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アクシオムが目指すデータ利活用社会の実像(3)「不公平の解消」という新しい課題へのチャレンジ

テーマ13:データ流通とプライバシーガバナンス

2016.04.04

Updated by 特集:プライバシーとパーソナルデータ編集部 on April 4, 2016, 07:00 am JST

引き続き、アアクシオムのジェニファー・グラスゴー氏(アクシオム Global Chief Privacy Officer)、シーラ・コルクレイジャ氏(アクシオム Global Privacy Officer)、J・J・パン氏(アクシオムAsia Pacific Director of Privacy and Public Policy)に、同社が見る世界のデータ利活用の現状と方向性について聞く。

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二段階プロセスにより行動規範は法執行と同様の効力を得る

──日本では今回の法改正で、規制当局と業界団体が協働してパーソナルデータ利活用の適正化を進める「共同規制」という概念が提起され、注目が集まりました。法制度の整備だけでなく、執行の体系についても、検討の対象になっています。米国ではモバイル・コンテンツ分野で共同規制が進んでいますね。

グラスゴー:米国では「自主規制」という言い方をしていますね。米国外ではまだあまり十分普及したものではないかもしれません。ある業界に属する企業がルールの遵守を宣言し、それを業界で見守ることで、欺瞞的な行為を防ごうというものです。

こうした方法に、欧州を中心に批判があるのも、理解はします。ただ留意すべきは、自主規制ですべてを完結させるのではなく、それで問題が解決できない場合は、規制当局へ向かうということです。こうした二段階のプロセスを踏むことで、自主規制は法執行と同様の効力を得ることができます。だから私たちは「行動規範」と「自主規制」を同義に扱えるようにしたわけです。

単純な答えがあるわけではありません。それでも産業界は前に進まなければならないし、そうしなければ何の便益もないコストばかりが生じてしまいます。シーラが先ほど言った通り、消費者と向かい合うビジネスでは「信頼」がなにより重要です。だから私たちもその顧客も、この問題に熱心に取り組むのです。

──だとすると、「行動規範」をどのように作っていくのかが、とても重要になりそうです。

グラスゴー:法整備が不十分であることを受け入れ、そのギャップを埋めるために、行動規範の策定は不可欠でしょう。そしてそれが明示され、構造になっていけば、その断片のいくつかは、最終的に法律になるかもしれません。

──どのように行動規範を策定していけばいいのでしょうか。

グラスゴー:米国の場合ですが、まずは業界団体が取りまとめていきます。その上で、消費者団体との協調の下で、行動規範を社会的に通用するものに整え、規制当局もそれに参加していきます。この場合、消費者団体は規制当局には、何らかの執行権限が与えられるのではなく、あくまで勧告する立場ですし、そのすべてを受け入れる、というものでもありません。

コルクレイジャ:規範を得ること、正しい成果を得ること、そして懸念を明確化すること。それを実現するには、とにかく交渉が大事です。消費者団体はより遠い理想を目指し、規制当局も高度な平等を目指します。一方で事業者はもっと現実の利害を見ている。このバランスを得るための交渉が必要なのです。

公平性の保護が重要な価値になる

コルクレイジャ:興味深いのは、すでに議論が次の段階に進んでいるということです。欺瞞的行為はある意味でもはや分かりやすいと言えます。しかし「不公平」というのは、新しいトレンドであり、難しい問題ですね。これを規制当局がどう判断するか、我々も考えなければなりません。

──不公平というのは、「消費者にとって」ということですか?

グラスゴー:ある会社の業務に対して、他社が「不公平だ」と申し立てるかもしれません。実際に不公平状態か否かにかかわらず、ですね。

コルクレイジャ:業界内の協調下に構築される「行動規範」の便益の一つは、そこにもあります。当該産業内で市場がどのように機能するか、それを明確化することが、広く共有できる標準となりえますし、そこで定義された公平性が正しく保護されているということが、重要な価値となります。

──それも重要であるのと同時に、難しそうですね。米国の場合はコモン・ローが前提となるので、まだ整理しやすいかも知れませんが、日本の場合はかなり明確な定義が必要となりそうです。

コルクレイジャ:一般論ですが、「不公平」は物理的、金銭的、ないしは風評などの社会関係的な実害を伴って生じるように思えます。それがプライバシーの懸念として具体化した分かりやすい事例が、2003年に提起された行動ターゲティング広告の問題でしょう。これを、ネットワーク広告イニシアティブ(Network Advertisers Initiative)の制定を含め、規制当局の了解も含め、自主規制という形で解決できたのは、とてもいい取り組みだったと思います。

そのあともいろいろなことが起きましたが、私たちは進化できました。DAAという活動に進化させ、参照元となる規範をまとめ、モバイル広告やアプリのような新しい問題にも立ち向かってきました。最近ではクロスデバイスについても対応しています。つまり、新しい動きにも前向きに動けるのです。

グラスゴー:こうした取り組みは、おそらく将来にわたっても有効でしょう。というのは、たとえば子供向けの広告の取り組みが好例ですが、長年の取り組みが最終的に法律となって成果をもたらします。一方で、目の前で起きている問題は、法律ではないアプローチの方が実効性があるということもあるわけです。

──JIPDECもプライバシーマークを運営していますが、これは法律と近い関係にありながら、法律そのもので定められたものではありません。こうしたアプローチも、近似したものと考えられますか。

グラスゴー:プライバシーマークは、個人情報保護法のような法律の執行の具体化を、助けていると思います。これは米国としても考慮すべきものと言えますし、確かに実効性はありますね。実際、ある行動規範に対して「90%は遵守するけど10%はしない」と言われてしまうと、それは法令遵守ではないわけです。

──確かに、ある法律が、私たちの生活のすべてを考慮している、というのは、むしろ現実的ではありません。だとすると、たとえば貴社が米国で手がけるデータブローケレージのようなサービスを日本で展開するとしたら、それに向けた新たな規範が必要かもしれません。

グラスゴー:FTCが2012年にまとめた報告には、私たちも参加しました。一部では召喚や捜査だとも言われましたが、実際には何ら不正行為があったわけではなく、データブローカー業界がどのように働いているかを理解するためのものだったのです。

そしてほとんどの大企業が、そこで示されている勧告に対応できていますね。とりわけ私たちアクシオムは、おそらく他社に比べても、透明性が高かったと思います。こうした取り組みは、規制当局にとっても望ましいものでしょう。ただし予見はすべきではありません。

たとえば報告書は事業者の透明性について勧告しています。こうした勧告に適応できてない事業者は、キャッチアップが必要です。しかし適応できていたとしても、ビッグデータの利活用や新たなデータ流通には、やはり対処が必要なのです。実際、私たちは、より多くのデータ共有を進めようとしています。匿名データかもしれませんが、とにかく私たちはかつて経験したことのない大量のデータ共有の中にいます。

データブローカーにとってのベストプラクティスは、子会社、取引先、エコシステムで共存するパートナーなど、いろいろな相手とのデータ共有を想定したものでなければなりません。日々複雑化する状況への対応が必要です。

日本の第三者データ利活用市場は十分な規模がある

アクシオム, ジェニファー・グラスゴー, シーラ・コルクレイジャ

──では最後にシンプルな質問です。

一同:シンプルな質問は大好きです(笑)。

──アクシオムは日本で第三者データ利活用ビジネスを展開される予定はありますか?

グラスゴー:もちろん、考えていますし、走り出しています。そのためには日本市場が参入可能な状態にあるのかを知ることが重要です。たとえば私たちは米国での事業で有名かもしれませんが、欧州でもビジネスを展開しています。それは欧州が参入可能な市場だと判断しているからです。

市場性の判断の一つは、規模の問題です。100人の顧客候補のリストがあったとして、100通りのキャンペーンを打つなんて、不合理ですよね。企業のマーケティング担当者は、10,000人の消費者に興味があるのです。そしてそうしたマーケティング担当者のために、第三者データ利活用事業が存在するのです。日本は十分な市場規模を持っているでしょう。

課題は、やはり法制度でしょう。もとよりそれは日本に限った話ではなく、欧州、中国、その他のアジア各国のいずれでも同様です。そしてどの企業も、法解釈が定まらない限り、なかなか進出には踏み出せないものです。

それでも、2003年の個人情報保護法の成立の際、多くの不確実な要素があったものの、私はそれほど悲観的ではありませんでした。今回の改正法によって、また不確実な部分が出てきており、躊躇する企業もいるでしょう。しかし私たちはできるだけ前に進みたいと思っています。そのためには……やはり改正法を誰か翻訳してくれませんか?(笑)

──がんばります(笑)今日は貴重なお話をありがとうございました。

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