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P2P技術が真の民主化を実現する

P2P technology realizes real democratization

2017.04.03

Updated by Ryo Shimizu on 4月 3, 2017, 09:28 am JST

ブロックチェーンを中心としたこの一連のムーブメントは、既視感があります。
筆者の友人でもあり、国家認定天才プログラマーの先輩でもある、金子勇による「Winny」です。

Winnyは、P2Pのファイル交換ソフトとして出現しました。しかしその設計は極めて野心的だった。暗号化したデータを分散して保持するという設計は、P2Pのクラウドストレージとしてもっと評価されてよかったはずで、2ちゃんねる発祥のため、それが違法なファイルを交換するソフトとしてアンダーグラウンドな使われ方に注目されてしまったのは残念なところです。

匿名性とプライバシー保護を優先すると、自然にアンダーグラウンドが寄ってきます。これは例えば、ビットコインがブラックマーケットの取引に使われたりマネーロンダリングに使われたりするケースと似ています。

まあそれを言ってしまえば、たとえば携帯電話だって、正義の味方も使えば悪の組織も使ってるじゃないですか。けれども悪用できるように「見せない」という巧妙なコントロールが行われているから、悪用されているように感じられないのです。

Winnyが示した一つの可能性は、既存の著作権が通用しない世界です。もしくは、新しい著作権の世界です。

今の若い子に「iTunesで音楽を買った」と言うと「ギョッ」という顔をされます。「なんで?コンピュータ詳しいのに、(無料でどんな音楽も聞ける違法アプリの)IloveMusic知らないんですか?」と聞かれます。もちろん僕は大人なので、知っているけど使わないわけです。一応、知財で食ってる人間ですから、そのマナーは守ろうとしているわけです。

ただ、これはもはや古い価値観になりつつあるのではないかと肌で感じています。
筆者自身は著作物にお金を払うことに関してはやぶさかではありません。しかし、世の中の大多数が、無料でオンデマンドに音楽を聞くことに慣れきっている現代では、従来の著作権、いわゆる「コピーライト(複製する権利)」ではカバーできない状況になってきたなと感じます。

さらに言えば、音楽を配信する作曲者、演奏者、ようは権利者の側でも対応が変わってきています。Youtubeで自らプロモーションビデオを流し、ライブイベントに誘導するというスタイルが定着しつつあります。

もしもピコ太郎のPPAPが、お金を払わないと見れないコンテンツだったとしたら、あれほどのブームと利益を生み出すことができたでしょうか。

そしてまったく馬鹿馬鹿しいことに、僕が買ったiTunesのコンテンツは、僕のマシンにダウンロードされてSSDに保存されています。おそらくそれと全く同じデータが、世界中のSSDやハードディスクに保存されていることでしょう。これは壮絶な資源の無駄です。

さらにいえば、僕の家の中だけに目を向けても、iPhone、Mac、Mac miniといった複数の端末に全く同じデータが保存されています。もちろんすぐに聞くにはそうでなければ困るわけですが、本当に全く同じデータを複数の端末に保存する世界というのは正しいのでしょうか。

そして、AppleのiCloudも、MicrosoftのOffice365も、Googleも、全て「クラウド」と呼ぶ、彼らが閉じ込めた世界の倉庫にデータを保管します。

結局のところデータを人質にとる代わりに金銭を要求するというビジネスです。
Web2.0以降、「データは次世代のインテルインサイド」というわけのわからないキャッチフレーズとともに、「データは預けてお金を払って使うもの」という不思議な価値観が全世界的に流通しています。

筆者は最近iCloudを月額1200円にアップグレードしました。でも理不尽なほど高額な気がしませんか。ほとんど半永久的に払い続けるんですよ。1200円を。そしてデータが一杯になったら、さらに倍近いお金を毎月払うわけです。

年額にして14400円です。けっこうな額ですよ。
しかもそのデータは、全部自分のものなのです。自分が作ったデータへのアクセス権を年額14400円で買っているわけです。明らかになにか騙されてる気がしませんか。

1200円になるとクラウドストレージが1TBもらえます。
しかし、普通に考えればわかりますが、ストレージの1TBって、ハードディスクで買えば6000円ですよ。しかも半永久的に使えます。少なくとも1TBがいっぱいになるまでは使えますよね。

本当は自分でシステムを組めば、6000円で何年か使えるようなものを、iPhoneを使っているばっかりに年額で倍以上払い、なおかつちょっと動きが遅いわけです。

自分のデータをわざわざ遠く離れたカリフォルニア州の会社に預ける必要性はほとんどありません。宝くじを買うようなものです。もしくは、横断歩道を渡れば自分の口座のある銀行があるのにそれを面倒がって近くのコンビニでお金を降ろすようなものです。すると手数料がとられます。1万円おろして100円くらいの手数料なので、クラウドに比べると随分良心的な気がしますよね。

もっと効率的な方法は、たとえば自宅にクラウドストレージを所有することです。ハードディスクレコーダーのように、自宅に置いておくだけで自動的にデータの吸い出しを行い、バックアップする。

出先でデータが必要になったら、いつでも自宅のサーバから引き出せる。まあこれをやるためには中継サーバなどそれなりの工夫が必要ですが全く不可能というわけではありません。

それでハードディスクが壊れたら、自分で交換する。
でも、事故や地震で物理的にハードディスクのある環境そのものが破壊されたら、困りますよね。そういうときのために自分にしか解読できない暗号で、同じような目的を持った人たち、すなわち特定企業のクラウドに依存したくない人たちで作るP2Pネットワーク上にひとつのデータを細切れにして分散して保持しておいて、必要になったタイミングでかき集めて復元することができれば実は十分です。

特定企業のクラウドに頼ることの危険性は、たとえばNTTデータが運営していたDoblog事件でも明らかです。Doblog事件とは、NTTデータが運営していたブログサービスDoblogが、ある日突然、ハードディスク障害によりすべてのデータが吹き飛んだ事件です。復旧も不可能な状態で、サービスが突然終了するという、およそ日本最大のSI企業とは思えない失態で、日本のSIerの品質全体を疑われてもおかしくないような大規模障害でした。そりゃ銀行システムひとつ満足に統合できないはずです。

クラウドの中身がどのように管理されているか透明化されていないため、ひとつのクラウドにデータを集中させるのは基本的に危険です。欧米の有名企業ではいまのところ問題が起きてないだけで、実際にどうなるかは予測できません。

だからこそ、世の中にあまたあるコンピュータやストレージの共同運用による分散クラウド、要はP2Pによるクラウドに期待が高まるのです。

このような時代に再びブロックチェーンのようなP2P技術が脚光を浴びてきたのは時代の必然と言えるでしょう。P2Pのメリットは、一人でも始められるし、ユーザーが増えれば増えるほど全体のメリットが拡大していくということです。

筆者はよく、新しいサービスを立ち上げる人に「一人でも毎日使いたくなるようなもの、2人だともっと、それ以上だともっともっと使いたくなるようなものが流行るサービスの条件」と言います。

それと同じで、P2Pは、一人でも使えるという状態をなかなか作ることが出来ませんでしたが、たとえばiCloudのストレージの代替品として、一人でも使えるし、そのバックアップとして、複数のユーザがP2Pコミュニティに参加でき、それが全世界規模で広がっていくことを想像すると、急激に中央集権敵なGoogle、Facebook、Appleといった会社が古臭いものに見えてきます。

古臭いからダメだと言ってるのではないですよ。
ひとつ、昔話をしましょう。

かつて筆者も所属していたMicrosoftという会社は、ソフトウェア開発を中央集権的に管理していました。世界中から優秀なプログラマーを集め、何万という才能の全てがビル・ゲイツ大総統の顔色を伺い、彼の側近の司祭たちがゲイツ閣下の号令一下、世界で最も偉大なOSを作り上げるという組織でした。

なんだか帝政ローマ帝国の時代のようですが、この構造が打ち破られたのは、北欧に住むか弱き大学院生の作ったちっぽけなUNIXクローンOSでした。このクローンOSの開発コミュニティは世界的なオープンソースコミュニティと合流し、世界に無数に散らばる名もなき人々の努力の結晶が、Microsoft帝国が生み出すどのOSよりも安定していて、高性能でバグが少ないOSを完成させました。

Microsoft帝国はまだ滅んでいませんが、滅びつつあります。
今やオープンソースでないソフトウェアは生き残れなくなりつつあります。
実際、筆者はオープンソースでないソフトウェアを使うのも作るのも、心理的にしんどくなってきています。

もちろんプロプライエタリソフトウェアの良い面はありますが、やがてオープンソースも品質面での問題を克服していくことになるでしょう。

こうしたオープンソースコミュニティの力を帆に受け躍進したのがGoogleやFacebook、Amazonといった会社です。彼らは開発したプロプライエタリなソフトウェアをオープンソースにしないかわりに、クラウドにデータを閉じ込めることで人質料を徴収するビジネスを展開してきました。便宜上、彼らをクラウド企業と呼ぶことにします。

こうした企業が出現した結果、Microsoftの存在感は次第に薄まり、今ではオフィス向けPCというごく限られた分野だけの勝者になりました。もちろん今でも売上高や利益では過去最大を記録していますが、もはや誰もMicrosoftを世界の盟主とは考えないようになっています。MicrosoftはかつてのIBMと同じ道を辿りつつあります。

ということは、次に起きることはなんでしょうか。
筆者はP2Pによって、クラウド企業が再びMicrosoftと同じ道を辿ると考えています。

P2Pによって起きる民主化は、帝政で造られたプロプライエタリなソフトウェアからコミュニティが主導するオープンソースへ移行したのと同じく必然的な流れであり、ブロックチェーンを始めとするフィンテックが注目を集めているのは人々が根源的に誰か特定の人物に支配されることに違和感を感じているからです。

もちろんビットコインにも、そのほかのブロックチェーン技術にも実装上の問題はあります。いまのところは。しかしそれはオープンソースだからこそ様々な社会実験が繰り返され、フォークし、新しい仮説の検証が可能なのです。MicrosoftやGoogle単体では絶対に作れなかったでしょう。実際、Googleはプロプライエタリなソフトウェア開発によってユーザや開発者の信用を裏切るということを何度か行っています。例えば鳴り物入りで登場したGoogle WaveやGoogle Codeなどです。

Googleは、本人たちがそう思われたいと思う以上に利益追求型の企業であり、マルクスのいう帝国主義的な企業体です。彼らの興味はマインドシェアやタイムシェアといった、人間の生活上の時間や意識のなかの「領土」を拡大することです。Googleが常にそうしたシェアをできるだけ徹底的に奪おうとしているという点について異論のある方はいないでしょう。

彼らのゴールは、「世界政府ができたらそれに必要な機能をすべて作る」ことではなく、実質的には自分たちが世界政府となり、地球上のすべての人間の意識と時間を支配することです。

でなければ携帯電話やスマートグラスといった領域、AR(Tango)といった領域に進出する理由がありません。

しかし筆者は、これを許してはならないと考えています。これはまさしく、全地球を手中にした単一の支配者による帝国が出現することに他ならないからです。

人類は長い時間と数多くの犠牲の上に、帝国主義を打ち破り、民主主義という、現時点でもっとも公平に思える意思決定のシステムを手に入れました。Googleやその他のクラウド帝国企業が全世界を手中に収めるよりも前に、我々は民主的なシステムを手に入れる必要があります。

P2Pにはそんな人類の追い求める果てしない夢がつまっているのです。
若くして命を落とした金子勇も、きっと同じ夢を見ていたのではないかと思います。そしてそれが、もしかしたら実現できるかもしれない時代に我々はいま生きているのです。

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清水 亮(しみず・りょう)

1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

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