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⑥災害時の緊急避難所としての自動運転車

2017.03.17

Updated by Shinya Matsuura on March 17, 2017, 06:00 am UTC

今の自動車は緊急避難所になり得るか

動力を持ち、内部環境を制御可能な自動運転車が居住性を備えるということは、災害時に避難場所になり得ることを意味する。ただし、自動運転車を避難施設の用途に使うためには、災害時に自動運転車をどうのように使うか社会全体でシステムデザインをする必要がある。

「車中泊」という言葉があるぐらいなので、自動車が仮の宿に使えることは、モータリゼーションの初期から分かっていた。が、それは長い間、「物好きがする奇矯の行為」だったといえるだろう。というのも、通常の自動車の車内は、エンジンを止めた状態では、それほど快適に過ごせる環境ではないからだ。長距離を走るバスやトラックの運転手が、高速道路サービスエリアなどで仮眠を取ることは一般化していたが、1980年代まで自家用車の主流だった4ドアセダンは、中で寝ることを意識した設計ではなかった。

おそらく、ごく普通の人が自動車を「寝る場所」として意識し始めたのは、ホンダが7人乗りで大きな室内空間を持つミニバン「オデッセイ」を1994年に発売してからではないだろうか。1995年1月の阪神淡路大震災では、自動車を長期の避難場所として使用する例が多数現れた。ミニバン普及につれて車中泊は一般的な行為となり、2004年10月の新潟中越地震では、自動車を避難場所として長期間居住するケースが一般化。その結果、運動不足と水分摂取不足が相まって血栓が発生するエコノミークラス症候群による死者が発生することとなった。

最近は、車中泊を前提とした設計を採用した車種も出現するようになった。ホンダが2016年9月に発売したミニバン「フリード+」は、乗車定員を5人に絞る一方で、後部座席と荷物スペースを使って、大人2人が並んで寝られるフラットな空間が作れる。

車中泊には色々なノウハウがある。ちょっとした装備と心得でかなり快適に車中で寝ることができるのだ。早い話、ウインドウにかける日除け、昆虫の侵入を防ぎつつ通気を確保するために開いたウインドウへ取り付ける網、簡単なエアマットと寝袋があって、その上で水分の補給を怠らなければ、安全かつ快適に自動車に泊まることができる。普段からこれらを車内に装備しておくのは、良い防災対策である。ただし暑い場合も寒い場合も、アイドリング状態でのエンジンの連続使用は控えるべきだ。というのも、排ガスが車内に回って最悪の場合、死に至るからである。

自動運転車を防災に活用する社会システムとは

自動運転車が実現した場合、「車内で寝ている間に移動」することが重要な機能となる。このため自動運転車は車内の就寝環境を既存の自動車よりも向上させた設計となることは間違いない。従って、自動運転車は災害時の「車中泊施設」として、現在の自動車よりも使い勝手の良いものになるだろう。

しかし、だからといって安心して良いわけではない。自動運転車の車中泊は基本的に「移動時に快適」という設計になり、現在の自動車と同じように、車内環境の維持制御に、動力を使うことが前提となるだろう。したがって災害時の避難施設として使う場合には、動力をどのようにして供給するかという問題が発生する。

解決法のひとつは、現状と同じく、着込んだり寝袋を使ったり、窓を開いて風通しを良くしたり、窓にサンシェードをかけたりして、余計なエネルギーを消費することなく環境を制御することだ。寝ることを前提とした車内設計で伸び伸び寝られる寝床が得られるから、それだけ現行の自動車よりもましというわけだ。

その一方で自動運転車のかなりの部分は制御性に優れる電気自動車になると予想される。内燃機関を動力とする自動車が、停止時にエンジンを使うと排ガスの問題が発生するが、電気自動車への電気の供給なら、送電網につなぎ込むことで可能になる。

自動運転車が普及した社会では、防災対策として、避難所に自動運転車への配電施設を用意する必要があるだろう。前回書いた、自動運転車内での就寝を前提とした宿泊施設などは、災害時に備えて余分の給電容量を持つことを、法的に義務付けてもいいかも知れない。

また、地震などで送電網が分断された場合を考慮して、自動運転車を充電出来る外部発電機を備蓄しておくべきだ。それも、できれば内燃機関を使う、うるさくて排ガスの出る発電機ではなく、スターリングエンジンのような熱効率と静音性に優れた外燃機関を使ったもののほうが良いかも知れない。太陽電池パネル、あるいは太陽熱を使って外燃機関を回す太陽熱発電機なども有望かも知れない。それぞれ利害得失があるので、一方式に絞るのではなく、様々な手法を用意しておくことが肝心だろう。

このような、社会全体としての防災体制の中に、自動運転車を前提としたインフラを作り込んでいけば、自動運転車は災害時に大変役に立つものとなるはずである。

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松浦晋也(まつうら・しんや)

「自動運転の論点」編集委員。ノンフィクション・ライター。宇宙作家クラブ会員。 1962年東京都出身。日経BP社記者を経て2000年に独立。航空宇宙分野、メカニカル・エンジニアリング、パソコン、通信・放送分野などで執筆活動を行っている。自動車1台、バイク2台、自転車7台の乗り物持ち。