのはモバイル通信です。

しかし、携帯電話会社のサービスは人が使うスマートデバイスを接続することを前提としており、モノの接続向けのサービスは未成熟でした。それほど高速でなくてもいい、データ量はそれほど多くない、常時ではなく一定間隔でのデータ送信でいいといったIoTでの接続に見合った、「使った分だけ支払う」料金体系は誰にでも解放されているわけではありませんでした。クラウドとモノが進化して低コストになったのに、ネット接続コストだけがAWS以前のサーバーコストのように立ちはだかっているのです。

私が2000年頃IBM基礎研究所で「Watchpad」という腕時計型コンピューターの開発に携わっていた頃にも、大きな課題の一つがインターネット接続でした。進化の早いICT業界なのに、15年前の課題が未だに残っているという状況を、プラットフォームサービスとして解決したい。その思いが、ソラコムを創業したきっかけです。

「なんでもできます」と言っていた自分がやってみよう

株式会社ソラコム 代表取締役社長 玉川 憲氏

AWS上で開発することは最初から考えていました。先ほどもお話ししたとおり、AWSがあったから世界で活躍するスタートアップがたくさん出てきたのに、その中に日本のスタートアップはほとんどいないんですね。最近になってようやくメルカリやスマートニュースが出てきたぐらいで。

今まで自分はAWSのエバンジェリストとして、「なんでもできます」と言ってきたんだけど、実際には日本から(AWSを使ったスタートアップは)あまり出て行けていない。それはなぜなのだろうと考え、だったら自分でやってみようと思いました。

理由を私なりに考えてみたんですけど、アメリカのスタートアップ界隈では「キャリアを積んだ人、スキルが高い人は、スタートアップで社会を良い方向に変えるのが一番チャレンジングで素晴らしいことだ」という意識がありますから、優秀な人がどんどんチャレンジする土壌ができています。また、たとえ大企業の中にいたとしても、銀行の中にさえスキルが高いエンジニアがいて、インターネットを活用したサービスを内製していく動きもあります。

一方で、日本では優秀な学生は大企業に行ってしまうし、優秀なサラリーマンが40歳ぐらいで外に出てスタートアップになる、というケースも稀です。企業内で新規事業をやるといっても、日本の大企業の場合、製造業、自動車業界など、さまざまな業界に素晴らしい企業はたくさんありますが、インターネットテクノロジーにも長けている会社はあまりありません。なので、企業内起業でインターネットを活用していくという方向になかなかいけない。ICT業界と既存の業界が(スキルも人材も)きっぱり分かれてしまっているというところがあるのではないでしょうか。

ソラコムはネットワークやモバイル通信を好きなときに好きなだけ使えるようにすることで、自動車業界など、ICTとはあまり近くなかった業界が、IoTに取り組むときの敷居を下げる役割を果たして行けると思っています。なので、今のような状況も変えていけるのではないかなと思っています。

サービスを提供することで新たなニーズが見える

我々は「モバイルの通信をできるだけ使いやすく、安く提供する」ということに取り組んでいます。そのためにまず、SORACOM Airを提供しました。提供したことで、さまざまなニーズが見えてきました。

例えばセキュリティです。多くのデバイスが、物理的にばらばらな場所に存在しており、なおかつそれぞれのデバイスは例えば位置情報を持っている自動車だったり、売上情報を持っているレジ端末だったりする。大切な情報なので、クラウドにデータを保存する時にはセキュアに接続したい。そんな課題が見えてきたから、SORACOM Beamを出しました。モバイルとクラウドを組み合わせることで、デバイスの負荷を下げて暗号化するというソリューションは、IoTの玄人には受けています。

そういうものを出すと、「より低消費電力で通信したい」「SIMをデータを送るためだけでなく認証に使いたい」といった要望が出てきます。そうした要望に対してはサービスとして対応していきます。お客様の要望から次に実装する機能が生まれていきます。

AWSも、AWS IoTという、モノ向けのクラウドサービスを発表しました。ソラコムのお客様からは当然、AWS IoTとソラコムの連携が欲しいという要望が出ましたから、AWS IoT連携をすぐに出しました。お客様の要望と市場変化に合わせて作っていけば、いくらでもやることはあります。

新サービスを提供するだけでなく、グローバル展開も考えています。日本のお客様からはグローバルで使いたいという声がありますから、ソラコムが足かせになることがないよう、世界中でサービスが提供できるようにしていきたいと思っています。

パケット交換機能などは全部クラウド上にあるので、キャリアの基地局を借りることさえできれば世界中どこでもサービスを提供できます。具体的なスケジュールは未定ですが、日本におけるNTTドコモと同じような契約ができるキャリアと組んで、市場的にも需要が高い国を見極めて展開したいと考えています。

IoTがバズワードかどうかは本質的ではない

「IoT」って、今はバズワードにすぎないと思っています。昔はSOAやクラウドもバズワードと言われていた、それと同じですね。でも、SOAはバズワードのまま終わったけれど、クラウドはそうじゃなかった。

なぜクラウドがバズワードで終わらなかったかというと、AWSやSalesforceなどの成功した企業が出てきたからです。同じように、IoTも5年後に成功している代表的な企業があればバズワードじゃなかったということになるでしょう。それだけのことなので、バズワードかどうかって、あまり本質的なことではないですね。

私も含めて、クラウドで活躍していたプレイヤーがどんどんIoTに移ってきていると言われます。プレイヤーとして一番面白いのはテクノロジーと市場が整ってそこに今何かが現れようとしている時で、ここ数年でどんどん進化してきたクラウドはまさにその「おもしろい時期」だったのです。そして大きな問題をたくさん解いてきました。

そして今は、IoTという、モノをインターネットにつないで、クラウドにつなげば何かすごいことができるんじゃないか、という、まさにテクノロジーと市場が整った状況にあります。だから、クラウドの先端で面白がっていた人たちが、今、IoTが面白いと言い始めているのだと思います。

▼発表会直後に開始された展示会でのソラコムブース。国内のクラウドプレイヤーの多くが参集していた。
発表会直後に開始された展示会でのソラコムブース

後編に続く

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

特集:日本のIoTを変える99人

IoTは我々の暮らし、仕事、産業をどう変えるのか。またどのような技術やソリューションが生み出されているのか。これから乗り越えるべき課題は何なのか。さまざまな視点から、日本が目指すIoT社会の姿と今後の変革について、日本のIoTのをリードするエバンジェリスト、企業、チャレンジャーの方々に語っていただく連載企画です。

RELATED NEWS