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なぜ日本の書店には手頃なIT本が多いのか?

Why there are lots of reasonable IT books at Japanese book stores

2018.03.27

Updated by Mayumi Tanimoto on March 27, 2018, 07:24 am UTC

日本の書店に行くと気がつくことの一つにやたらとニッチな分野の本が売っているのがありますが、特にニッチ度を極めているのがIT系の本です。アプリの使い方のみに特化したムックやExcelの小技をまとめたものなど、痒いところに手がとどくような細かい分類の書籍が大量にあります。

多くはコンパクトで薄く、カラフルで、一冊1000円から2000円前後と手頃な値段です。絵をふんだんに使用した「わかるシリーズ」系も大量にありますね。

北米や英国、欧州も書店にはもちろんIT系の本はあるのですが、日本に比べるとその量や種類はかなり少なく、一冊一冊の値段がかなり高いんです。さらにLINEの使い方、iPadの使い方といったニッチなムックやコンパクトな本はあまりありません。

これはなぜかというと、他の国では本を買わずにオンラインで使い方調べたりしてしまうというのもありますし、倹約家なのでそういった本にはお金を出さないからです。

しかし、日本にこんなに多種多様なITの格安ニッチ本がある理由は、日本のIT業界の人々の雇われ方が他の先進国とはかなり違うからです。

北米でも欧州でも、一般的にIT業界でエンジニアになる人というのは、コンピューターサイエンスや物理など理系の勉強を大学でしてきた人、ビジネス系の勉強してきた人です。

その訓練の基礎というのは、主に大学で受けることになります。中には化学や機械工学など、ITとは若干関連のない専攻の人もいますが、実験などを行う際にプログラムを組んだりすることがあるので、そこからIT業界に入ってくる人もいます。オペレーションやサービス管理に関しては、経営学や情報学などビジネス系の専門の人が多いです。

つまり、他の国の人々は基礎的な訓練やベースとなるスキルというものを大学の段階で学んでいるわけです。

また職場でも、採用するのはそういった基礎的な訓練を受けた人たちや経験がある人になりますので、会社に入ってから全くゼロから勉強するという人は多くありません。

就職してから新しい技術や業務で使うツールの使い方、あるいは業務で使用するするシステムの使い方などを覚えるのには、会社側がベンダーにお金を払ったり外部のトレーニングセンターに費用を払って教育することが一般的です。ある程度の規模の会社では当たり前のことで、それは雇用関係における福利厚生(エンタイトルメント=特権)の一部です。

ところが日本の場合、IT業界でエンジニアになる人でさえも大学での専攻は文系だったりしますし、全く基礎的な訓練や素養がありません。そこで会社に入ってから自習することになるわけですが、その際にどうしても必要なのが、ショートカットを書いた本になるわけです。

ですから、買うのは専門書ではなく一般向けに概要だけを書いた手ごろな本です。専門書を読んでいる暇はないので、短くて要点だけを抜き出したものでないと困ります。

また会社に入ってからも、会社側は、特にブラックな職場ではトレーニングを提供しませんので、ツールの使い方や新しい技術を学ぶのはどうしても自習が中心になってしまいます。書籍代は出ないことが多いですから、自費で勉強するほかありません。ですから、こういった安価な本が売れるというわけです。

そして、そういった本が住宅街にあるショッピングモールの中の書店などにもあるのは、休日や通勤途中に読んでいる人がたくさんいる、ということを反映しています。

日本のIT業界が採用方法を変えた場合、こういった本が書店に見当たらなくなる可能性があるわけですが、そういった日はやってくるのでしょうか。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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