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5G幕開けのMWC19、キラーアプリケーションは模索中

2019.03.08

Updated by Naohisa Iwamoto on March 8, 2019, 12:00 pm JST

スペイン・バルセロナで開催されたMWC19 Barcelona(旧Mobile World Congress)の会場は、「5G」の文字に埋め尽くされていた。2019年には商用化を開始する地域が拡大する見込みの5Gであり当然のことではあるが、一方で5Gが必須のキラーアプリケーションは模索中の段階であることも浮き彫りになった。

基地局など設備側の対応進む、楽天が存在感

商用化開始の波が押し寄せている5Gだけに、基地局やネットワーク設備のベンダーは自社の優位性のアピールを行っていた。

例えば、米国との関係が課題となっているファーウェイは、B2B事業の展示に例年と変わらず大規模なブースを設けたほか、コンシューマ向け、法人向けなど合計4つのブースで展示を行い、相変わらずの存在感を示した。5Gに向けては、すでに4万の基地局を世界で出荷済みという。展示では、設置や災害時の対応が容易な小型5G基地局、既存の2G~4Gと5Gに省スペースで対応できる基地局などで、今後の基地局展開への意気込みを示した。5Gを支える固定ネットワークのパフォーマンス向上に向けては、既存の16台のルーターを1枚で置き換えられる8Tbps対応のスイッチングカードを展示。コアネットワークのクラウド化から、端末向けの5Gモデムチップ「Balone 5000」までエンドツーエンドでソリューションを提供していることをアピールした。

▼「5G is ON」を掲げる広大なファーウェイのB2B事業のブース

エリクソンは、すでに300万の設置済みの基地局が「5Gレディ」であることをうたう。4G向けに設置してある基地局が、ソフトウエアの対応によって5Gの基地局として稼働できるという。移行期の技術として、1つの基地局を使って4Gと5Gを同じキャリア(搬送波)で共存させるスペクトラムシェアリングを提案。1ミリ秒ごとに周波数ごとに4Gと5Gを制御することで、4Gから5Gへのマイグレーションをスムーズに行えるようにする。将来の技術として展示していたのが、ナイロンテープに3.5GHzのアンテナを「印刷」したテープアンテナ。5年後といった時期の実用化を目指すもので、手軽に5Gのアンテナを設置できることからサービスエリアの展開を見込む。

▼スペクトラムシェアリングのデモを行うエリクソンブース。画面中、水平軸が時間、垂直軸が周波数で、オレンジの5Gトラフィック、グリーンのLTEトラフィックを1つの搬送波でシェアリングしていることを示す

ノキア、ZTEといったベンダーも5Gの基地局からコアネットワークまでの設備を展示するコーナーを用意し、5Gへの対応を示した。国内企業ではNECが5Gの無線機器や、パ0トナー企業との協業による5Gを使ったビジネスプラットフォームの提供について展示を行っていた。

MWC19に出展した楽天は、10月の4Gによる商用サービスと今後の5Gのサービスを見据えた、「楽天クラウドプラットフォーム」を紹介。仮想化プラットフォーム上で基地局からコアネットワークまでを構築するもので、三木谷浩史代表取締役会長兼社長は「誰もやったことのないネットワークだが、10月の稼働に向けて順調に開発や設置が進んでいる」と説明する。専用のハードウエアを使わずにキャリアのプラットフォームを構築し、5Gへも同じプラットフォームで対応できることで、投資を抑えて携帯事業に参入できることを改めてアピールした。また、このプラットフォームについて「MWC19で、世界の主要キャリアの社長などとミーティングを行った」(三木谷氏)とし、今後のプラットフォームの国際的な展開にも意欲を見せる。

▼フルクラウドで通信事業者のプラットフォームを構築できることをアピールする楽天ブースの展示

用途はエンタメから産業まで多様だが切り札はまだ

5Gのユースケースも、前年までのMWCよりも具体化した内容の展示が多く並んだ。5Gの低遅延の性能を生かしたユースケースの一つが、遠隔地などと一緒に楽しめるエンターテインメントのソリューション。ノキアのブースでは、ヘッドマウントディスプレイと手にした端末を使って、5Gを介したバーチャルな卓球を実演。韓国KTはバーチャル野球をデモし、ピッチャーが投げるアクションに対応してVRで表示されるボールを、仮想的に打つシーンの体験を提供していた。またインテルなど多くのブースでは、VRによる対戦ゲームを5Gのソリューションとして展示した。

▼ノキアのブースではバーチャル卓球を5Gネットワークを介して楽しむ

同じくエンターテインメントのユースケースでは、遠隔協調の音楽演奏も5Gの低遅延を活用したソリューションとして実演されていた。NTTのブースでは、ホログラムを使って表示される遠隔(実際にはブースの片隅)のボーカル&キーボード奏者と舞台上のギター奏者が同時に演奏をするデモをNTTドコモが行い、多くの来場者の関心を集めていた。エリクソンとボーダフォンのブースでも、5Gを使って遠隔協調による演奏が実演された。

▼NTTドコモの遠隔協調型の音楽演奏。画面左が遠隔にいる奏者のホログラム映像で、右のギター奏者とズレのない演奏ができることを示した

遠隔との大容量低遅延の通信によるユースケースとしては、NTTドコモの遠隔医療のデモが、一つの具体的な実用例として際立っていた。高精細カメラで撮影した手術部位の拡大図や電気メスの状態などを、手術室内と同様に遠隔の専門医に5Gで共有。移動中の列車の中から、専門医が手術室に的確な指示を出せる。MWC19では、一歩進んだユースケースとして、現在開発中の移動手術室になるトラックの模型を展示。5Gにより、場所を問わずに高度な医療が受けられる環境の整備を目指していることをアピールした。

▼NTTドコモブースに展示された5Gを活用した遠隔医療トラックの模型。後ろに写っているのは手術室の様子

低遅延性能を生かしたユースケースでは、昨年までに引き続き、工場内の製造機器やロボットなどの制御を5Gを介して行うデモが各社のブースで見られた。公衆回線の5Gサービスを使うか、自営のネットワークとして5Gの技術を使うかは、適用の場面によって適したソリューションが考慮されるだろうが、配線が不要で低遅延の産業用無線ネットワークとして5Gの利用が通信事業者やベンダーから期待されていることがわかる。

大容量通信のユースケースでは、ファーウェイのブースでノルウェーにおけるサーモンの養殖の自動化ソリューションの展示もあった。養殖する海中を4Kカメラで撮影し、海面に設置した端末から5Gで陸上にリアルタイムで状況を知らせる。5Gで詳細な映像情報を得ることで、病気対策などに役立てるという。

遠隔からの自動車の運転のデモは、5Gのユースケースとしてここ数年デモされることが多い。そんな中で、エリクソンのブースではトラックの無人走行のサポートシステムとして5Gを活用するデモを示した。通常は無人走行するトラックの走行状態をセンターで5G経由の画像やデータで監視。トラックに何かトラブルが生じたような場合は、即座にセンターの人間が運転を遠隔から代行するというソリューションである。スゥエーデンのイエテボリのテストコースと実際につないだデモでは、自在に遠隔操作ができることを示していた。

▼エリクソンのブースで展示されたトラックの無人走行のサポートのデモ。展示会場からスゥエーデンにあるテスト車を5Gを経由して実際に動かしている

ここに掲げただけでなく、IoTから遠隔操作まで多くのユースケースがMWC19には展示されていた。それぞれは5Gの効能を生かしたユースケースで、その中のいくつかは近く実用化されると感じさせる。しかし、どこか既視感のあるものばかりであることも事実。5Gスタートの春に開催されたMWC19で、新しい5Gのキラーアプリケーションが見えてきたかというと、疑問が残る。様々な業界や産業とのパートナーシップを持ち、通信事業者や通信機器ベンダーが知恵を出し合っている中で、まだ直近の5Gのキラーアプリケーションは模索中という状況を示してるようだ。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。