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FX取引で人間がAIには勝てそうにない理由

2017.08.17

Updated by Ryo Shimizu on 8月 17, 2017, 06:57 am JST

 ビットコインの高騰が止まりません。
 8月1日に32万円だった1BTCが、先日はもう49万円の最高値をつけました。

 高騰の原因はハードフォーク前の買い控えが一気に買いに動いたことと、Bitcoin Cashの不調でもともとのビットコイン自体の価値が大きく上がったことにあるのだと思いますが、それにしてもわずか半月で異常な値上がりぶりです。

 ビットコインのような暗号通貨が示す可能性は非常に意味深です。要は通貨というのはそもそも金本位制が破綻した時点で、通貨の発行体である中央銀行や、中央銀行の後ろ盾である政府が保証人になっている、一種の株式のようなものだという本質的な性質が明らかにされたと言えます。

 中国ではまとまった現金が入ったらまず金を買っておくという習慣があるそうですが、ビットコインは金と同じ役目を果たしつつあります。
 金になぜ価値があるのか、実際のところはわかりません。金は埋蔵量が少ないので希少価値がある・・・といっても、希少価値のある鉱物はもっといろいろありそうです。金は見た目が綺麗、というのはあると思います。宝飾品に使いやすい。そして金は比重が重い、という特徴もあります。

 しかしこれらの特徴はどれも金が交換可能な価値を持っていることの証明にはなりません。

 サトシ・ナカモトと名乗る人物が考案したビットコインと、それを成立させるブロックチェーンの仕組みは、単に希少性を保証する数学的な仕組みを作っただけで、それがあたかも金と同じように流通する貨幣になりうるという可能性を示しました。

 
 ビットコインがこれだけ高騰している理由は前述のもの意外にもいくつか考えられます。たとえば、トランプ政権の混乱や、北朝鮮のミサイル発射、ギリシャの経済破綻、イギリスのEU離脱など、今は国家が必ずしも絶対的に信用できる相手ではないという考え方が常識になってきています。

 各国の貨幣は当然、その発行体の後ろ盾である国家と政府によって保証されるわけで、なおかつ貨幣の価値は中央銀行の貨幣発行量や公定歩合などによってある程度は人為的に操作できます。逆に言えば「操作されてしまう」ということです。

 その半面、ビットコインの場合は人為的な操作はほとんど不可能です。信用取引がないのでカラ売りができませんので価格の乱高下が起きるとしたら、ビットコイン利用者の中での価値が乱高下しているだけです。

 しかしビットコインの場合、保有者全体がなんとなく思っていることはビットコインの価値が持続的に上がり続けることです。サトシ・ナカモトが設計したオリジナルのビットコインは、採掘量が予め決められています。

 採掘量が決まっているということは、基本的には自動的に希少性が高くなり、価格は高騰していくはずです。金の価格が安定しているのと同じ原理です。

 普通は円高ドル安になれば日本国内の輸出産業が打撃を受けるので日銀が介入して買い支えたり、逆に円安ドル高になればこんどは輸入産業が打撃を受けます。国家にとっては為替は安定していれば安定しているほど心配事が少なくて有利なのです。

 ところがビットコインの場合、ビットコインを代表する国家のようなものがありません。ビットコインが上がろうと困る人はどこにもいないのです。むしろビットコインで支払いを受け付けるビックカメラやマルイは、上がれば受けられるメリットは大きく、下がれば受けられるメリットが小さくなります。したがって、ビットコインがあがって困る人は殆ど居ないのです。

 貿易に使われる円やドルと異なり、ビットコインでなければ買えないモノというのは原則ありません。もしかすると今後登場する可能性もありますが、今のところ、ビットコインが買えなくて困る人というのはいないはずです。

 しかしここまで高騰するとカラ売りをしたいと考える人がでるのも人情というもの、そういう人のためにビットコインFX市場があります。

 筆者もちょっとしたいたずらごころからビットコインをカラ売りしたくなり、ビットコインFXを試してみました。そしてわかったのは、ビットコインFXでは人間が勝つのはもはやほとんど絶望的だということです。今のところAIの介入が少ないようにみえるのでまだ人間でもなんとかなりますが、実際にやってみればわかります。

 まず、筆者はビビリなので、FXでありながら証拠金と同額までしかお金を使わないことにしています。あくまでもFXという市場でカラ売りを仕掛けてみることが実験の目的なので、ここで儲けようとかは全く思っていません。また、FXでロングポジションを持ち続けると、年利14%くらいの金利がとられてしまうので基本的には当日中に全てのポジションを解放するデイトレーディングしかやりません。ロングポジションで持ちたい場合は現物(という言い方も多少は奇妙ですが)のビットコインを持つ方がずっといいと思います。

 いざビットコインFXをやってみると、まず取引量の激しさに驚きます。指値で取引しようとすると、入力している間に値段が変わってしまいます。さらに、ティッカーや、板の情報が目まぐるしくかわり、1分単位のローソク足チャートが猫の目のように変化します。

 基本的にビットコインでファンダメンタルズ、要するに政治的要因やプレスリリースなどによる変動は考えにくいので、純粋にテクニカルに値動きだけから売り買いの判断をします。

 市場には様々な人の様々な思惑があるのでその思惑を読み切る、ということも大事です。最近のビットコインは連日最高値を更新しているので、「高く売って安く買う」カラ売りを仕掛けるには、「今日はこの値段よりは上がらないだろう」という点を見極める必要があります。

 同時に「ここまでは下がるだろう」という点も見極めます。
 この2つがうまくハマると、価格差で儲けが出ます。たとえ価格差が10円でも、10ビットコイン賭けてれば100円、100ビットコイン賭けてれば1000円の儲けが瞬間的に出るわけです。

 市場によっては手数料がかからないうえ、場合によっては手数料がマイナスの(つまり取引すれば手数料が貰える)市場もあるので、FXでは現物取引とちがってガンガン売り買いができます。

 なぜ手数料がゼロまたはマイナスになりうるのかといえば、FXで市場が回収するのは常に敗者からだけだからです。敗者が生まれるにはプラスでもマイナスでも、とにかく売り買いが激しく発生していなければなりません。どんなギャンブルでも長期的には負けることが予想されるので、市場は常に負けに賭けているわけです。

 こういうマーケットでは、ごく自然に「AIの眼」が欲しくなります。
 筆者は経験上、畳込みニューラルネットワークが人間以上に物事の質的な現象を捉えることを知っています。膨大な情報の中から優位な情報を読取る能力をAIは持っています。

 今のAIに足りないかもしれないのは、「ビビリ」という感覚です。特にFXの場合、簡単に証拠金の10倍以上の取引ができてしまうので「ヤバイ」と思う感覚がないAIは暴走して大損害を生む可能性があります。

 しかし、市場の値動きを見て、人間以上に敏感に市場の変化を読み取ることはおそらくAIには可能です。
 たとえばビットコインFXなら、ビットコインと円、ビットコインとイーサリアムなど他のオルトコイン、そうした無数の外的要因との相関性まで意識して「今の市場はどういう状態か」を認識し、「買うならこの値段、売るならこの値段」ということをある程度推定することはできるはずです。

 そもそも今のFX市場をゲームと定義すると、これは強化学習の領域です。強化学習のタスクの中でも、成行き注文に限定すれば「買い」と「売り」と「ホールド」の三パターンしかない、非常に簡単な問題に還元できますから、これだけでも人間よりはマシな学習ができる可能性もあります。学習するまでにそれなりの資金はかかりますが。

 24時間稼働しているビットコイン市場は、不眠不休で働くAIが、ほんの1円、2円といった利益を継続的に拾うだけで、たとえば毎秒平均1円稼げるとして一時間で3600円、24時間で86,400円、30日間で2,592,000円稼げることになります。もちろんこの数字の裏には、それだけ負けた人がいるということですが、今のFX市場は基本的に人間が売り買いすることが前提のため、相手が人間ならばAIが長期的には必ず勝ち続けることは十分考えられます。その先には、AIとAIの知恵比べがありますから、これはできるだけ高速なマシンをできるだけ取引所のあるサーバと物理的かつトポロジー的に近い位置に配置した方が有利です。

 そうなるともはや不毛な闘いが始まってしまうので、そこまでいくと筆者はあまり興味がないのですが、深層強化学習でFXの売買をさせてみる、というのは今後深層学習の練習問題として流行るかもしれませんね。

 そして深層強化学習をする人工知能には人間は囲碁のような超複雑なゲームでも勝てないことがわかっているので、この領域で人間が勝つのは無理でしょう。

 いまのところ、筆者はAIを使わずにFXで勝っていますが、筆者のギャンブル必勝法は、「いちど利益がでたら、そのギャンブルをやめる」というものです。要はビビリなんです。この方法で競馬でも競艇でも競輪でも勝ちましたが、当然、勝った金額というのは微々たるものです。当然ながら、ギャンブルで儲けることに時間を使うなら、新しいモノを作ることに時間を使ったほうがもっと大きく稼ぐことができます。

 AIの場合も似たようなもので、FXを24時間やり続けて月に250万円稼ぐよりも深層学習マシンには効率的な稼ぎ方があるはずです。これ、一台のマシンで勝てたからといって、2台、3台と増やしてもダメなんですよね。仲間が仲間を相手に取引したら、それはチャラになってしまいますから。または、一秒に1円ではなく、一秒に10円稼ぐ、というAIを作ることを目指すことは理論的には可能かもしれませんが、実際にそれをやろうとすると取引量が大きくなり、ゲームの前提が変わってしまいます。要は強化学習のやり直しということです。それはそれで投資リスクが高いし、市場に新しい相手・・・たぶんAIですが・・・が現れたらその敵に対抗する適応戦略を改めて学習しなくてはなりません。

 囲碁と違い、架空のトレードでは実戦で使える学習ができないので、強化学習しようとすると実際に実弾でトレードをやってみるしかなくなります。

 とすると、AIで人間のトレーダーに勝てるか、という質問には自信を持ってYESと答えられますが、AIで継続的に儲けられるか、という質問には懐疑的です。もちろんプロはとっくにやっていると思いますが。

 また、このアルゴリズムはFXにかぎらずあらゆる相対取引に適用可能です。広告にAIを使ったら劇的な効果があったというのは信憑性があります。まさに同じような仕組みで強化学習が可能だからです。また、広告は相場と違って明確な敵がいませんから、KPIを上げるための強化学習をすれば特に大きなつまづきもなく効果を上げることが出来るのではないかと思います。

 いずれにせよ当面のあいだ、AIが人間を凌駕する技術要素は、畳込みニューラルネットワークと強化学習が鍵になるでしょう。

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清水 亮(しみず・りょう)

ユビキタスエンターテインメント代表取締役社長CEO。1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

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