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ダメな店に妥協してはいけない ウイスキーと酒場の寓話(8)

2019.11.18

Updated by Toshimasa TANABE on November 18, 2019, 11:51 am UTC

立て続けにダメな店に当たってしまうことがある。人生、残された食事の回数は知れているのだから、無駄弾を撃っている場合ではないのだが、まったく困ったものである。飲食店は、開業の敷居が低いうえに、素人のバイトで回そうとする、などが重なった結果、基本がなっていないという場合も多い。

敷居の低さの一つの要因として「食品衛生責任者」がある。飲食店を開業するには、食品衛生責任者の資格を持っている人が店に1人必要であるが(調理師免許は不要)、この資格は1日の講習で取得できる。どこで取得しても、日本全国どこでも通用する。私が受講したときは、半分以上の受講者が外国人だった。受講していた外国人の日本語のレベルは知らないが、講習は全部日本語だ。午前と午後の講師が違うのだが、ツカミのネタが全く同じで、かなり昔の「ネズミの糞で食中毒」という話だった。要するに「受講料を払って1日話を聞けば誰でもなれる」のが食品衛生責任者なのである。

では、店のダメぶりをご紹介していくことにする。ダメにもいろいろあって、ホッケの刺身を平気で出す、などという、単に無知なのだか、実はチャレンジャーなのか分からないような話もある。ホッケは、高確率で筋肉中にアニサキスがいるので、北海道では生では食わない魚である。また、身が水っぽくて開いて干さなければ美味しくならない。ホッケは「開き」に限るのである。

今回は、店のオペレーションの話を中心にしたい。店名や場所などはネガティブな話なので書かない。この手のダメは他にも無数にあるということもある。どこかで遭遇したダメをちょっと一般化して、といった内容である。

ダメその1)新規開店のカフェ的な店の「詐欺まがい」

「開店記念 生ビール100円」と出ていたのでランチを食べに行ってみたら、ランチは2階ということだった。2階に上がっていくと、再度「食事か?」と聞かれ(だから2階に上ったのだ)、ランチと100円ビールを注文したところ、100円ビールは1階のスタンディングだけ、ときた。

これは、詐欺に近い呆れた対応だ。開店記念のビールのサービス企画であれば、水を出す代わりに、あるいはランチと一緒にお盆に載せて持ってくるくらいのことがなぜできないのだろうか。また、「100円ビールは、1階だけでのご提供です」と最初に一言あれば、印象はかなり違う。「あ、気を利かせてくれたな」と思えば、また来ようか、ともなるが、この段階で注文せずに店を出ても良いくらいのひどい対応である。

これでは、100円ビールがまったくの逆効果だ。若いスタッフで回していたが、客に気に入ってもらおう、引き留めよう、また来てもらおう、ということに気が回っていない店であること(あるいはスタッフに教え込んでいない)が分かってしまう。

100円に釣られた方が悪い、という見方もあるかもしれないが、開店記念なのである。あるいは、100円ビールでランチ時に長居されても困る、というのであれば、そこは「2階では1杯だけとさせていただきます」などと説明をすれば済む話だろう。

さらに、この店のスタッフは、イケてるつもりなのかどうか知らないが、店のユニフォームではなく個人の外歩き用の中折れ帽を被ったまま接客していた。これも呆れた話だ。男性の帽子は、室内では脱ぐものなのだ(これは客についてもいえるが、それは別に論じたい)。

ダメその2)以前は悪くなかった中華料理屋の「終わっちゃいました」

4人掛けのテーブル席が8卓くらいの以前に行って料理は悪くなかった中華料理屋での話。テーブルに置いてあるのではなく、フロアスタッフが都度持って来るメニューの「本日のお勧め」が数点。いくつかあるお勧めうち先頭の料理が9時前かそこらで「終わっちゃいました」だった。

この「終わっちゃいました」という言い方がそもそもダメなのである。自然に終わっちゃってるわけではないのだ。しかも、酒とそれを注文したら、酒がまず出てきて、しばらくしてから「終わっちゃいました」と伝えに来たのである。メニューを再度渡そうとするので「他は要りませんから」と断る。メニュー全体を良く見た上での注文なのである。

結局、酒だけ飲んで(お通しはあったかもしれない)出てきたが、お勧め料理の残数くらいは、2人か3人のスタッフなんだから把握・共有しておいてもらいたいものだ。よしんば、フロアのバイトが気が利かなかったとしても、店主(料理人だろう)は把握しているはずだ。本日のお勧めメニューの売り切れたものには線を引いてから客に持って行く、あるいは客のところに向かうスタッフに注文を受けるときに客に売り切れを伝えるよう指示する、諸般の事情でそれらができなくても、オーダーを聞いたらすぐに売り切れであることを客に伝える、くらいのことができないのは困ったものだ。

この「終わっちゃいました」については、似たようなことが本当に多い。某ビアレストランで店頭のディスプレイにあったローストビーフとビールを注文したところ、「終わっちゃいました」だったんで、「じゃ、別の店に行きます」とそのまま出てきたことがあるが、店頭ディスプレイを仕舞う、あるいは値札だけ伏せるなどが、「できていない」のか、「わざとしていない」のかは知らないが、これで客を釣ってその客には売れ残っているモノを売ろうと考えているとしか思えないのだ。

これ実は、安易に妥協してしまう客の側にも問題がある。ダメその1であれば、2階で「ビール100円は1階だけ」と知れた段階で店を出るべきだ。ダメ2のような場合も同様だ。特に表のディスプレイなどに釣られた場合は、即座に出てくるべきなのである。妥協して適当な注文をするから、店側もそれで良いと思ってしまうのだ。

とにかく、大威張りで「終わっちゃいました」といって恥じない態度は撲滅したいものである。食材が残ると無駄だし、仕入れや仕込みには適量ということもあるので、全部売れて無くなってしまうのはとても良いことなのだ。「終わっちゃいました」ではなく、「申し訳ありません。本日売り切れてしまいまして。お知らせできておらず、すみません」などであればまだしもである。そして、そんな言い訳をしなくても良いように、ちょっとだけ気を利かせたり準備したりしよう、ということなのである。

一方で、素晴らしいオペレーションを維持している老舗もある。例えば、東京・自由が丘の居酒屋「金田」である。山口瞳さんなども通ったところで「金田酒学校」とも呼ばれる名店だ。

この店は、カウンターにA4横1枚の毎日変わるメニューが、2人に1枚くらいの感じでたくさん置いてある。厨房とカウンター・スタッフの連携がしっかりしているので、売り切れたものはすぐに鉛筆で線を引くことになっている。何枚もあるすべてのメニュー全部に線を引く。何枚もあるのに、完了するのに3分もかからない。これを当たり前に回しているのである。したがって、「終わっちゃいました」は皆無である。

いちいち奥から持って来るメニューで、あるいは店頭のディスプレイで、そこ1カ所だけチェックする程度のことがなぜできないのか、なのである。商売というものを我が事として考えてない、としか思えないのである。

もう一つ考えられるのは、私のような「おっさんの独り客」は店から歓迎されていないのではないか、である。お呼びじゃない客にダメなオペレーションで接して早く帰ってもらうという高度な作戦かもしれない、とチラと思ったりもするのである。実際、某焼肉チェーンに独りで行ったときに、席は空いているのに「おっさんの独り客はお呼びじゃないんだよ」(意訳)と男性店員に入店を断られたことがある。

金田は、今でもたまに寄らせてもらうけれど、100円ビールの店も、「終わっちゃいました」の店も、おっさんの独りはお呼びではないところも、たった一度の経験で二度と行かないことに決めて、現在もそれを実践中である。

ウルサイことを書き連ねてきたが、池波正太郎さんあたりが私を見たら、やっぱりイライラしっぱなしなのではないかとも思っている。「同行者の飲んだり食べたりするペースってものに配慮しなさい」などと指摘されそうである。


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著者名
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ISBN
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田邊 俊雅(たなべ・としまさ)

北海道札幌市出身。システムエンジニア、IT分野の専門雑誌編集、Webメディア編集・運営、読者コミュニティの運営などを経験後、2006年にWebを主な事業ドメインとする「有限会社ハイブリッドメディア・ラボ」を設立。2014年、新規事業として富士山麓で「cafe TRAIL」を開店。2019年の閉店後も、師と仰ぐインド人シェフのアドバイスを受けながら、日本の食材を生かしたインドカレーを研究している。