4G LTEの導入が遅れるベトナム

4G LTEの導入が遅れるベトナム – 2016年後半商用化でASEAN加盟国全てがLTEサービスを開始

4G LTE is delayed in Vietnam - Finally it'll be available in 2016

2016.06.20

Updated by Kazuteru Tamura on 6月 20, 2016, 10:26 am JST

東南アジア各国では多くの移動体通信事業者がLTEサービスを商用化しているが、ベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)ではLTEサービスの商用化が遅れている。2016年5月にミャンマーでLTEサービスが始まり、東南アジアでLTEサービスを商用化していない国はベトナムと東ティモール(ティモール・レステ)の2ヶ国のみ、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に限定するとベトナム以外のすべての国でLTEサービスを商用化している。今回はベトナムでLTEサービスの商用化が遅れる理由や今後の展望を解説する。

慎重な姿勢のベトナム政府

ベトナムの政府機関で電気通信などを管轄する情報通信省はLTEサービスの商用化を遅らせた理由を説明している。情報通信省によるとベトナムは先進国のように率先して新たな通信規格の開発に参加することは難しく、外国で開発された通信規格を導入する方針という。導入にあたっては世界的に主流となることが確実で成熟した通信規格を採用することも明らかにしている。

国際通貨基金(IMF)が公開した2015年における1人当たり名目国内総生産(GDP)ではベトナムが東南アジアの中で最下位というわけではない。東南アジアでベトナムだけが突出して経済的に遅れているわけではないが、ベトナム政府が新たな通信規格の導入に慎重な姿勢を貫いているため、LTEサービスの商用化が大幅に遅れている。

慎重な姿勢を貫く理由

ベトナム政府の慎重な姿勢には当然ながら理由がある。3Gは世界的にGSM陣営の3GPPが推進するW-CDMA方式とCDMA陣営の3GPP2が推進するCDMA2000方式に大きく分かれた。ベトナム政府の承認を経て、ベトナムではGSM陣営が推進する通信規格とCDMA陣営が推進する通信規格の両方を導入することになった。

CDMA陣営の通信規格を採用したのはS-Telecom、EVN Telecom、HT Mobileの3社だったが、HT MobileはGSM規格に転向、残り2社は最終的に移動体通信事業から撤退することとなっている。

S-TelecomはベトナムのSaigon Posts And Telecommunications Service(サイゴン郵便通信サービス:SPT)とSLD Telecomによる共同事業で、ベトナムで最初にCDMA陣営の通信規格を導入し、サービスブランドをS-Foneとして展開した。なお、SLD Telecomの設立は韓国のSK Telecomが主導しており、SK Telecomのほかに韓国のLG ElectronicsとDongAh Elecommが出資した。しかし、ベトナム政府はベトナム国営の競合企業を優遇し、また世界的にGSM陣営に対してCDMA陣営が劣勢な状況となり、SK Telecomは投資額の回収が困難と判断してS-Telecomへの投資から撤退を決めた。財政難に直面したS-Telecomは最終的に移動体通信事業から撤退した。

EVN Telecomはベトナム国営企業であるVietnam Electricity Group(ベトナム電力グループ:EVN)の子会社で、GSM陣営とCDMA陣営の両方の通信規格を導入したが、GSM陣営の通信規格に関する事業資産はベトナムの移動体通信事業者であるViettel Telecomに売却し、一方でCDMA陣営の通信規格に関しては事業の継続が困難となり撤退を余儀なくされた。なお、Viettel Telecomはベトナムの政府機関でベトナム人民軍の統括を担う国防省が所有するViettel Group(軍隊通信グループ)の傘下である。

HT MobileはベトナムのHanoi Telecomと香港特別行政区のCK Hutchison Holdings(長江和記実業)傘下のHutchison Asia Telecommunicationsによる共同事業である。移動体通信事業の開始当初はCDMA陣営の通信規格を導入したが、CDMA陣営の通信規格は運用を終了して完全にGSM陣営の通信規格に切り替え、GSM方式の導入後はW-CDMA方式も導入した。HT MobileはCDMA陣営からGSM陣営への転向に成功し、社名をVietnamobileに変更して移動体通信事業を継続している。

ベトナムではこのようにCDMA陣営の通信規格はすべて終了し、結局はGSM陣営への転向に成功したVietnambileを含めてGSM陣営のみが生き残った。ベトナムではCDMA陣営の事業は失敗と認識されており、ベトナム政府はこの失敗を繰り返さないために新しい通信規格の導入には慎重すぎるほど慎重な姿勢を堅持したと考えられる。

▼GSM陣営への転向に成功したVietnamobileの販売店。
GSM陣営への転向に成功したVietnamobileの販売店。

もうLTEを導入する時代

4Gでは3GPPが推進するLTE方式とWiMAX Forumなどが推進するWiMAX方式に大きく分かれた。いずれも世界では4Gとして競争を繰り広げた。しかし、世界的にWiMAX方式からLTE方式に転用する移動体通信事業者が増加し、4GはLTE方式が主流となることは確実だ。それでも、ベトナム政府は3Gの苦い経験があり、LTE方式の導入に関する決断を遅らせた。

すでにベトナムではLTE対応スマートフォンが増加し、ベトナムを拠点とするブランドもLTE対応スマートフォンを販売しており、移動体通信事業者がLTEサービスを開始すればスマートフォンを買い替えることなくLTEサービスを利用できるよう準備を進めている。また、Viettel Telecomは2016年5月よりLTEサービス対応SIMカードの提供を開始し、LTEサービス開始後はSIMカードを交換せずにLTEサービスの利用が可能となる。ベトナムではあらゆる方面でLTEサービスの商用化を見据えた動きが本格化している。

米国のQualcommの関係者はベトナムがLTE方式を導入する適切な時期を迎えていると意見し、またベトナムの通信業界からはさらにLTE方式の導入が遅れることになれば時代遅れになるとの意見まで出た。すでに時代遅れであることは否めないが、ベトナムはLTE方式を導入すべき段階にあると考えている。

▼LTEサービス対応SIMカードの提供を開始したViettel Telecomの販売店。
LTEサービス対応SIMカードの提供を開始したViettel Telecomの販売店。

まずはLTEのトライアルを実施

情報通信省は2015年第1四半期にLTE方式のライセンスを2015年末〜2016年初頭に交付する方針を示したが、慎重な情報通信省はまずトライアルの開始を認めた。なお、2010年後半には4Gのトライアルを5社に対して認めたことがあるが、具体的な成果は出せずに終わった。

新たにLTEサービスのトライアルを開始したのはViettel Telecom、Vietnam Post and Telecommunication Group(ベトナム郵便通信グループ:VNPT)傘下のVNPT – VinaPhone(以下、VinaPhone)、情報通信省が所有するMobiFoneの3社。また、FPT傘下で固定通信事業を手掛けるFPT Telecomは移動体通信事業に参入していないが、2016年後半にトライアルを実施する計画だ。

トライアルは各社とも実施場所が異なり、Viettel Telecomは2015年12月よりバリア=ブンタウ省の一部、VinaPhoneは2016年1月よりホーチミンシティおよびフーコック島の一部、MobiFoneは2016年5月よりハノイ、ダナン、ホーチミンシティの一部で実施している。

ベトナムではVietnamobileや政府機関である公安省が所有するGlobal Telecommunications(GTEL)傘下でサービスブランドをGmobileとするGTEL-Mobileも移動体通信事業を手掛けるが、LTEサービスのトライアル実施に関しては未定である。情報通信省と移動体通信事業者各社はトライアルの結果を検証し、LTEサービスの商用化に向けたステップとする。

▼LTEサービスのトライアルを開始したVinaPhoneの販売店。
LTEサービスのトライアルを開始したVinaPhoneの販売店。

▼LTEサービスのトライアルは未定とするGTEL-Mobileの販売店
LTEサービスのトライアルは未定とするGTEL-Mobileの販売店

▼FPT傘下のFPT Digital Retailは携帯電話小売業を手掛けており、FPT Shopを展開している。
FPT傘下のFPT Digital Retailは携帯電話小売業を手掛けており、FPT Shopを展開している。

2016年後半にようやくLTEを開始へ

情報通信省は2016年4月下旬に実施した説明会でLTE方式のライセンスに関する最新の計画を公表した。2016年第3四半期〜2016年第4四半期初頭にLTE方式のライセンスを交付し、周波数はGSM方式で利用中の1.8GHz帯の一部をLTE方式に転用すること認める方針である。

LTEサービスのトライアルを実施する移動体通信事業者は商用化に向けた準備を整えており、LTE方式のライセンスを取得後すぐにLTEサービスを商用化する可能性が高い。LTE方式の導入が遅れて通信業界から苛立ちの声も出たベトナムで、2016年後半こそはようやくLTEサービスを商用化することになりそうだ。

▼情報通信省が所有するが、民営化の計画があるMobiFoneの販売店。
情報通信省が所有するが、民営化の計画があるMobiFoneの販売店。

▼Viettel Telecom(左)、VinaPhone(中上)、MobiFone(中下)、Vietnamobile(右上)、GTEL-Mobile(右下)のSIMカード。
Viettel Telecom(左)、VinaPhone(中上)、MobiFone(中下)、Vietnamobile(右上)、GTEL-Mobile(右下)のSIMカード。

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田村 和輝(たむら・かずてる)

滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。

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