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イスラエル「サイバー・セキュリティ業界」の鳥瞰図

2018.07.09

Updated by Hitoshi Arai on July 9, 2018, 17:20 pm JST

イスラエルには、「Smartive Cybersec」というコンサルティング会社が運営する「Cyber Startup Observatory」というイニシアチブがある。

この取り組みは、300社を超えるサイバーセキュリティのスタートアップや革新的な企業に個別に連絡し、それぞれの企業との合意の下に、そのソリューションを決まったカテゴリに分類した鳥瞰図「Landscape Map」を作成している。

掲載される企業はイスラエルがメインだが、他にも、米国、英国、フランス、ドイツ、オランダ、スイス、スペイン、インド、ブラジルのスタートアップの鳥瞰図も作成している。

かなり頻繁に更新しているようだが、以下は、イスラエルスタートアップに関する2018年6月段階の鳥瞰図である。

▼出典:Cyber Startup Observatory
出典:Cyber Startup Observatory

分類されているカテゴリーの一覧は次の通り。

▼出典:Cyber Startup Observatory
出典:Cyber Startup Observatory

このマップの特徴は、スタートアップの掲載は原則無料だが大企業は有料であることだという。従って、誰もが知っている、RADやCheckpointのような企業は含まれていない。また、投資家向けに資本金や資金調達などの規模で整理しているわけでもなく、純粋に「どの分野にどんな企業が存在する」という鳥瞰図と理解すべきだろう。

また、“Offensive Security”というカテゴリもない。実際はこのカテゴリーのサービスを手掛ける企業もあるのだが、おそらく政治的な理由で当該カテゴリは作らないのではないだろうか。複数のカテゴリーに登場する企業もあるが、上述のように、どのカテゴリーに自社のソリューションを定義するか、は当該企業との合意に基づいており、本イニシアチブの勝手な解釈ではない。

いずれにせよ、このマップを見ると今のイスラエルにおけるサイバーセキュリティの状況が見えてくる。

“Endpoint Security”、“Detection & Prevention”、“Incident Response & Forensics”、“SOC”といった既に歴史の長いカテゴリには多くのプレーヤーが存在することもわかりやすい。一方、同じくらい多くのプレーヤーが目につくカテゴリとしては、“Compliance & Data Leakage Prevention”がある。

これは、欧州での一般データ保護規制(GDPR)の施行をビジネス機会と捉えたトレンドではないだろうか。3月にレポートした「Cybertech TelAviv 2018 レポート」でも触れたが、GDPR対応はセキュリティ分野での大きなテーマの一つである。

また、“Cyber Posture”というカテゴリの充実も、サイバー攻撃の頻度や複雑性が高まっていること、企業のネットワーク自体がクラウド化していることなどを反映し、単一のツールを導入するという対策だけではなく、組織としてのポリシーやマネジメントのあり方が重要と認識されてきていることの表れであろう。

市場の大きさについては、それぞれのカテゴリを考慮する必要はあるだろうが、現時点での相対的な競合の少なさという意味では、“Automotive”、“Blockchain”、“UAV's(Unmanned Aerial Vehicle)”、“UEBA(User and Entity Behavior Analytics)”、“Healthcare”あたりが、今後の注目点だろう。

この鳥瞰図は、今後の市場の変化に応じて、カテゴリや登場企業も変わってくると考えられ、定期的に確認をしていくべき性格のものであろう。

類似の鳥瞰図は、最新のテクノロジを扱う米国のオンライン・メディア「ベンチャー・ビート」の1月の記事「What Israel's cybersecurity landscape foreshadows for 2018」にもある。

こちらはドイツ・テレコムとベライゾン・ベンチャーズという投資会社のマネージャによる調査である。掲載対象となる企業は、100万ドル以上の資金調達を行っている、あるいは年間10万ドル以上の収益を上げている企業。500社以上の企業をインタビューし、199に絞り込んだという。

▼出典:ベンチャー・ビート
出典:ベンチャー・ビート

こちらでも指摘されていることは、企業の環境が複雑化していることに伴い、単一機能ではなく、ワンストップ・ソリューションのベンダーが求められる、という点である。SOARというカテゴリがあるのもその反映であろう。

前述のように、こちらは既に多額の資金調達をした企業であり、今後、投資や提携を考える場合、Cyber Startup Observatoryのマップでベンチャー・ビートに掲載の無い企業を探す、というのも一つの視点であろう。

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新井 均(あらい・ひとし)

NTT武蔵野電気通信研究所にて液晶デバイス関連の研究開発業務に従事後、外資系メーカー、新規参入通信事業者のマネジメントを歴任し、2007年ネクシム・コミュニケーションズ株式会社代表取締役に就任。2014年にネクシムの株式譲渡後、海外(主にイスラエル)企業の日本市場進出を支援するコンサル業務を開始。MITスローンスクール卒業。日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員。E-mail: hitoshi.arai@alum.mit.edu