高齢者 VR イメージ

楽しい体験と楽しくない体験 -高齢化社会をサポートするVR技術

2016.11.07

Updated by WirelessWire News編集部 on 11月 7, 2016, 06:25 am JST

今年80歳の人が20歳だったのは、60年前の1956年。プレスリーの「ハートブレイク・ホテル」やチャック・ベリーの「ロール・オーバー・ベートーベン」が流行った年だ。無論、演歌好きの80歳は大勢いるだろうが、ロカビリーやロックンロールに熱を上げた人もいるはず。高齢者福祉施設で、高齢者に童謡を歌わせたり手遊び歌を歌わせたりする様子がテレビで流れるが、昔の記憶を呼び覚ます効果に期待してのことなら、今後は山下敬二郎やビートルズの出番が増えるかもしれない。

これらの施設では運動不足も課題のようで、アスレチック施設を用意しているところもあるようだ。専門スタッフが運動指導している場合もある。

しかし、エアロバイクやウエイトマシンによる「トレーニング」は、筋力や持久力をアップさせたい若者にとっても、単調で退屈な運動だ。まして普段から運動不足の高齢者では、急に運動すると体が痛むこともある。

単にエアロバイクに乗るようすすめても、なかなかその気になれないのも無理はない。長時間ペダルを踏んだり、その運動を日々継続的に続けたりするための動機づけが難しい。この課題をVRで解決する研究がデンマークのオールボー大学で行われている。

彼らはまず、コペンハーゲンの老人ホームのエアロバイクの前に大型スクリーンを設置し、ペダルを踏むと仮想的な景色の中を進んでいるような感覚が得られるようにしてみた。速くこげば、速く進む。公園の中の芝生の間の小道を通り、蝶々や花を見ながら進んだり、松林の雪道を進んだりする。このハイテク・バイクは高齢者に好評で、坂道では、一生懸命にペダルを踏むなど、場面に応じて運動を楽しんだそうだ。

研究はさらに進んで、VRのゴーグルを高齢者に装着してもらい、四方八方を仮想現実に囲まれながらペダルを踏んでみてもらったところ、壁に向かってペダルを踏むだけのエアロバイクを敬遠していた高齢者たちが、自ら望んでゴーグルを装着するようになったそうだ。

さて、人は高齢になれば、関節が固くなり、体は思うように動かず、聴覚や視覚も衰えてくる。そこで介護従事者や、あるいは広く小売業などで接客する人々、商品開発をする人々のために、高齢者がどのように外界を捉え、動き辛い思いをしているかを実感するための高齢者擬似体験が行われるようになってきた。耳栓やゴーグル、体に取り付ける重りなど、擬似体験のためのツールも数多く販売されている。

イリノイ大学シカゴ校では、老人病専門医になろうとする学生向けに、VRを活用したツールが開発されている。20代の若い学生が、高齢の患者の気持ちを知るためにゴーグルを装着し、74歳の「アルフレッド」という人物になった7分間の擬似体験をする。

アルフレッドは聴力の衰えを、医師からは認知症の症状と誤解されているという設定。目の前の医者は何やら話をしているが、質問なのか指示なのかもクリアに聞こえない。顔のあたりには大きな黒いシミのようなものが見えるばかりだから、唇の動きも読めない。なにがどうなっているのか分からず、フラストレーションを強く感じる。

ゴーグルだけでなく、Leap Motionも使って、自分の手の動きなども体験ストーリーに組み込んである。紹介した「医師との会話」に加えて「お誕生日の歌」「白日夢」「ワインをこぼす」「待合室」「認知テストを受ける」の、全部で6つのシーンが用意されているという。

擬似体験の目的は、高齢者の治療そのものではなく、若い医師が高齢者を知ること。高齢者が現実世界をどう見聞きしているか、仮想世界で疑似体験して、実際の診断や治療に役立てることだ。

若い医学生も、老人ホームの高齢者も、同じ技術の恩恵を違った形で得ていると言えるだろう。

【参照情報】
VIRTUAL EXPERIENCE GETS THE ELDERLY TO EXERCISE
Future Geriatricians ‘Become’ Alfred, a 74-Year-Old Patient, Using Virtual Reality
East Meets West: ‘We Are Alfred’

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