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飛行機とフェイルセーフ

2014.03.17

Updated by Ryo Shimizu on 3月 17, 2014, 22:50 pm JST

スクリーンショット 2014-03-17 22.55.57.png 前回、ああいうエントリーを書いた直後だったというのに、いま乗っているハワイ行きのユナイテッド航空880便の機内ではWiFiが使えるようになっていました。素晴らしい。

 とはいえ携帯電話の電源は機内モードではなく完全に切れという意味のわからないアナウンスは相変わらずです。

 せっかく機内でWiFiが使えるので、今日は飛行機にまつわる話を。

 以前にも書いたように、最近はすっかりエコノミーに乗るようになってしまいました。

 旅行代理店に依頼してその時最も安い航空会社の便を選ぶのが結果的に最もコストエフェクティブです。

 今回も搭乗直前にプレミアムエコノミーかビジネスへのアップグレードを提案され、ほんの少し心が動かされたのですが、エコノミーの座席がガラガラで、4人掛けの席がまるごと全部独り占めできそうだったので、エコノミーのままにしました。快適至極という感じです。

 ガラガラのエコノミーほど快適なフライトというのはちょっとなく、特に4人がけをひとりじめすると、行儀は悪いですが完全に水平に寝ることが出来ますから、ファーストクラスに匹敵する快適さです。

 そして機内でWiFiも使えるとなれば、もう自宅でブログを書いているのと全く同じ感覚ですから、ちょっとした罪悪感すら覚えます。

 最近は航空会社や機材によっては、エコノミーでもUSBやAC電源がサポートされていたり、WiFIが使えてしまったりするので、もはやビジネスクラスを敢えて選択する意味がかなり薄れてしまっています。LCCとの戦いも大変なのでしょう。

 唯一の難点は食事ですが、筆者はもう、食事は成田でうんざりするくらい食べてしまうことにして、機内では専らお酒ばかり飲むようにしています。そうすると特に空腹を感じることも、機内食にうんざりすることもなく目的地にたどり着くことが出来ます。

 とはいえ乗客の我々はいかなる場合といえど気楽なものです。
 むしろ空を仕事場とし、常時激しく動き回っている客室乗務員の方には毎度頭が下がります。

 私は飛行機に乗るのが好きではないので、とてもここを職場とすることは考えられませんが、空を職場とする人々は、飛行機に乗ることが大好きなようなのです。

 航空会社各社は、安全な運行と確実な接遇を実現するため、様々な工夫を凝らしています。
 たとえばフォネティックコード。

 飛行機の座席にはA,B,C,D,E,F ...とアルファベットが振られています。
 これを客室乗務員の方が読み上げる時には、「アルファ、ブラボー、チャーリー、デルタ、エコー」と読んで行きます。というのも、飛行中の機内には常に風邪切り音がしていますから、常に正確な音を聞き取れるとは限らないこと。たとえばそれが「A(エー)」なのか「E(イー)なのか「D(ディー)」なのか、瞬時に区別がつきにくいのです。そこで、間違いを防ぐために、わざと冗長化したフォネティックコードで、一発で正確な英字を伝えることか出来るのです。

 これは、機内電話で他の席と連絡をとるときにも使われます。
 これも聞き取りにくい電話で素早く正確な英字を伝える方法なのでしょうね。

 冗長化も、プログラミングの世界では良く出て来る考え方です。
 あえて情報を増やして冗長にすることによって、間違いを無くすのです。

 コンピュータ同士の通信では、たまに文字化けといって、途中の通信回線でデータが変化してしまうことがよくあります。そういう場合に、正しく情報が遅れているかを判別する方法として、チェックサムという記号をつけて冗長化します。通信の世界ではパリティビットという冗長ビットを付加して冗長化したりもします。

 冗長化することにより通信に誤りがないことを確認しながら通信を行うことができるというわけです。
 

 ANAでは、さらにパイロットと客室乗務員全員にiPadを配布し、そこに運行計画や各種航空機のマニュアルなどを全て投入して携行させているそうです。

 従来、客室乗務員は常に厚さ5cmもある重たいマニュアルを携行していたそうです。また、頻繁に内容が改訂され、そのたびに大量の紙の印刷と、マニュアルの差し替えが発生するなどかなりの手間となっていました。

 これがiPadに全てのマニュアルが一元化することにより、そうした煩わしさの全てから解放されました。
 しかも配布されたiPadはWiFIモデルではなく、3Gモデルなので、乗務の前日でも世界中どこからでもフライトスケジュールや翌日の転校などの見通しなどが瞬時に確認できるようになっています。

 また、航空機の客室乗務員は、機材が変更されれば必要な免許も変わってきます。ANAの場合、747、777、787など多様な機材を扱うために全ての機材のために別々に免許をとる必要があり、常に勉強が欠かせません。そういう社員教育にもiPadが役立っています。これは客室乗務員は保安要員としての役割があるため、それぞれの機材での正しい安全対策や脱出手順などを熟知する必要があるためです。

 また、燃料コスト削減などの効果も狙っているそうです。  
 確かに全乗務員がそんなに重いマニュアルを持ち歩いていたら、それだけでけっこうな重さになってしまいそうです。

 ANAの導入事例は世界の航空会社として初の試みと言われていて、注目を集めました。

 安全対策はコンピュータの世界でもフェイルセーフと呼ばれ、最も重要な考え方の一つです。
 とはいえ、多くの乗客の生命に直結する航空機の安全対策は、ことさら念入りに厳重になされていることは言うまでもありません。

 私は飛行機に乗るのは好きではないのですが、飛行機を操縦するのは好きで、ラジコン飛行機からラジコンヘリ、果ては実際の軽飛行機まで操縦したことがあります。

 飛行機を操縦すると、世界観が少し変わります。
 それまで地面にはいつくばり、平面を移動するだけの存在だった自分が、突然、三次元的な空間を移動する術を会得するのです。
 これはとてつもない興奮を生みます。

 旅客機の乗客でいるうちは、単に空飛ぶ牢獄にいるだけですが、自分で軽飛行機を操縦するとなると、これが全く、変わってしまうのです。

 軽飛行機でも、ヘリコプターでも、必ず飛ぶ前に飛行前点検を行います。これを怠ると、死に直結するわけだから真剣です。
 きっちりエルロンが動くか、ラダーが効くか、エレベーターは?フラップは?・・・と、ひとつひとつ丁寧に飛行機の各パーツが可動するか確認していきます。

 飛行機でもヘリコプターでも、万が一エンジンが停止したらどうするか、ということまで考えられて設計されています。
 ヘリコプターは、一見するとエンジンがとまるとそのまま落ちてきそうですが、たとえ飛行中にエンジンが停止しても、オートローテーションという仕組みで軟着陸できるようになっています。

 飛行機の場合、エンジンが停止しても失速していなければグライダーの要領で着陸できるようになっています。
 上手く出来ていますね。

 これもひとつのフェイルセーフです。

 ちなみに戦闘機を見ると、エンジンが一つ(単発)のものと二つ(双発)のものがあることに気付くと思います。
 かつてのアメリカ海軍では、全て双発の戦闘機を配備していました。

 これは、エンジンが停止した場合、海上では海しか着陸できる場所がないため、近くの陸地か空母まで飛ぶためにはどうしても予備のエンジンが必要だからです。また、双発の方が単純にパワーを得易いというメリットもありました。

 ところが最近は事情が変わって来たようで、アメリカ海軍でも単発のF-35を採用するようになっています。
 これは新開発のエンジンにより単発でもパワーが確保できるという点と、双発エンジンはメンテナンスの手間が二倍かかるので単純にコスト削減のため単発になったということのようです。

 ところで国際線に用いられる旅客機の機材は、双発または四発が主流です。
 これもエンジンのどちらかが停止しても、正常に運行を続けることが出来るようにという工夫の賜物です。

 特に旅客機の巨大なエンジンでは、鳥によるエンジン破壊、いわゆるバードストライクへの対策が必須です。
 ジェットエンジンは大量の空気を取込んで圧縮しなければならないため、巨大な掃除機のように前方の空気を取込みます。そのとき、うっかり鳥を吸い込んでしまうと、確実にエンジンは壊れてしまいます。

 これが意外と頻繁に起きているので笑い事ではありません。
 バードストライクで片方のエンジンが壊れたとしても、どちらかのエンジンが健在ならば運行に支障がないように設計されてはいます。が、仮に単発機だったとすると、一発で墜落ということになってしまいますから旅客機ではどうしても双発以上のエンジンが必要ということになるのだと思います。

 特に、ボーイングの傑作機747は4発ものエンジンを搭載していて、三基のエンジンが壊れたとしても残り一基のエンジンで航行が可能という点で国際線では大ベストセラーの機体となりました。実は筆者がいま乗っているユナイテッドの機体も747です。心無しか安定感が違う気がします。

 しかし四発による燃費の悪さとメンテナンス性の悪さはいかんともしがたく、後継機の777以降では双発が主流になってしまっています。

 少し寂しい気がしますが、これも時代の流れなのでしょうね。
 決して航空安全性のフェイルセーフがないがしろにされているわけではないと思いたいです。

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清水 亮(しみず・りょう)

ユビキタスエンターテインメント代表取締役社長CEO。1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

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