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自動運転 インテリア イメージ

⑨自車外環境と車内環境を切り離す

2017.04.26

Updated by Shinya Matsuura on April 26, 2017, 17:12 pm UTC

車外環境と車内環境を切り離す

自動車を運転する時、我々は進行方向の視覚情報や、エンジン音やロードノイズ、車体の振動などから多くの情報を得て、はじめて安全を確保している。それに対して自動運転車は、搭載コンピューターが運転に必要な情報を把握していればいいので、搭乗者に外界の状況を伝える必要がない。つまり、車外と車内の環境を完全に遮断してもなんら問題がない。

「人がなぜ自動車を運転するか」という問いには「それが便利だから」という自明の回答のほかに「それが楽しいから」という回答がある。実際問題としてこの2つの回答は混じっている。どんなに便利でも運転が楽しくないならば、運転は苦行となる。逆にまったく役に立つことがなくとも、楽しいというだけで、自動車を運転するのに十分な理由となる。スポーツカーという実用性よりも楽しさを優先した車種が存在する所以だ。

人間が運転する限り、自動車という商品を設計するにあたって、運転という作業の快適性や快楽性を無視することはできない。ユーザーに苦行を強いるような道具はそっぽを向かれるからだ。が、自動運転車が実現すると、「運転の快適性や快楽性」を一切考慮しない設計が可能になる。

運転の快適性・快楽性の実現のためには、設計上2種類の配慮が必要だ。まず、運転者に必要な情報が伝わるようにすること。十分に広い視界、見やすいメーター表示やバックミラーの配置などだ。加減速時、旋回時のサスペンションの挙動から運転者の“お尻や背中”を通じて伝わる情報もある。もうひとつは、運転者の操作に対して車両が適切な反応を返すことである。アクセルを踏んだらアクセルを踏んだ分だけ車両が加速するべきだし、ブレーキを踏めば踏んだ力に応じて減速する必要がある。ハンドルを切ったなら、切ったという感覚に対応するだけ車両が回頭しないと、運転者はハンドリングに違和感を抱くことになる。

自動運転車では、このような作り込みを一切無視することができる。車両の状態は搭載コンピューターだけが把握していれば良い。

一例として、アクティブサスペンションの使い方が変化するだろう。自動車のサスペンションは、路面の凹凸による車体の振動や姿勢変化を緩和する装置だが、もう四半世紀ほど前からセンサーの情報に基づいてアクチュエーターを制御することで、振動を減殺し最適な車両姿勢を維持するアクティブサスペンションが実用化している。

サスペンションは加減速や旋回時に適度に沈み込むことで、運転者に車両の状態の情報を伝える。が、自動運転車なら乗り心地を優先してアクティブサスペンションを制御して、加減速・旋回時も一切車両が傾かせないというセッティングや、路面状況と車両を切り離し、どんな悪路でも一切車体が揺れないセッティングを選ぶことも可能になる。

窓も必ず外が見える必要はない。走行中も外が見えないようにして、内部を完全なプライベート空間とすることもできる。

音に関しても同様だ。タイヤの発生するロードノイズも、エンジンの機械音も、単なる騒音ではなく、路面やエンジンの状況を運転者に伝えている。さらにエンジン音は「快い音」として、運転者に快楽を提供する要素ともなっている。

現在の自動車は、車内のノイズを不快ではないレベルまで低減させつつも、音によって運転に必要な情報を運転者に伝わるように、同時に音によって運転者の情動を喚起するように設計されている。だが自動運転車なら、そのような設計は不要だ。車内の音場制御次第では、完全な無音環境で走行することも可能になる。無音が実現できれば、コンサートホールの音場を再現して音楽を聴くこともできる。あるいは、あえて列車のレール音やモーターの駆動音を流して鉄道に乗っているかのような感覚を演出することもできるだろう。アクティブサスペンションで鉄道の揺れを再現すれば完璧だ。同様にして戦車や装甲車の移動感覚も再現できる。車内をそれっぽく改装する者が現れそうだ。

車内の環境を外界と完全に切り離すことができるというのは、自動運転車の大きな特徴となるだろう。これは、「移動する、ほぼ完璧なバーチャル・リアリティ・シアターとしての個室」をユーザーに提供できるということである。使い方はアイデア次第だ。AVシアターのようなエンタテインメント提供に使えるし、車内を静かな寝室とするのにも使える(当然、ラブホテル的利用法は出てくるだろう。車内の振動をアクティブサスペンションで打ち消す機能が装備されることになりそうだ)。

緊急避難に特化した車両を開発してはどうか

車外とは無関係に車内の環境を設定できるという利点を徹底的に生かす方法論のひとつが、災害時の緊急避難に特化した自動運転車だろう。車内外の環境を切り離すことができるということは、外部環境の激変から内部を保護するということでもあるからだ。

すでに第6回で、災害時の緊急避難場所として自動運転車を利用する可能性について書いたが、よりその性格を強めた緊急避難シェルターとしての自動運転車を設計することもできる。今までならば、四輪駆動車のようなヘヴィデューティ車両が担ってきた役割だ。

丈夫な車体に、車内環境を確実に外部から切り離す機能を搭載する。人が運転するわけではないので、四駆のようなスポーティな運転感覚は不要だ。大規模災害時に搭乗者を保護し、安全な場所に移動するだけに特化した車両である。

東日本大震災以降、津波の襲来が予測される地域の一部では、浮上式シェルター、あるいは救命カプセルといった名称の緊急避難用ボートの配備が始まっている。シェルター用途の自動運転車は将来的に防水機能を持ち、水に浮くようになるかも知れない。通常時は家屋に接続して、外の環境と内部環境分離する機能を生かしてAVルームとしてつかってもいい。重く、速度が出ない車両になるだろうから、遠距離の外出は辛いことになるはずだ。しかし、日常的な近距離の外出には使えるのではないだろうか。

もちろん利用方法に予断は持ってはいけない。どんな商品であっても、利用者はメーカーの想定を超えた使い方をするものである。

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松浦晋也(まつうら・しんや)

「自動運転の論点」編集委員。ノンフィクション・ライター。宇宙作家クラブ会員。 1962年東京都出身。日経BP社記者を経て2000年に独立。航空宇宙分野、メカニカル・エンジニアリング、パソコン、通信・放送分野などで執筆活動を行っている。自動車1台、バイク2台、自転車7台の乗り物持ち。