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Cybertech TelAviv 2018 レポート(2) 脅威との付き合い方を日常で学ぶイスラエルの教育

2018.02.20

Updated by Hitoshi Arai on February 20, 2018, 18:17 pm JST

講演2日目(1月31日)も、午前中は政府や民間企業の要人から様々な視点でのスピーチが続いた

2日目のプログラム

この中で特に印象の深かったのが、イスラエル教育大臣のMr. Naftali Bennett氏の講演であった。

Cybertech TelAviv 2018 レポート(2) 脅威との付き合い方を日常で学ぶイスラエルの教育

Bennett氏は、大臣であると同時にサイバーセキュリティのビジネスで大きな成功を成し遂げた起業家でもある。彼は、特にスライド等は使わず、非常に穏やかな語り口でイスラエルの教育の特徴を語った。

最初に彼が紹介したのは、約10日前にハイファのモールに車で行った時のとても印象的なセキュリティ・ガードとのやり取りである。通常であればセキュリティ・ガードは、訪問者にIDを提示させたり、車のトランクを開けさせたりするが、彼はたったひとつのごくシンプルな質問をしただけだったという。

What is your favorite song ?

もし、大臣がテロリストであれば、想定外の質問であることとイスラエルで流行っている歌を思い出すために、答えるのに少し間が必要であったろう。一方、普通の市民同士であれば、なんということもなく答えられる質問である。

IDを提示させたり、車のトランクを開けて中を見たり、金属探知機でチェックすれば、1台あたり2、3分は必要となる。しかし、たったひとつの質問と回答で、数秒で彼は必要十分な仕事をした。余計な時間を費やさず、Quality of Lifeとのバランスを実現したこのプロの仕事に大臣は大きな感銘を受けたそうである。そして、これこそがサイバーセキュリティの分野で我々が最も追求しなければならないポイントである、と指摘した。

この「バランス」を実現するためには三つの要素がある、"Talent" "Living with it" "Serendipity"だそうだ。

最も重要なのは、高度なセキュリティを生み出す優れた才能であり、イスラエルにはこのような才能を生み出すためのエコシステムがあると説明した。特に重視しているのは数学の才能で、過去3年間で18,000人に上る優れた数学人材を生み出したという。

次に重要なのが、子供たちに日常の中でチャレンジ経験をさせることである。例えば、16歳の中学生が、12歳の小学生40人を連れて2日間のハイキングに行く、といった活動を頻繁に行うそうである。このような活動を通して、16歳は40名の子供たち一人ひとりに気を配り、チームをまとめるリーダーシップを学び、12歳の子供たちもチームワークとはどんなものかを実践で学ぶ。子供たち自身が、日常生活の中で「挑戦」を経験し、カウンセラーとなる能力を身につけるそうである。

最後に、セレンディピティ(偶然)の重要性である。いくら人材や組織が優れていても、「計画的にイノベーションを生み出す」ことができるわけではない。ただし、イノベーションを生み出す「チャンスを増やす」環境を作り上げることはできる。この環境の例として、ベエル・シェバに作られたCyberParkを挙げることができる。

座学や記憶が中心の日本の教育、官庁の予算を業界団体に出すことで「産官学共同」を狙う日本のエコシステムとは、大きな違いがあることを感じさせられる。イスラエルを訪れたことのない多くの日本人は「危なくないの?」という質問をし、実際に行ったことのある人間は、私も含めて「危ないことはないよ」と答える。しかし、大臣に言わせれば、イスラエルの人々は「脅威とどのように付き合えばよいかを日常生活の中で知っている」からこそ誰も不安な顔をしていないのである。Living with itを子供の頃から実践している、ということであろう。これがセキュリティ分野での彼等の「厚み」の秘密のひとつなのだ。

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新井 均(あらい・ひとし)

NTT武蔵野電気通信研究所にて液晶デバイス関連の研究開発業務に従事後、外資系メーカー、新規参入通信事業者のマネジメントを歴任し、2007年ネクシム・コミュニケーションズ株式会社代表取締役に就任。2014年にネクシムの株式譲渡後、海外(主にイスラエル)企業の日本市場進出を支援するコンサル業務を開始。MITスローンスクール卒業。日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員。E-mail: hitoshi.arai@alum.mit.edu