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リクナビショックが明確にした日本企業が勝てない理由

Rikunavi’s data scandal shows why Japanese companies cannot win

2019.09.24

Updated by Mayumi Tanimoto on September 24, 2019, 14:28 pm JST

リクルートキャリアが「リクナビDMPフォロー」というサービスで、企業応募者のリクナビなどでの行動履歴をもとに、応募企業への内定辞退率を算出して顧客企業に販売していた件が衝撃を与えましたが、日本ではその後も思ったほど騒ぎになっていないようです。

先月もこのコラムで取り上げましたが、続報を見ていると、リクルートキャリア内部だけではなく顧客企業でも、社内の力関係が応募者やサイトユーザーの守秘義務を無視してしまう結果を産んだようです。

これは、日本が特にIT業界で他国に後れを取っており、どうしても勝てない理由を象徴しているように思えます。

まず一番の問題は、データを扱う業種においてエンジニアの発言権が非常に低く、営業やマネージメントの要望が押し切られてしまうということです。

当然、現場では気がついていた人がいたはずですが、他人事や営業の利便性や収益を重要視する声の方が強かったということは、現場の声を吸い上げる文化がないことを示しています。

テクノロジーの世界において、現場の体験や経験というのは、まさにサービスを形作るものですから非常に重要です。

製造業の世界では、かつては「QCサークル」など現場の声を吸い上げる活動があり、現場の視点や声というのは大変重要視されていたわけですが、日本のテック業界においてはそれがないということです。

2番目は、リクルートキャリアやその顧客企業である日本の上場企業では、まだまだ個人情報保護に関する知識が20年前のままで止まっているということです。

同規模の北米や北部欧州の大手企業であれば、該当しない場合でも、最悪の事態を予期して最も厳しい基準であるGDPRを想定してデータ管理のプロセスを設計しますので、リクナビショックのようなことはマレです。

仮に同じような事件が起きたとしたら、意思決定に関わった人々が解雇になってしまう可能性が高いでしょう。

法務部やリスク管理部、情報セキュリティ部署の担当者の責任者が追及されるはずです。外部監査でも瑕疵を指摘されるでしょう。

処分されるのは嫌ですから、リスクを想定してひと足先に手を打っておくことが多いのです。多くの場合は、外部からコンサルタントを入れてリスクの洗い出しをしたり、提言を出してもらい、自分には責任が及ばないような対策を取ります。

一見するとずるいやり方ではありますが、外部の意見を取り入れたほうがリスクは低くなる可能性が高いですし、会社にとっても自分とっても良い事ですから悪いやり方ではありません。

こういった視点がない時点で、日本の大手企業にはリスク管理や個人情報保護の知識がアップデートされていない人がかなり多いということでしょう。そもそも全く勉強していない人も多いでしょう。 個人情報はそれほど複雑な分野ではありませんから、それさえも勉強していないということは、他の分野は想像するまでもありません。

そういった知識の陳腐化や勉強不足というのが、近年の日本企業の戦略や革新性のなさといったものにつながっているのではないでしょうか。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。