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株式会社フレクト取締役 Cariot事業部長 兼 技術開発本部長 大橋正興氏

株式会社フレクト取締役 Cariot事業部長 兼 技術開発本部長 大橋正興氏(前編)いろいろなモノが「当たり前につながる世界」を前提に、顧客体験をデザインする

日本のIoTを変える99人【File.016】

2016.09.28

Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on September 28, 2016, 11:14 am JST

IoT分野で有望視される市場の一つがテレマティクスだが、この分野で注目され始めているのが株式会社フレクトだ。「名刺入れサイズのデバイスを車に刺すだけで、インターネットやクラウドにつながる」Cariot(=“Car(クルマ)”+“IoT” キャリオット)は、2015年秋から営業車両やバスの運行管理で利用実績を積み重ね、 2016年からは建設・物流業務を中心に幅広い業界で利用されている。同社の大橋正興取締役クラウド事業部長に、フレクトのIoTへの取り組みと「Cariot」が考える未来について聞いた。

株式会社フレクト取締役 Cariot事業部長 兼 技術開発本部長 大橋正興氏

大橋 正興(おおはし・まさおき)
株式会社フレクト取締役 Cariot事業部長 兼 技術開発本部長。2004年 慶應義塾大学大学院修了後、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ入社。携帯電話のミドルウェア開発に携わる。2007年 フレクト入社。2009年より取締役CTO。クラウド事業の責任者としてIoTへの取り組みを開始。 現在はコネクテッド・カー事業などIoTサービスの立ち上げ、拡大に従事。展示会、セミナー等での講演多数。

「さして、走って、見る」コネクテッド・カー アプリ「Cariot」の誕生まで

フレクトは元々Webサイト制作を主な事業としていた会社ですが、5年ほど前からSalesforceのコンサルティングパートナーとして、クラウドインテグレーションを手掛けており、Herokuでは日本のリーディングカンパニーの一つだと自負しています。IoTに取り組むようになったのはSalesforce上でのIoTサービスについて受託開発を手掛けるようになったのがきっかけでした。

中でも多かったのがテレマティクス関連の案件でした。その経験を活かし、自社ソリューションとして「Cariot」を事業化しました。「さして、走って、見るコネクテッド・カー サービス」というキャッチフレーズで、セットアップが簡単でクラウドらしいスピード感で始められることを重視しており、車のOBD2もしくはシガーソケットにデバイスを刺すだけで、クラウド上に車の運行状況が蓄積できます。OBD2に刺すタイプのものはエンジンの回転数や燃費など車両内部の情報まで収拾できます。そこまでの情報は必要がなく位置情報と速度だけが分かればよいお客様にはシガータイプの端末でご提供しています。

※コネクテッド・カーとは
クルマがインターネットやクラウドにつながる事で、クルマ自体の快適性や安全性を向上させたり、外部との情報のやり取りによるサービスを受ける仕組み。

▼Cariotの仕組み(図版提供:フレクト)
Cariotの仕組み(図版提供:フレクト)

▼車載デバイス(ODB2タイプとシガーソケットタイプ)のサンプル。刺すだけなので、外注車両への取り付けも簡単。
車載デバイス(ODB2タイプとシガーソケットタイプ)のサンプル。刺すだけなので、外注車両への取り付けも簡単。

エンドユーザの顧客体験を具体的に提案することで、お客様の「課題」を一緒に発見

フレクトの事業構成は、Cariot以外は受託開発で、その15%程度がIoT関連となります。分野としてはテレマティクス以外にも、酪農、ヘルスケア、O2O、エネルギーなど幅広くなっています。扱うものは違っても、「モノのデータを集めて、直接のお客様のみならずエンドユーザーが使いやすいアプリを作る」というエッセンスは共通しています。IoT案件を初めて受注したのは2014年夏ですが、おかげさまで引き合いは日に日に増えています。

IoT案件の難しさの一つは、「(開発前は)具体的なリファレンスとなるサービスが無い」ということです。B2Bの受託開発は通常、お客様の要件定義にもとづいて設計・開発を進めていきますが、IoTの場合お客様自身もどのようなものが出てくるのかイメージできていないケースや、さらには課題がどこにあるのか分からないケースも多いです。

フレクトが多くのIoT案件を受けることができるのは、最初5年間、B2Cのウェブサービス開発を手がけていたことで、社内にデザイナーがいて、エンドユーザ向けの顧客体験をこちらから提案するサービス開発に慣れていたからです。その提案によってお客様は自身の抱える課題や、やりたいことの具体的イメージが明確になります。さらに、エンドユーザーの使いやすさにまで、こだわる事ができるんです。

データからではなく「顧客体験」から考えるIoT開発

通常のPoCでセンサーと機器をつないでサクッと「見える化」できたとして、開発者には何ができて何ができないか分かっても、お客様から見ると「センサーをつなぎました。グラフが表示されました。でも、それで何ができるのかが全くイメージできません。」ということがよくあります。

私どものアプローチは最初にデザイナーを投入、展示会や営業資料に使えるレベルのプロトタイプを作って、利用者がシステムを使うシーンを一度トレースします。そこにセンサーを当てはめることで、お客様は初めて「IoTでこんなことができる」ことをイメージできるのです。

株式会社フレクト取締役 Cariot事業部長 兼 技術開発本部長 大橋正興氏

この手順を取ることで、お客様にとって何を実現したいかのイメージがはっきりします。また不要な要件も見えてきます。すると、センサーに求める要件がコンパクトになり、仕様が発散しないでサービスインが可能になります。「顧客体験」から始めることには、こだわりを持って徹底しています。

※PoCとは
新しい概念や理論、原理が実現可能であることを示すための試行。一般的には、試作(プロトタイプ)の前段階で、実現可能性のみを示すために行われる、不完全あるいは部分的なデモンストレーションなど。

「当たり前につながる世界」を前提に顧客体験をデザインする

Cariotのユースケースとして「営業車両管理」というのは思いつくのですが、もっと粒度の小さい生々しいユースケースは、僕らには分からない。だからといって、お客様自身に聞いたとしても実際に体験してみないと、何がどう変わるのかは想像するのが難しいです。僕らがスマホアプリの世界を知る前にLINEやUberのサービスが予想できなかったように、コネクテッド・カーを知らないお客様にコネクテッド・カーで何がどう変わるか予想できるはずがありません。

だけど実際に車がつながって、いつ、どこに、どの車がいるか分かるようになることは、お客様の業務そのものが変わる可能性を秘めています。例えばケータイのiモードでみんなが外出先でメールができるようになったことで、「今どこにいる」が分かるようになった。だから待ち合わせで長い間、相手を待つ事がなくなりましたよね。人の行動様式そのものが変わったんです。

同じように、車がつながってどこにいるか見えるのがあたり前になれば、荷卸しを待ち構える必要がなくなる。予定通りに届くかどうかもすぐにわかる。今、どうなっているかがわかるだけで、効率が上がるだけでなくストレスも減るかもしれません。ビジネスの行動様式が変わる可能性があるんです。

それは車以外のモノについても同じこと。僕らの役割は現在のテクノロジーで出来るようになったこととお客様の課題をマッチングして、「すべてのモノが当たり前につながっている世界」を前提に、顧客体験をデザインするということなんです。これからは「当たり前につながる」ことによって、業界単位、マーケット単位で様々な行動様式が変わるのではないでしょうか。僕らを含めて、たくさんの人が新しい使い方を発見して、世の中が徐々に変わっていくと思います。

(後編に続く)

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