original image: Siergiejevicz / stock.adobe.com
為政者には非難を受け入れる寛容さが、市民には人は常にベストの選択肢を選べるわけではないことへの理解が必要とされる
2020.07.29
Updated by Shigeru Takeda on July 29, 2020, 14:10 pm JST
original image: Siergiejevicz / stock.adobe.com
2020.07.29
Updated by Shigeru Takeda on July 29, 2020, 14:10 pm JST
書籍は単著(著者が一人の書籍)が普通で、対談本や共著はどちらかといえば変則的な出版物だ。一般的に単著と比較して共著は(通常は)売れにくいからである。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のための緊急出版ということになると、ハナシは別だ。執筆陣は非常に厳しいスケジュールでまとまった論考を求められる。談話を収録できただけでも御の字、という売れっ子も含まれるだろう。「本」という形式ではあるが、深い論考のための猶予が与えられていないので、こういう緊急時の作り方はかなりテレビ的になる。全体のキャスティング、そして誰をクローズアップする/しない、ということが売れ行きを左右したりもする。
加えて、タイミングが重要になる。今回は敵の正体が「わかりにくい」ということもあり、(出版が)早過ぎれば「売れるかもしれないがウソになる確率が高まり」、遅過ぎると「言論としては間違っていないが、それはすでに周知の事実なので誰も買わない」ということになりかねない。そもそも(冷徹な)予測を、という編集部からのリクエスト自体に無理があるので、願望・希望・絶望・要望しか集まらない、という事態も発生するだろう。
しかし「誰が言ってることが正解なのか分からない」という状態が本当の「正解」と考えると、個人の信条にすがる単著はあまりにも危険なので、出版社としては「全体としてバランスをとる」べく編集作業を施した共著を発行することになる。緊急事態宣言解除(5月25日)以降、6月下旬くらいから明確な「第二波」が発生しているので、このあたりに「緊急出版」を行うのが(ビジネスとしては)賢いのかもしれないが、これとてよくある結果論の一つに過ぎない。
共著という形式は、正解を提示するために存在する訳ではない。料理でいえば、具材がずらっと並べられた状態だろうか。どれを採用してどんな料理にするか(=考えるか)は読者に委ねられている。そしてその料理を食べるのは、家族あるいはごく身近にいる仲間であろう。具材は「賛否両論が盛りだくさん」で「全体としての方向性にまとまりがない」ものほど信用できる。それが私たちが目の当たりにしている現実そのものだからだ。逆にこれからの経済のあり方などについて予定調和している共著ほど気持ちの悪いものはない。
その意味において(全ての書籍・ムック本に目を通した訳ではないが)、おすすめしたい共著の書籍が2冊ある。まず(これはコロナを意識して制作されたものではないはずだが)『予測がつくる社会』(山口富子・福島真人編、東京大学出版会、2019年2月)、そして『コロナ後の世界を生きる - 私たちの提言』(村上陽一郎編、岩波新書、2020年7月)だ。
前者は、地震学・防災人間科学・経済学・犯罪学・生命科学・文化人類学・疫学などの専門家が実施した「予測という行為に関する学際研究」の成果を一冊の本にまとめたものだ。この研究活動自体がかなり混乱を極めたようで、コンテンツも玉石混交だが、それをさらけ出しているところに好感が持てる。予測そのものが再帰的に行われるのはもはや人類の歴史的習性で如何ともしがたいこと、あるいは、予測については科学者と消費者の中間に介在する政策関係者とメディアが一番ダメで、こいつらがいたずらにヒートアップさせることで、社会が混乱しているという状況等をズバリ言い当てている。「序文(はしがき)」だけでも面白いので、ぜひ読んでみていただきたい。
福島真人先生も、いずれ新教養主義宣言にお招きしたい論客の一人なのだが、この記事は正直なところ、2冊目の『コロナ後の世界を生きる - 私たちの提言』(村上陽一郎編、岩波新書、2020年7月) を紹介したくてここまで駄文を連ねてきたのである。執筆陣とテーマは下記の通りだ。
藤原 辰史(パンデミックを生きる指針――歴史研究のアプローチ)
北原 和夫(教育と学術の在り方の再考を)
高山 義浩(新型コロナウイルスとの共存――感染症に強い社会へ)
黒木 登志夫(日本版CDCに必要なこと)
村上 陽一郎(COVID-19から学べること)
飯島 渉(ロックダウンの下での「小さな歴史」)
ヤマザキマリ(我々を試問するパンデミック)
多和田 葉子(ドイツの事情)
ロバート・キャンベル(「ウィズ」から捉える世界)
根本 美作子(近さと遠さと新型コロナウイルス)
御厨 貴(コロナが日本政治に投げかけたもの)
阿部 彩(緊急事態と平時で異なる対応するのはやめよ)
秋山 正子(訪問看護と相談の現場から)
山口 香 (スポーツ、五輪は、どう変わるのか)
隈 研吾(コロナの後の都市と建築)
最上 敏樹(世界隔離を終えるとき)
出口 治明(人類史から考える)
末木 文美士(終末論と希望)
石井 美保(センザンコウの警告)
酒井 隆史(危機のなかにこそ亀裂をみいだし、集団的な生の様式について深く考えてみなければならない)
杉田 敦(コロナと権力)
藻谷 浩介 (新型コロナウイルスで変わらないもの・変わるもの)
内橋 克人(コロナ後の新たな社会像を求めて)
マーガレット・アトウッド(堀を飛び越える)
個々の論考のレベルも高いが、やはり編者の村上陽一郎氏の章のユニークさが際立つ。何しろ「私たちの社会に最も欠けるもの、そしてこのコロナ禍で切実に求められているものが『寛容』ではないか」とおっしゃる。実に深い。このあたりのことをもっとご本人にお聞きしたい、ということで企画したのが【村上陽一郎本人が登場】8月7日(金曜)18:00開始『ポストコロナ時代に私たちが身につけなければならない考え方とは何か』である。
本記事は「このオンラインイベントにより多くの方に参加していただきたい」という願いを込めたPR記事なのである。みなさんぜひご参加ください。
おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)
登録はこちら日経BP社の全ての初期ウェブメディアのプロデュース業務・統括業務を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。WirelessWire News、Modern Times、localknowledgeなどのウェブメディアの発行人兼プロデューサ。理工系大学や国立研究開発法人など、研究開発にフォーカスした団体のウエブサイトの開発・運営も得意とする。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997-2003年)、情報処理推進機構(IPA)Ai社会実装推進委員、著書に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス、2018年) など。