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自動運転は運輸ドライバーの仕事を奪うのか?

2019.03.05

Updated by 特集:モビリティと人の未来 on March 5, 2019, 10:07 am JST

自動運転および、それを支える技術としてのAIに対する運輸事業者の関心は高い。2017年4月20日に協議会が初の公開イベントとして開催した「TDBCフォーラム2017」の 参加者アンケート(有効回答数198人)でも、興味のあるテーマはとの問いに対し、「自動運転・ AI」(システム)に興味があるとした人数が、約60%とトップだった。基調講演で、「自動運転・AI」を取り上げたこともあり、アンケートへの影響があった可能性はあるものの、やはり注目されていることは間違いない。

一方で自動運転に対し運輸事業者の中には、将来自分たちのビジネスを奪ってしまう競合者として考え、どちらかというとネガティブなイメージを持っている人も少なからず存在する。 実際にTDBC設立前の準備会の中で「自動運転」の議論に対して、慎重な姿勢を見せる方も いた。また、「TDBCフォーラム2017」で、「運輸業界におけるAI活用の取り組み〜車と人間のコミュニケーションによる安全、安心、エコの実現〜」というテーマで、ソフトバンク株式会社首席エバンジェリスト(当時)の中山五輪男氏の聴講者へのアンケートの中にも、「AIの発達をあまり受け入れたくなく消極的でしたが、避けることのできない未来だということ が良くわかりました。社員に対する気持ちは変えずに、未来に向け取り組みを始めないと、と思いました」という趣旨の回答が複数あり、改めて解決策としての「自動運転」の可能性について理解していただけたと感じた。おそらく、これが多くの運輸事業会社の経営者や社員の今時点の考え方だと思われる。

運輸業界の人材不足は深刻だ。その解決方法の一つとして「自動運転」は、単に人材不足の解消だけではなく、さまざまな恩恵や価値を運輸事業会社およびそれに携わる人にも、もたらす可能性がある。

一般的に運輸業界における車両の利用年数が7年程度であることを考えると、車両の自動運転化は、徐々に進められていくだろう。また運輸事業者は運転以外の業務も多く行っており、 現時点で人でしか行えない、人の方が良い業務も多く存在する。結果的に、長時間運転など、 人よりも自動運転が適した業務は徐々に自動運転化され、人間は、人に適した業務に専念する ことで、より良いサービス提供ができるようになる可能性が高い。

例えば、人間がやるからこその価値があるサービスとして、以下が期待される。

・高齢化や要支援者に対応するため、要介護者の自宅から病院や介護施設への送り迎えや外出のサポートや生活必需品のお届け(すでに、介護保険の適用が可能な介護保険タクシーも登場している)
・高齢者、妊婦などが店舗などで購入した商品のお届けや買い物代行
・本人に代わって贈り物をお届けする(単なる配達ではなく)など、より高いレベルのサービス提供

またこうした自動化によって就労者は、1泊2日での業務や不規則な業務、長時間労働など、厳しい労働環境下での長時間運転から解放され、肉体的、精神的な健康への影響も減らすことができるようになる。

これまで現場では人に対する運行管理が行われてきたが、今後、自動運転を業務に組み込むためには、システムへの運行指示のような、従来の運転技術ではない新たな業務能力が求められるようになる。これらは、新たな人材の就労機会を生み出す。若い人材が、運輸事業に積極的に就労する機会創出にもつながる。

また、より安全な運行の実現も期待される。自動運転はさまざまなセンサーとAIなどの技術により実現する。結果的に人間が起こしてしまう思い違いや、勘違いによる判断ミス、操作ミス、過労や眠気、病気による事故などを無くしてしまうことができるようになる。

一方で、自動運転の技術は新しい技術であり、二重、三重のフェイルセーフが取り入れられる前提であっても、新たなリスクは皆無ではない。新たな安全対策のために、最初はドライバーと自動運転の二人三脚でのスタートが現実的だと思われる。

さらに、人材不足を補うだけでなくコスト面においても良い影響をもたらす可能性がある。運送事業の原価として、他業種と比較しても低賃金と言われている中で、例えばトラック運送 事業の場合には、人件費が約4割と大きな比重を占めている。自動運転によるコスト削減を実現することで、運輸業界の低賃金、長時間労働という労働環境の改善につなげられる可能性がある。

以上のように、運輸事業者にとっても「自動運転」などの新しい技術に対する期待は高い。やはり重要なのは、自動運転が、運輸業界に携わる人の仕事を奪うものではないということだ。 長時間運転など、人よりも自動運転が適した業務は徐々に自動運転化し、人間は、人に適した業務に専念することで、より良いサービス提供ができるようになると思う。

小島薫(こじま・かおる)
一般社団法人運輸デジタルビジネス協議会 代表理事
(『モビリティと人の未来』第14章「ICTで運輸の人手不足を解消する」P210-213より抜粋)


モビリティと人の未来

モビリティと人の未来──自動運転は人を幸せにするか

自動運転が私たちの生活に与える影響は、自動車そのものの登場をはるかに超える規模になる。いったい何が起こるのか、各界の専門家が領域を超えて予測する。

著者:「モビリティと人の未来」編集部(編集)
出版社:平凡社
刊行日:2019年2月12日
頁数:237頁
定価:本体価格2800円+税
ISBN-10:4582532268
ISBN-13:978-4582532265

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特集:モビリティと人の未来

自動運転によって変わるのは自動車業界だけではない。物流や公共交通、タクシーなどの運輸業はもちろん、観光業やライフスタイルが変わり、地方創生や都市計画にも影響する。高齢者が自由に移動できるようになり、福祉や医療も変わるだろう。ウェブサイト『自動運転の論点』は、変化する業界で新しいビジネスモデルを模索する、エグゼクティブや行政官のための専門誌として機能してきた。同編集部は2019年2月に『モビリティと人の未来──自動運転は人を幸せにするか』を刊行。そのうちの一部を本特集で紹介する。