画像はイメージです original image: © luzitanija - Fotolia.com
戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)「日本-イスラエル共同研究」
2018.08.21
Updated by Hitoshi Arai on August 21, 2018, 10:05 am JST
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2018.08.21
Updated by Hitoshi Arai on August 21, 2018, 10:05 am JST
「国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)」には、2003年から進めている「戦略的国際科学技術協力推進事業プログラム(SICORP)」があり、欧米、アジア、大洋州、中東、アフリカの諸国との共同研究を進めている。
二国間だけではなく、多国間の国際共同研究や相手国に研究拠点を開設するプログラムなどもある。政府間での合意に基づき、相手国の研究支援機関と連携し、単一国では解決の難しい国際共通課題を対象に共同研究を推進する。例えば米国とは「低炭素社会のためのメタボロミクス」という研究領域が設定され、主に生物学的プロセスによるバイオ燃料の生産手法の改良や、農業における殺虫剤使用削減に資する技術の開発を進め、環境負荷の低い低炭素社会の実現を目指している。詳細は「SICORPの概要」を参照されたい。
▼図1 SICORPの枠組み(出典:JSTホームページ)
イスラエルもその協力国の一つであり、イスラエル科学技術省(MOST)との合意に基づき、両者の間で戦略的に重要なものとして「レジリエントな社会のためのICT」という研究領域を設定し、平成27年(2015年)から共同研究の公募が始まった。
この分野は、「自然災害や経済・社会変動によって社会に打撃や急激な状況変化がもたらされた際に迅速に対応し、都市インフラや公共サービスの安定を取り戻すことのできる、ICT技術、数理モデル、システムの創出を目指す」と定義されている。採択された場合の研究支援期間は3年間、総額2340万円を上限とする、とされている。
日本では様々な自然災害が多く、イスラエルも地政学的リスクに向き合っている。要因は異なるにせよ、経済・社会に大きな打撃や急激な状況変化がもたらされた際に、如何に迅速に安定を取り戻すことのできる復元力を持つか、は共通した課題であり、そのためにICT技術をどのように活用できるかというのは、大変興味深いテーマではないだろうか。
既に採択されたプロジェクトは以下の6件である(イスラエルとの協力)。
・サイバー社会ネットワークにおける噂の伝播の検出と制御
日本側研究代表者:東京工業大学大学院総合理工学研究科准教授 高安美佐子
イスラエル側研究代表者:バーイラン大学物理学科教授 シュロモ・ハブリン
・災害時交通の観測・予測・制御による都市マネジメントシステムの開発
日本側研究代表者:東京大学大学院工学系研究科教授 羽藤英二
イスラエル側研究代表者:イスラエル工科大学交通学科学科長 シュロモ・ベッカー
・大規模災害に対する都市レジリエンスの向上:災害管理と社会経済分析のためのダイナミック統合モデルの開発
日本側研究代表者:東北大学災害科学国際研究所助教授 エリック・マス
イスラエル側研究代表者:エルサレム・ヘブライ大学計算地理学センター教授 ダニエル・フェルセンスタイン
・多様なカメラを活用した群衆行動の変化検出
日本側研究代表者:東京大学生産技術研究所教授 佐藤洋一
イスラエル側研究代表者:ヘブライ大学計算科学工学科教授 マイケル・ウェーマン
・災害や攻撃に対してデータ依存公共ユーティリティの生存性と継続的操作を効率よく実現する手法
日本側研究代表者:大阪大学 情報科学研究科教授 増澤利光
イスラエル側研究代表者:イスラエル工科大学(テクニオン) 経営工学科准教授 ユバル・エメク
・人間を系に含むマルチエージェントレジリエント最適化
日本側研究代表者:九州大学大学院システム情報科学研究院主幹教授 横尾真
イスラエル側研究代表者:バーイラン大学計算機科学科教授 サリート・クラウス
最初の3件は2018年度一杯、次の3件は2019年度末までだが、最近の西日本豪雨による災害の被害とその復興状況をを見ても、災害の規模や性質が従来の経験や想定を超えたものとなることが多く、各プロジェクトのテーマである「レジリエントな(耐久力、復元力のある)社会を実現すること」の重要性を再認識させられる。
西日本豪雨被害でも多くの災害対策検証がなされているが、どの自治体でもハザードマップなどの準備はほぼあったようだ。また、天気予報やニュースを通じて、気象庁からの警報も繰り返し発報されていた。
それでもなお想定外の被害が生まれたのは、人間という要素を含めて、情報共有のありかた、自治体間の連携、減災視点を含めたまちづくりやインフラのマネジメント、といった角度から見直すべき要素が多々あることを示している。
ICT技術だけで解になるわけではないが、「噂の伝播と制御」あるいは「群衆行動の変化検出」など、特に人間の習性や行動を理解した上での対策検討は、SNSの影響力が高まってきた現代の社会でその活用が大きな助けになることは間違いない。どのプロジェクトについても、共同研究の成果が期待される。
2018年5月、新たに3件のプロジェクトが採択された(「日本-イスラエル共同研究」平成30年度新規課題一覧)。
・先進ICTを用いた淡水生態系復元力の監視
日本側研究代表者:立命館大学総合科学技術研究機構上席研究員 熊谷道夫
イスラエル側研究代表者:イスラエル海洋湖沼学研究所キネレット湖沼学研究室教授 イリア・オストロフスキィ
・観光客の流動パターンの把握と避難経路情報の提供
日本側研究代表者:京都大学大学院工学研究科准教授 ヤン・ディャク・シュマッカー
イスラエル側研究代表者:バーイラン大学経営管理学部上級講師 ユーバル・ハダス
・低機能ロボット群による環境外乱に頑健で継続的な自律的組織化システム構築手法
日本側研究代表者:奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科准教授 大下福仁
イスラエル側研究代表者:ネゲブ・ベングリオン大学計算機科学研究科教授 シュロミ・ドレフ
1件目は、飲料水源である淡水湖沼の監視や現状把握、管理に必要な変動予測を行う先進的ICTの開発を目指している。開発するシステムは、日本では琵琶湖、イスラエルではキネレット湖で試行されるようだ。2件目は、観光客が広範囲に散在する状況で、災害などで発生する混乱時の流動パターンをセンシングしモデルを開発する。これも実証実験を京都とテルアビブで実施する計画だそうだ。3件目は、被災地域での活用を期待する、低機能だが安定して動作するロボットの開発である。
どれも興味深いテーマであるが、特にインバウンドが急増している最近の日本では、2番目のテーマは避難経路のデザインや避難情報提供という極めて現実的な効果が期待できる研究であろう。
イスラエルといえば、毎年1000社を超えるスタートアップが生まれる、世界の多国籍企業が集まるR&Dセンター、といった投資やビジネス面が話題になりがちだが、このような社会的課題をターゲットとした大学間の国際共同研究も推進されていることを知ることも重要だ。
日本側、イスラエル側それぞれの強みを活かし、社会的に意義のあるオープンイノベーションが生まれることを期待したい。
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登録はこちらNTT武蔵野電気通信研究所にて液晶デバイス関連の研究開発業務に従事後、外資系メーカー、新規参入通信事業者のマネジメントを歴任し、2007年ネクシム・コミュニケーションズ株式会社代表取締役に就任。2014年にネクシムの株式譲渡後、海外(主にイスラエル)企業の日本市場進出を支援するコンサル業務を開始。MITスローンスクール卒業。日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員。E-mail: hitoshi.arai@alum.mit.edu