WirelessWire News The Technology and Ecosystem of the IoT.

by Category

ウイスキー 交流 イメージ

「ブレンデッド」の意味を考える ウイスキーと酒場の寓話(22)

2020.03.17

Updated by Toshimasa TANABE on March 17, 2020, 15:56 pm JST

酒屋で見慣れない酒を見つけた。ラベルには「BLACK BOTTLE」(以下、ブラックボトル)とある。棚にあった能書きを見ると、アイラ島の7蒸留所の原酒をブレンドしたブレンデッドウイスキーであると知れた。

アイラ島には、現在、8つの蒸留所が稼働しているが、ブラックボトルでは2005年稼働の「キルホーマン」以外の7蒸留所の原酒を使用しているという。具体的には、「カリラ」「アードベッグ」「ラガブーリン」「ラフロイグ」「ボウモア」「ブルィックラディ」「ブナハーブン」である。ちなみに、どれも好きなシングルモルトである。

特徴的なピート香(ヨード香)がアイラモルトの個性であるが、その個性をどのくらい保ってのブレンデッドなのか、と興味があったので1本買ってきた。価格は2000円をちょっと超えるくらいだった。ネットではもっと安く買えるようだが、送料だ在庫だ、不在で再配達だなんだかんだと問題が発生する可能性もなくはないので、こういう時は「出会い」と思って現物をサクッと買ってしまうに限る。

早速、その夜に飲んでみた第一印象は、「バランタインに似た感じの好バランスのブレンデッドだな」であった。好き嫌いが分かれるという側面もあるアイラモルトに特有なピート香は、抑え込まれており、甘みさえ感じさせる柔らかいブレンドなのであった。同じブレンデッドスコッチの銘柄だと、ホワイトホースあたりの方がアイラモルトを感じさせるくらいである。バランタインの甘さとバランスが好みならば、飲んでみる価値はあるだろう。

推測の域を出ないが、ブラックボトルでは7種類のアイラモルトはアクセントとして少量ずつ使い、ハイランドあるいはスぺイサイドの穏やかなモルトをブレンドしてから、グレーンウイスキーと合わせて加水し40度に仕上げた、という感じではないだろうか。特に「キーモルト」についての言及もないようなので、どのモルトが多いなどということは、あまり気にすべきではないのかもしれない。例えば、同じくらいの価格帯のジョニー・ウォーカーの黒が「40種類の原酒をブレンド」などと謳っているのに比べると、シンプルな構成だと考えられる。

飲み方としては、好みもあるがストレートかオン・ザ・ロックだろう。40度ということもあるが、水やソーダで割ってしまうと、ちょっと腰が弱い感じがする。ホワイトホースやデュワーズ、フェイマスグラウスなどに比べると、その銘柄に特徴的な「ちょっと引っかかる感じ」が弱いのだ。もっとも、価格帯はブラックボトルのほうが上なので、特有のクセをブレンドによって抑えてバランスを優先させている、ということもいえるだろう。

それにしても、好みが分かれる強烈な個性のアイラモルトを使っていても、ブレンドによってここまでバランスが良く飲みやすいウイスキーに仕上がる、ということが、ブレンデッドウイスキーという酒に対するブラックボトルでの再発見であった。

愛好者の多いアイラモルトを7種類使っていることを表に出しているのは、それに惹かれるユーザーがある程度存在するがゆえのマーケティング戦略なのであろうが、「ブレンデッドならではのバランスと飲みやすさ」がブラックボトルの真の姿であろう。実際、アイラっぽさを期待していたら全然違った、という少し拍子抜けな感じも正直にいえばあった訳で、アイラを前面に出すことが、飲み手の側の期待値を上げてしまっていて、その価値が過小評価されている可能性もなくはないだろう。

そういうわけで、ブラックボトルに限らず、手頃な価格で入手できるブレンデッドウイスキーの話になるのであるが、ブレンデッドウイスキーの良さはいろいろな飲み方で楽しめる、守備範囲が広い、ということだろう。もちろん、銘柄によって向き不向きはある。個人の嗜好にもよるが、ソーダ割りにして美味い酒、水割りが好ましい酒などがある。場合によっては、お湯で割ったりもする。ストレート中心に個性を味わうシングルモルトとは違った、ブレンデッドならではの楽しみ方だ。

ウイスキーは食中酒なのか、という議論もあるだろうが、食事のときなどは水割りにしてあまり強い個性が残らないブレンデッドウイスキーが良い。完全に個人の嗜好であるが、インドカレーに最も合う酒は「薄めに作ったブレンデッドスコッチの水割り」だと考えている。そういう時には、先に紹介したブラックボトルは好適かもしれない。

シングルモルトは、個性があって面白いし、個人的にも相当に好きな酒のジャンルではあるのだが、世界的なウイスキー人気で原酒が不足気味である。これは、かつての有名銘柄の劣化にも現れている気がする。熟成期間を短くしたり、あまり質の良くない樽で誤魔化したりしているように感じられる製品は、どれとはいわないがある。もちろん、品質を保っている銘柄もあるが。

一方で、売れ筋のブレンデッドに回しているだけで原酒が捌けてしまうので、蒸留所の商売的には悪くはない話でもあるようだ。かつてはずいぶん見かけた「ボトラーズ」もののシングルモルトを最近はあまり見かけなくなったのも、ブレンデッドが売れていてボトラーズに売らなくても良くなったからではないか。ボトラーズというのは、再販業者が樽単位で買い付けたもので、どうしても割高になるし、樽ごとの当たり外れもあった。一期一会の楽しさという点では価値があったが、安定したオフィシャルボトルに比べるとどうしても不安定な印象は否めなかった。

いずれにしてもブレンデッドウイスキーは、気負わず、気取らず、過度に酒自体のことを気にせずに、普通に飲めるのが良い。例えば、オーナーバーテンダーが一人でやっているような小体な店に初めて入って、いきなり「アイラモルトは何がありますか?」なんてことをずけずけと訊くような行為はあまり好ましいとは思えない。アイラは好きだけれど、スタンダードな味わいのウイスキーがあった上でのアクセント、という趣があるのも事実なのである。

学生の頃、生まれて初めて「ウイスキーは美味い」と感じさせられたのは、バランタインの17年だった。当時は確か2万円近くしたし、今より明らかにクオリティも上だったと思うが、舌の上で転がすと味蕾(みらい)の間に沁み込んでいって、立体的な厚みが感じられた。柔らかい苔を舐めているような、なんともいえない味わいだった。このときは、その価値も分からずに1回に半分ずつ飲んで、2日で空けてしまったのだが、翌朝まったく残らず、「いい酒は二日酔いなどにはならず、多少飲み過ぎても、ただまだ酔っているだけ」なのだということも知った。今でも、味は多少変わったとはいえ、バランタインの17年は、ブレンデッドウイスキーの、あるいはウイスキーそのもののリファレンスの1本だ。


※カレーの連載が本になりました! 好評発売中!

書名
インドカレーは自分でつくれ: インド人シェフ直伝のシンプルスパイス使い
出版社
平凡社
著者名
田邊俊雅、メヘラ・ハリオム
新書
232ページ
価格
820円(+税)
ISBN
4582859283
Amazonで購入する

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

田邊 俊雅(たなべ・としまさ)

北海道札幌市出身。システムエンジニア、IT分野の専門雑誌編集、Webメディア編集・運営、読者コミュニティの運営などを経験後、2006年にWebを主な事業ドメインとする「有限会社ハイブリッドメディア・ラボ」を設立。2014年、新規事業として富士山麓で「cafe TRAIL」を開店。2019年の閉店後も、師と仰ぐインド人シェフのアドバイスを受けながら、日本の食材を生かしたインドカレーを研究している。