original image: © EvgeniiAnd - Fotolia.com
「アップルは自動車開発を諦めていない」という見方(Above Avalon)
2016.11.24
Updated by Hayashi Sakawa on November 24, 2016, 05:25 am JST
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2016.11.24
Updated by Hayashi Sakawa on November 24, 2016, 05:25 am JST
アップルのビジネスに関する事柄だけを追い続けているAbove Avalonというサイトで、同社の自動車開発に関する取り組み(「Project Titan」)に関する考察をまとめた記事が少し前に公開されていた。
・Skating to the Apple Car Puck
同サイトを運営するニール・サイバートは近年Bloombergなどでもコメントを引用される独立系アナリスト。そのサイバートが、今年後半には開発部隊の縮小や取り組み自体の仕切り直しなどを伝えるニュースが相次いだこの話題について、「だからといってアップルが自動車の開発・製造を断念したとはいいきれないだろう」という趣旨の自説を披露している。今回はこの記事のなかから目についた点を紹介しつつ、アップルが今後打ち出す方向性について考察する。
このなかでまず目をひいたのは、アップルが「Apple Watchにつづく新分野の製品」として自動車に目を向け始めたとみられる2013年後半〜2014年前半とその後に起こった自動車業界に関する変化を列記した部分。サイバートはこれについて、それぞれ次の点を挙げている。
・テスラ「Model S」の販売台数はまだ2万1000万台程度だった。
・BMWは電気自動車(EV)「i3」の販売を開始したばかり。
・グーグルからはハンドルもペダル類もない自動運転車のプロトタイプが発表されたところ。
・ウーバーの評価額はまだ35億に過ぎなかった。
・テスラの生産能力は現在、年間10万台程度まで増加。また同社は大衆向けの「Model 3」開発にますます力を入れつつある。
・テスラのイーロン・マスクCEOは2017年末までに完全な自動運転車を実現できるとの見通しを明らかにしている。また同社は新たに生産・販売する全車両に自動運転機能を提供するためのハードウェア類を搭載し始めている。
・BMWによるiシリーズ関連の電気自動車の取り組みは勢いを失っている。
・ライドシェア・サービスの普及が世界各地で急激に進んでいる。
・ウーバーの評価額は650億ドルを上回り、ディディ・チューシンにも350億ドルを超える評価額がついている。
アップルが自動車開発を検討し始めた時点で念頭においていたのは、電気自動車用バッテリーの価格低下ならびに新たな素材や新しい生産技術の登場といった流れをうまく利用することだったのではないかとサイバートは推測している。またその時点で、同社が競合するライバルとして想定していたのはテスラとBMWで、主にソフトウェアと製造技術で差別化できる(勝算がある)と考えていたのではないか、自動運転機能についても将来的に付加することが可能な一要素に過ぎないとみなしていたのではないかとも述べている。
アップルにとって想定外だったのは、ライドシェア・サービスの普及とそして自動運転技術の実現に向けた関係各社の取り組みのスピードのふたつだとサイバートは指摘。前者については「自動車業界が2、3年前には予想できなかったほど素早くライドシェアを受け入れた」とし、また後者についても「実現するのは10〜20年先といった絵空事(pipe dream)ではなくなったようにみえる」と記している。
こうした想定外の変化を受けて、従来の自動車と同様の個人所有を前提としたEVの高級車種をこれから市場投入しても大したインパクトは期待できないと考え、アップルがProject Titanの仕切り直しを決断したというのがサイバートの推測だが、同氏がまだ販売台数で全体の1%に満たない既存のEVについて「EVを個人が所有するというあり方は、自動車版のBlackberry」などと評している点も面白い。ユーザーがEVを購入もしくはリースして利用するという姿は、携帯電話の発展型として考えられたBlackberryと同様に、あくまで過度的なもの・・・iPhoneを開発してスマートフォン(ポケットに入るパソコン)というジャンルを開拓したアップルの目にはそう映っているということだろう。
サイバートはアップルがいまだに輸送分野に極めて高い関心を持っているとし、その理由として主に次の3つを挙げている。
1)Project Titan用に購入したとみられるサンノゼ空港近くの不動産を処分していないこと
2)自動車用ソフトウェアや自動運転技術の人材獲得に力を入れていること(カナダでのQNX出身者を中心としたソフトウェア開発を含む)
3)ディディ・チューシンへの10億ドルの出資
すでにテスラが自動運転車実現を前提にしたライドシェアサービスの提供を視野に入れている。そのことが報じられている現在、アップルがそれと同様のアプローチを採ろうとしているのではないかという指摘にはあまり意外な部分は感じられない。それでも、たとえば(3)について、ボブ・マンスフィールドの責任者就任(同氏についてはこちらの記事を参照)と取り組み全体の方向転換の直後に出資の話がまとまったというのが、アップルがライドシェアサービスの存在を無視できなくなっていたことの証のように思えて面白い。また(2)に関連して、今後自動運転技術の確保の目処がたった段階で、アップルが自動車のハードウェアに関する専門知識をもつ外部企業と手を組む、もしくはそうした企業を買収する可能性が高まっているとの見方も目を引く。
サイバートは、アップルがいまだに自動車分野全体がこれからどちらに向かうのかを思案中(行き先を見定められないでいる)としつつ、製品やサービスのもたらすユーザー経験で競合他社を一気に追い抜くことは可能としている。また同社が自動車を開発・投入できるとすれば、それが「車輪付きのスマートルーム」になる可能性が高いとした上で、その場合に新しいビジネスモデルを見つけることや、新たな提携相手と手を組むことが必要になるとしている。自動車本体とならんで、このサービスに関するビジネスモデルや提携相手も注目点といえそうだ。
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登録はこちらオンラインニュース編集者。慶應義塾大学文学部卒。大手流通企業で社会人生活をスタート、その後複数のネット系ベンチャーの創業などに関わった後、現在はオンラインニュース編集者。関心の対象は、日本の社会と産業、テクノロジーと経済・社会の変化、メディア(コンテンツ)ビジネス全般。