WirelessWire News Technology to implement the future

by Category

つくることより躾(しつけ)がたいへん? - 「融通がきかない」自動運転車の話

2015.12.21

Updated by WirelessWire News編集部 on December 21, 2015, 20:50 pm JST

有名な天才ハッカーが「自動運転車を自作した」という話が先週Bloomberg Businessweekで報じられ、一部で注目を集めていた。過去に「iPhone」や「PlayStaiton 3」のハッキングに成功したこともあるジョージ・ホッツ(George Hotz)という26歳の青年が、自分で改造したホンダ車に、自作のAIソフトウェアと市販品のコンピュータやGPS、カメラセンサーなどを組み込み、わずか1ヶ月あまりで自動運転車を作り上げてしまったというこの話。青年とテスラ(Tesla Motors)のイーロン・マスク(Elon Musk)との摩擦など、面白く読ませる「味付け」がなされ過ぎている感じもし、また過去にマスクと一悶着あったことが知られているBusinessweek記者以外に誰も取材していないことなども重なって、ニュースとしてはいささか扱いに困る話のネタと感じられた。

ただ、そうしたセンセーショナルな部分とは別に、たとえば車載カメラから集まる映像データを解釈するためのプログラムについて、ほかなら数十万行にもなるものが、AI(ディープラーニング)分野に習熟するこの青年が書いたプログラムは「わずか2000行程度」といった非常に興味を惹く一節もある(中味の詳細は明かされていない)。またこの青年の天才ぶりを示すいくつもかエピソードーー十代なかばでの「Intel International Science & Engineering Fair」連続入賞、さまざまなハッキング・コンテストでの賞金稼ぎ、それにビカリオス(Vicarious)というAI関連の注目ベンチャーに加わり同分野の最先端の現状を目にして「知るべきことはすべてわかった」と実感した、といったエピソードなどからは、自動運転車の自作はまだふつうのマニア程度では到底真似できる仕業でなさそうなものの、ホッツのような個人の手にかかれば、わずか2万ドル(車体を含めても5万ドル)程度でその仕組みができてしまうという現状にも改めて驚かされた。

なお、Bloombergによると、この記事の公開後にLIDAR(レーザー光線を使ったレーダー)製品の有力メーカー、モバイルアイ(Mobileye)の株価が一時7%も下落したという。ホッツの公約通り「5ヶ月後に世界クラスの自動運転の仕組み」が登場するようだと、ちょっとした騒動が生じる可能性も考えられる。もっとも「ホッツのソフトウェアや自動学習技術が最終的にどれほど効果的なものになるかを知る手立てはない」とBusinessweek記者は記しているが。

ところで、このセンセーショナルな記事と相前後して、「融通がきかない自動運転車」の話がやはりBloombergに掲載されていた。交通法規を守って走るようにプログラミングされているいまの自動運転車には、人間のドライバーのように周囲の状況に合わせて走ったり止まったりすることがなかなか難しく、また用心深すぎて交通渋滞の原因になったり、人間には予想もつかないような動きをするのでどうしても後ろから追突されたりする、といった課題が残っているという。

こうした融通のきかなさを解決するのひとつは、自動運転車に「法規に違反してもいい場合がある」と教え込むこと。ただし、勝手に学習されて歯止めがきかなくなる恐れもないとは言い切れない。またドライバーに楽をさせる前提で開発される自動運転の仕組みならとくに問題にはならないはずだが、グーグル(Google)やユーバー(Uber)あたりが狙っているとされるドライバーレスの車輌では、こうした課題を解決しないわけにはいかない。そこで、どういう対処方法をとればいいかといった議論がグーグルやカーネギーメロン大といった自動運転車開発の最先端で続けられているらしい。

これに似た話は9月初めにNYTimesでも報じられていた。またそれを受けたかのように、グーグルではディープラーニングのテクニックを使って人間のドライバーに近い走り方をするようGoogle Carに教え込んでいるという話も9月末にWSJに掲載されていた。

ただし、いまのところこれといった有力なアプローチはまだ見つかっていないようで、今回のBloomberg記事の結びの部分には「(車載)コンピュータも、それを躾けるプログラマーもこれからいろんなことを学んでいく。また人間のほうも、いろいろ学びながらこうしたもの(自動運転車)に慣れていくことになるのだろう」というマウンテン・ビュー警察関係者の見方しか書かれていない。

ホッツ青年が書いたという「2000行程度」のプログラムのなかに、自動運転車の「融通のきかなさ」を解決する答えが隠されていたりしないかと少々気になるが、生憎とその点を確かめる手立てはない。

【参照情報】
The First Person to Hack the iPhone Built a Self-Driving Car. In His Garage - Bloomberg
Mobileye Gains After Musk Affirms Business Ties With Tesla - Bloomberg
Humans Are Slamming Into Driverless Cars and Exposing a Key Flaw - Bloomberg
Google’s Driverless Cars Run Into Problem: Cars With Drivers - NYTimes
Google Tries to Make Its Cars Drive More Like Humans - WSJ

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら