Cybertech TelAviv 2018 レポート(3) 全く想定外のセッション「CYBER FROM A DIFFERENT ANGLE」
2018.02.22
Updated by Hitoshi Arai on February 22, 2018, 07:00 am JST
2018.02.22
Updated by Hitoshi Arai on February 22, 2018, 07:00 am JST
講演2日目のプレナリーセッションが終わった後、午後一番に"CYBER FROM A DIFFERENT ANGLE"と言うセッションがあった。CybertechのWEBサイトでも事前にプログラムは発表されるが、セッションのタイトルと講演者の名前、肩書だけで、どのような内容かは全く記載がない。ほとんどのセッションは、例えば、"FINTECH AND INSURANCE INDUSTRY CYBERSECURITY" のようにタイトルから内容が想像できる。しかし、この"CYBER FROM A DIFFERENT ANGLE"というセッションだけは一体どんな内容か、どんな議論なのかが全く想像がつかなかった。
とりあえず興味本位で参加してみたのだが、結果、とても素晴らしい経験となった。
・2日目のプログラム午後の「CYBER FROM A DIFFERENT ANGLE」を参照。事前にプログラムに紹介されていたSaket Modi氏は登場しなかった。
写真の右端は、Oren Blitzblau氏。彼は盲目で、黒い盲導犬とともに登場した。不幸なことに、13年前にすぐ近くで自爆に遭遇して視力を失ったのだという。元々、8200部隊でアナリストとして働いていたそうで、周囲の理解もあり、視力を失ってからもしばらくは仕事を続けた。
今は、200以上の学校(小学校、中学校、高校)を訪問し、累計25000人の子供たちにサイバーセキュリティを教えている。本人によれば、「サイバーの重要性を語るのに『脅威』を語るのは簡単なことだが、もっと、Positive Aspects(肯定的な側面)を語らなければならない」と考えたそうだ。彼は、学校に行き、生徒の前でスマートフォンと音声認識を使って、様々なデモをする。つまり、目が見えなくてもこんなことができるんだ、ということを示し、子供たちの中に「可能性」を信じる雰囲気を作りたいと考えているのだ。
その左隣が、David Asher氏。彼は正統派と呼ばれる25歳のユダヤ教徒である。信仰の程度にもよるが、一般的には正統派の男性は聖書を学び、その教えを忠実に守る生活をしており、働かない。国からの援助(日本での生活保護のようなもの)と、結婚している場合は妻が働いて生活を支える。ところが彼は、サイバーの面白さに触れ、今はマランティムという会社のSOC(Security Operation Center)/SIEM(Security Information and Event Management)のアナリストとして働いている。モデレーターからの「面白いか?」という問いかけに、「なんでもっと早くから気が付かなかったのか?」と答えていた。
その隣の女性がSeren Alsana氏。15歳にしてベングリオン大学でサイバーセキュリティと機械工学を学んでいる。彼女はムスリムであり、残念ながらヘブライ語だけしか話せないため、モデレータとどのような話をしているかは全く解らなかった。ただ、プログラムには次の男性と一緒にプロジェクトのメンバーとして紹介されているので、そのプロジェクトの話をしていたのかと想像する。会場には彼女の両親も来ており、モデレータに紹介されて会場から大きな拍手を得ていた。天才的な娘を持ったことを誇らしく思っているのであろう。
最後の若者は、Lior Meyer氏、17歳。彼は教育省のプロジェクトのリーダーを務めている。そのプロジェクトとは、若者にコンピューターサイエンスを学ばせるものらしい。ゲームを通して、コンピューターサイエンスの面白さを子供たちに伝えていると言っていた。よく知られているように、イスラエルでは18歳から兵役があるので彼も間もなく従軍する。彼のようにコンピューターサイエンスに長けた人間は引っ張りだこで、8200部隊等のインテリジェンス部隊にリクルートされる。モデレータは、「IDF(Israel Defence Force)からショッピングに来ているのではないか?」と質問していたが、おそらく優秀な若者への賛辞なのであろう。
国際会議の1プログラムとして、このようなセッションが企画されること自体も驚いたが、それを具体化するだけの「人材」がいる、ということがイスラエルのサイバーセキュリティ分野の「厚み」を示すものである。特に、Oren Blitzblau氏の「Positive Aspectsを語りたい」という言葉には強いインパクトがあった。
日本でも100%そうだと思うが、サイバーセキュリティは常に「常日頃十分な意識をもって準備しないと大変な被害を被る」というネガティブな面からその必要性・重要性が語られてきた。そのため、企業も個人も、どこかで「面倒だがしょうがない」という気持ちになってしまいがちだ。彼が啓蒙していることは全く逆であり、「サイバーとは、目が見えなくてもこんなに力が出せる分野なんだ」というポジティブなアプローチである。
この人材の厚み、そして柔軟で前向きな発想が、イスラエルがサイバーセキュリティの分野で進んでいることを示す良い事例であろう。技術者は、他者と同じようなコードが書けたり、面白いアイデアが出せたりすれば、自分たちも同じような技術レベルにあると考えがちである。しかし、このようなセッションに参加すると、日本はまだ世界に学ぶことがたくさんあると思い知らされる。
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登録はこちらNTT武蔵野電気通信研究所にて液晶デバイス関連の研究開発業務に従事後、外資系メーカー、新規参入通信事業者のマネジメントを歴任し、2007年ネクシム・コミュニケーションズ株式会社代表取締役に就任。2014年にネクシムの株式譲渡後、海外(主にイスラエル)企業の日本市場進出を支援するコンサル業務を開始。MITスローンスクール卒業。日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員。E-mail: hitoshi.arai@alum.mit.edu