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知的情報処理の最前線:日本の逆転劇「量子アニーリング」研究が盛り上がる

Japanese Come-from-behind victory over the world

2016.09.06

Updated by Masayuki Ohzeki on 9月 6, 2016, 07:00 am JST

日本に量子アニーリングマシンがやってきた。前回の記事で紹介したようにハーディス株式会社がD-Wave Systems社と日本販売について提携を開始した。

それでは日本で量子アニーリングを実現する動きはあるのだろうか。

実はある。

その筆頭となるのが、今年度発足した国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業に採択された事業の一つ、IoT推進のための横断技術開発プロジェクト 「組合せ最適化処理に向けた革新的アニーリングマシンの研究開発」である。

IoT技術の発展に伴い、超大規模化するデータを分析する方法を必要とする時代が差し迫った今、データ処理に向けた専用のハードウェアの開発が喫緊の課題となる。その解決に向けたプロジェクトである。その方法として量子アニーリングが採用されたのだ。

D-Waveマシン同様に超伝導による量子アニーリングマシンの開発、日立製作所が開発して反響を生んだ半導体CMOS技術によるCMOSアニーリングマシンの推進とともに、双方の共通基盤技術とその応用を目指したプロジェクトである。日立製作所、産業技術総合研究所、理化学研究所、国立情報学研究所、早稲田大学が連携をして推進する大型プロジェクトである。

非常に興味深い取り組みである。このプロジェクトの完遂により、純国産の量子アニーリングマシン、最適化専用マシンが登場するのかと思うと、関連研究を行う人間で、冷静に見つめている人間としてもワクワクするものだ。

このような活動が日本で起こるというのは自然なことではあるが、まだまだ日本は沈まないという力強い雄叫びにも感じる。

筆者自身、強い興味を感じてメンバーに取材を申し込み、実際の声を聞いてきた。

ハード、ソフト、アプリ、三つのレイヤーで開発が進むことで、各レイヤーにおいて様々な方々がこのアニーリング技術に参入してくるでしょう。また、それぞれのレイヤーでの研究開発がよい協奏効果を生むと考えます。とても良いことだと思います。競争無くして、成長無しと考えております。スポーツにおける競争のように、相互に敬意を払い、高め合うことが、成長への道だと考えています。

と語るのは早稲田大学高等研究所の田中宗助教。筆者とも長年の付き合いがあり、ついつい対談が盛り上がったが同意見である。

第一歩が遅れたとしても、途中抜かれたとしても、頂点を目指して、広がりを持った地平線を見るまで絶えず競争をする分野でこそ、歴史に残る技術へと進化するのだ、と。日本もその競争に向けたスタートラインに立つ日が来たのだと実感する。

マシンそのものを開発しながら、なおかつユーザー目線に立ちながら、実社会での応用と連動した開発を常に意識しており、特に開発されたマシン、及び基盤技術のオープン化をしながら日本に大きなうねりを巻き起こすと日立製作所中央研究所山岡雅直主任研究員は語る。

「マシン開発とそのマシンを使うための基盤技術を広くオープンにしながら進めることで、非ノイマン型計算機(広く利用されているプログラム内蔵方式のコンピュータとは異なる方式)の新しい潮流を形成できると考えている。今回のプロジェクトでは、名前を連ねる参加者のみならず、特にユーザーを中心として広く連携しながら進める予定だ。」

筆者も研究者として量子アニーリング研究に携わっているが、あくまで理論的な側面や、応用や利用例を広げるための基礎的な部分、方法論の拡張や簡素化を念頭に置いた研究(基盤研究(B)「量子アニーリングが拓く機械学習と計算技術の新時代」)であり、マシンそのものを開発するというところからは距離がある。そういった様々なレベル、背景を持った研究者と連携をとることで日本の本来の底力を存分に発揮できると産業技術総合研究所の川畑史郎主任研究員は語る。

「現在日本国内で様々なアニーリングマシンやその類似技術に関するプロジェクトがすすめられています。当該分野において日本がイニシアチブをとるためには、プロジェクト間の横連携が今後重要になると考えています。」

日本では他にも関連して、内閣府が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のプログラムとして、「量子人工脳を量子ネットワークでつなぐ高度知識社会基盤の実現」という大型プロジェクトが動いている。実社会に利用されている最適化問題を特別な計算処理で解く専用マシンを開発しており、様々な実用例を積み上げながらその性能を評価している段階だ。マシンスペックとしてはD-Wave Systems社の現行機、D-Wave 2Xが搭載可能な規模以上の問題を解くことができる。解くためのメカニズムが量子アニーリングとは異なるため、得られる最適解の特徴が異なるが今後の進展次第では新しいパラダイムともなり得る。

まさに群雄割拠の新時代である。

来年には量子アニーリングに関連する研究成果が公表される国際会議「Adiabatic Quantum Computation 2017」が日本で開催される。

Google Los Angelsで今年開催されて大盛り上がりだったあの会議が日本に来る。

今年秋には日本物理学会において、量子アニーリングに関するシンポジウムが開催されて、日本発の最新の成果が公表される予定だ。

生き残るのは何か?その時代の変わり目に、僕らは直面している。

研究者のみならず、興奮せずにはいられないのではないだろうか?

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大関 真之(おおぜき・まさゆき)

1982年東京生まれ。2008年東京工業大学大学院理工学研究科物性物理学専攻博士課程早期修了。東京工業大学産学官連携研究員、ローマ大学物理学科研究員、京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻助教を経て2016年10月から東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻准教授。非常に複雑な多数の要素間の関係や集団としての性質を明らかにする統計力学と呼ばれる学問体系を切り口として、機械学習を始めとする現代のキーテクノロジーを独自の表現で理解して、広く社会に普及させることを目指している。大量の情報から本質的な部分を抽出する、または少数の情報から満足のいく精度で背後にある構造を明らかにすることができる「スパースモデリング」や、次世代コンピュータとして期待される量子コンピュータ、とりわけ「量子アニーリング」形式に関する研究活動を展開している。平成28年度文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。近著に「機械学習入門-ボルツマン機械学習から深層学習まで-」、「量子コンピュータが人工知能を加速する」(共著)がある。

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