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ビジネス デジタル DX イメージ

企業がDXを推進するのは「さらに儲けるため」であるべき

2020.08.05

Updated by Hitoshi Arai on August 5, 2020, 13:58 pm JST

今、DX(ディジタル・トランスフォーメーション)推進への取り組みを語ることがブームになっている。新型コロナウイルスのおかげで、否応なしに日本企業(公的機関も)はその働き方を見直さざるをえなくなった。「印鑑を捺すために出勤する必要はない」という極めて日本的で分かりやすい論点もきっかけとなり、ディジタル技術を活用して、業務そのものやプロセス、ビジネスモデルを変革しよう、という取り組みの重要性が幅広く認知されるようになった。

また、リモートワークをきっかけとして、各種プラットフォームはクラウドへ移行する、決済系を見直す、などの動きが起こり、これをビジネスチャンスと見たコンサルティング支援、機器・ソフトウエア、ノウハウのある人材、などのプログラム・リソースも次々に発表されている。

しかし、「トランスフォーメーションの結果、当該企業が何を実現するのか」という目標やビジョンが感じられない。DXという手段そのものが目的化していることはないだろうか?

そもそも、経済産業省の「DXレポート〜ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開〜」にもあるように、部分最適の積み上げで作られた既存システムをなんとかしないとデータ時代の敗者になる、という危機感を示したに過ぎないいつもながらの後ろ向きな提言である。過去にも、このままだとソフトウエア人材が20万人不足するであるとか、最近ではセキュリティ人材が足りないなど、「対策をしないと大変なことになる」という論調の似たような経産省レポートは何度も見かけた。

一方で、IDC Japanによる「DXの定義」では、「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォームを利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立することを指す。」と、良く分からないながらも、もう少し「前向き」な世界を描いている。「なんとかしないと大変だ」ではなく「新しい価値を作ろう」という呼びかけなのだ。

どちらの理解にせよ、リモートワークを新常態にせねばならないであるとか、ハンコ不要の業務プロセスにする、といった新型コロナウイルスのおかげで極めて現実的になったニーズとも相まって、DXがバズワードとなった。望むべくは、レガシーシステムからの脱却を目標にするのではなく、その上でデータ+AIの活用により「新しい価値」を創造することを目的とした動きになってほしいものである。そんな視点から、その考え方が参考になるかもしれないイスラエルのソリューションを見つけたので二つ紹介する。

1件目は「3dSignals」で、製造業のDXを支援するソリューションを提供している。彼らによれば、世界には6400万台の装置が製造ラインで使われているが、そのうちまだ8%しかネットワークにつながっていないのが現実なのだという。半導体製造ラインなどは最新の設備で高い生産性を実現するように作られているが、多くの機械や材料の製造ラインでは、まだまだ何十年前の古い装置が現役で使われていたり、独自プロトコルであったり、容易には解決できない様々な背景があって各装置はネットワークに接続することができない。これらの装置が故障すると、修復するまで製造ラインが止まることになり、生産効率は下がる。早めにメンテナンスをすれば、装置の故障は防げるものの、やはりそのために一定のダウンタイムは必要となる。

3dSignalsは、汎用のセンサーとエッジコンピュータを製造ラインの各装置に設置する。センサーは電流、振動、音などから、製造ラインの各装置が正常に動作しているか、異常がないかどうかをモニターする。センサーは最大8個まで付けられるが、通常は2個から3個のようだ。エッジコンピュータが各センサーからのデータを収集して、クラウド上に集約する。

集められたデータをAIが解析することにより、各装置の稼働率や異常の有無などを明らかにし、製造ラインの状態がリアルタイムで可視化される。従来は、現場の技術者の経験とノウハウに基づいて運用していたようなラインも、可視化されたデータに基づいた様々な意思決定が可能となり、生産効率の改善につながる。彼らのソリューションの目的は、製造業現場での生産効率の改善である。そのために、最新の製造装置を導入するのではなく、既存の製造装置から運転音、振動などの極めて普通の情報を安価なセンサーデバイスで取得してディジタルデータ化し、AIにより分析することで異常を検知するのである。

2件目は「anodot」というツールである。対象としている産業は、インターネットを活用しているオンラインビジネスやeコマース、通信など幅広い。anodotは、これらの企業で用いられているデータベース、CRM、各種アプリケーション、ITインフラなどから取得できるありとあらゆるデータを集める。独自の解析ソフトウエアでこれらのデータを解析することにより、まずビジネスの「正常状態」を学習する。その上で、何か問題が起きた時に起こる様々な「異常」を相互に紐付けて行くのである。

例えば、オンラインサービスで契約ユーザが減った時に、アプリ、DB、ITインフラの動きがどのようにデータとして変化するのか、などを解析し可視化する。それにより、何かのメトリクス(分かりやすく加工した指標)に変化が起きたときに、その根本の原因が何であるかを把握しやすくするのだ。ビジネスとしてより良い結果を出すために、あらゆるデータを最大限活用する、という考え方である。

オンラインのビジネスを対象としているので、先の製造ラインの問題のように古い装置を使っているということはないだろうが、様々な業務プロセスが整理・統合されているとは限らない。しかし、データ化ができないところを直すのではなく、取得できるありとあらゆるデータを元にして、ビジネス全体が「To-Be」(将来のあるべき姿)に近付くための指標を明らかにするのである。

たった二例ではあるが、どちらも生産効率の改善や収益の最大化を明確な目的として、できる限りのデータを活用し、AIを使って解析をする、という意味では共通した特徴がある。さらにいえば、DXというキーワードで「ビジネスモデルの変革」などと大上段に構えず、「無駄を省いてできる限りお金を稼ぐ」という分かりやすい潔さがあるがゆえ、手段が目的と化すことは殆どない。これもイスラエルから学べることの一つではないだろうか。

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新井 均(あらい・ひとし)

NTT武蔵野電気通信研究所にて液晶デバイス関連の研究開発業務に従事後、外資系メーカー、新規参入通信事業者のマネジメントを歴任し、2007年ネクシム・コミュニケーションズ株式会社代表取締役に就任。2014年にネクシムの株式譲渡後、海外(主にイスラエル)企業の日本市場進出を支援するコンサル業務を開始。MITスローンスクール卒業。日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員。E-mail: hitoshi.arai@alum.mit.edu