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コマツ 執行役員 スマートコンストラクション推進本部長 四家 千佳史氏(前編):建設業界の圧倒的な人手不足をIoTは解決する

日本のIoTを変える99人【File.009】

2016.01.21

Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on January 21, 2016, 13:37 pm JST

危険、熟練技術者不足、生産性の低さといった建設現場の課題を、IoT活用・ICT建機・クラウドによる見える化で解決する。建機大手のコマツの提案するスマートコンストラクション(SMARTCONSTRUCTION)が注目されている。

▼スマートコンストラクションの全体像(図版提供:コマツ)
スマートコンストラクションの全体像(図版提供:コマツ)

この取り組みを推進する同社執行役員の四家千佳史氏に、IoTが建設業界にもたらすインパクトについて話をうかがった。

コマツ 執行役員 スマートコンストラクション推進本部長 四家 千佳史氏

四家千佳史(しけ・ちかし)
コマツ 執行役員スマートコンストラクション推進本部長。1968年福島県生まれ。1991年日本大学卒業。1997年に福島県で建設機械レンタルを行う株式会社ビッグレンタル(後にBIGRENTAL)を創業。2008年にコマツレンタル株式会社としてコマツ傘下に入る。2015年1月より現職。

お客様の課題は労働力不足

弊社のスマートコンストラクションという取り組みの目的は、ひとことで言うと「お客様のかかえている課題を解決することです。ではお客様の課題は何かというと、日本ではそれは圧倒的に「労働力不足」です。直近の課題もそうですし、更に将来は間違いなくこの問題は拡大します。

労働力不足を解決する方法は2つあります。一つはお客様の生産性を上げること。そしてもう一つは建設業で働く人を増やすことです。生産性については後ほど詳述しますが、働く人を増やすことについては他の産業との人材の取り合いの中、スマートコンストラクションによって業務の安全を高めることで建設業への就職者を増やすことができると考えました。

「見える化」のDNAが産んだソリューション

コマツは2002年から販売する全ての製品に機械稼働管理システム「KOMTRAX」を標準装備してきました。全ての製品に通信機能をつけるというのは、今でいうIoTのはしりと言えるでしょう。元々弊社がもつDNAには、さまざまなものを「見える化」するということがあります。KOMTRAXは「販売した建機を見える化する」、スマートコンストラクションは「施工現場全体を見える化する」というコンセプトです。

建機のICT化を進める中で、制御のICT化にも取り組みました。建機に搭載されたICT機能により、バケット刃先やブレードなどを自動制御することでお客様の生産性向上に役立てようというのが当初の目論見でした。

もちろん、それはそれで役立つのですが、一方で現場側から見ると、コマツの建設機械は現場にたくさんある建機の中の一部、または工事全体の一部でしかないのです。建機メーカーが自社の機械を賢く進化させて生産性を上げようとがんばっても、現場に対するインパクトは薄いということに気づきました。

建機メーカーの視点を離れてお客様の視点に立つと、まず、現場全体が見えるようになっていないという問題点がそこにはありました。工事の始まりから終わりまでには人・建機・土などが関与する多くの工程があります。生産性を上げることを考える前に、まず、全ての工程を見える化しよう、そのために現場にあるモノは全てつなぐ、というのが、スマートコンストラクションのキーコンセプトになっています。

モノではなくコトをつなぐ

施工のためには計画が必要なのですが、この「計画」というのも2種類あります。一つは測量会社と建設コンサルタントが作成する施主のおおまかな計画。もう一つは、工事の落札者が実際に施工するための精緻な計画です。後者は、精密に測量をやりなおして、どのような機械を何台入れて、どのくらいの期間でどれだけの土量を動かす、といったことを綿密に決めていきます。本来であれば土量などは前者の計画の時点でわかっていなくてはいけないはずなのですが、現実にはかなりずれています。

そして工事が始まると、進捗はさまざまな要因で変わってきますから、計画通りに施工することよりは、計画に対してギャップがどのくらいあるかを把握し、必要に応じて修正することが重要になります。また、設計も現況に応じて細かく変更されます。ICT建機はある程度の自動制御がされており、作業内容もモニターできます。しかし現場にはICT化されていない建機も、人がスコップで掘っている作業もあります。現場全体の状況を見える化するためには、それらについても作業状況を把握できなくてはいけないのです。

「すべてのモノをつなぐ」と言っても、実際には作業員の方が使うスコップや他社建機の一つ一つにセンサーをつけることはできません。でも、実際にそれらが動いた結果さえ分かれば、現場の状況は見える化できます。我々にとってのIoTとは、一つの手段であって、要は「スコップや他社建機をつなぐのではなく、動作した結果、コトをつなげれば良い」と捉えています。

コマツの社内にはステレオカメラを研究していた研究者がいて、映像から刃先がどこにあるのかをリアルタイムに計算できるアルゴリズムを研究している人がいました。そうしたバックグラウンドがある社員が議論しているうちに、「ステレオカメラをICT建機に搭載して、他の建機や手作業の結果もデータ化しよう」というアイデアが生まれました。

▼ICT建機にステレオカメラを取り付け、現場全体を撮影

スマートコンストラクション開発チームは、毎月1回社長が出席するミーティングで進捗と課題を共有していますが、そのミーティングには開発部隊のトップはほとんどが参加します。いわば、全社プロジェクトと言っても良いでしょう。お客様の仕事を変える、悩み事を解消するという分かりやすいテーマには、夢があります。だから、さまざまなアイデアが出るのだと思います。

ICT施工が建設業のイメージを変える

「労働力不足を解消する」という課題に対する分かりやすいソリューションの一つが、経験の浅い人でもICT建機を使うことで難しい作業が可能になることです。先日、車両系建設機械運転技能の資格を取ったばかりの女性が、3日間で法面整形工事にチャレンジした動画を公開しました。従来は熟練技術者でなくては難しかった作業です。

この動画を見た別の業種の女性からは「女性だけの建設会社を作ってみたい」という声もいただきました。でも、女性の建設現場への進出を推進するには、ICT建機を開発するだけでは不十分なんですよね。例えば働きやすい環境を作るために大事なのがトイレで、大きな建設現場には必ず女性用トイレを設置するようにと指導されています。弊社では女性用トイレの開発にも取り組んでいまして、内閣官房が主宰する「日本トイレ大賞」で、「女性活躍担当大臣・内閣府特命担当大臣賞」を受賞しました。女性も経験の浅い人も現場で活躍できるようになれば、確実にイメージは変わってくると思います。

できなかったことができるようになれば、新しいことが生まれる

コマツ 執行役員 スマートコンストラクション推進本部長 四家 千佳史氏

私は1997年にBIGRENTALという建機レンタル会社を福島県で創業しました。2008年にコマツレンタルとしてコマツ傘下に入るまでは、KOMTRAXもユーザーの立場で利用していました。初めて見た時は衝撃で、「お客様の現場で使われている場所と状況がリアルタイムで把握できる、できなかったことができるようになることで、新しいビジネスが生まれる」と感じました。何ができるかは分からないけれど、とにかくやってみよう、と思い、最初のユーザーになりました。最後まで絵を描かずにとにかくやってみよう、というのが、私の良さでもあり悪さでもあると思います。

KOMTRAXは1998年の暮れからテストがはじまって、1999年から運用がはじまりました。ちょうどその頃にiモードが発売になりましたが、これも私には衝撃でしたね。それまで外からインターネットを利用しようと思うと、パソコンにモデムカードを刺して携帯電話で接続するしかなかったのが、携帯で直接アクセスできる。これほど便利なものはないと思いました。

iモード端末を購入してすぐに在庫検索システムを自分で作って、社員全員に使わせたりしていました。それまでは出先から会社に電話をかけていた在庫確認がその場で携帯で見られるのは便利ですから、便利なものは皆が使います。当時のiモードも、今のスマートコンストラクションもそうですが、まず課題があって、ITはそれを解決するための手段なんです。

オープンな環境作りのための標準化が課題に

スマートコンストラクションは施工のやり方そのものが変わります。コマツだけが独占的にやるという話ではなく、当然、他社も追随してくると思っています。現状は、ICT建機については各社製品化を進めるなど取り組みを初めておられますが、まだ建機だけにとどまっており、スマートコンストラクションのように現場のあらゆるものをつなぐという発想にはなっていません。ただ、これは考え方の問題なので、(スマートコンストラクションが)普及していけば他社も同様の対応をしてくるでしょう。

そうなった時、メーカーごとに排他的なしくみでは、お客様に迷惑がかかってしまいます。オープンな環境にしなくてはいけませんし、国土交通省等から働きかけて頂く必要があると思っています。

後編に続く

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