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スキットル ヒップフラスコ 雪 イメージ

ウイスキーを「携帯」する ウイスキーと酒場の寓話(35)

2020.08.07

Updated by Toshimasa TANABE on August 7, 2020, 19:06 pm JST

前回、山の温泉に行ったら夜はスキットルで持参したウイスキーを飲む、と書いた。今回はスキットル、あるいはウイスキーを持ち歩く、ということについて。

以前、「スキットル」や「ヒップフラスコ」を検索して驚かされたことがある。使っている人をほとんど見たことがないので、正直なところ、そんなにたくさんの種類のスキットルが普通に売っているとは思っていなかったのだ。

スキットル、あるいはヒップフラスコというのは、酒を持ち歩くのに使う小さな金属製のボトルである。ヒップフラスコというだけに、尻のポケットに突っ込んだときにフィットするように、瓦のような形に湾曲しているのが定番だ。もちろん、単に平らな形状のものもある。

素材は、ステンレス、チタン、錫合金(ピューター)などが一般的で、表面に革を貼ってあるものもある。最近では、スキットルに入った状態で売っているテキーラなどの蒸留酒も見かけるようになった。

容量は、80ml程度から280ml程度まで。通常は、オンス(oz)という単位で容量が明示されている。1ozは約30mlで、ウイスキーをショットで飲むときのシングルに相当する。スキットルは大小さまざまで、素材や形、表面の仕上げなどに工夫があって、モノとして非常に楽しい。呼び方には、各々こだわりがあるかもしれないが、ここではスキットルとして話を進める。

現在、愛用しているスキットルは、9oz(約270ml)のもので、スキットルとしては大きな部類である。鏡面仕上げのステンレスの素っ気ないもので、もう20年近く使っている。数年前に飲食店を開業した時に作ったステッカーを貼ってある。

skittle

旅行のときには必ず、スキットルにウイスキーを目一杯詰めて持って行くことにしている。旅先では夕飯が和食の場合が多いし、ホテルでない場合、普通は宿にバーはない。その町のバーもよく分からない。旅で疲れているし、風呂に入った後でもあるので、出かける気にならない。ということで、寝る前に部屋でウイスキーが飲みたくなるのだ。

9ozも入るので、二泊三日程度の旅行なら、これにウイスキーを満たしておけば、ほぼ十分なのである。革張りではないので、春の山の温泉などで、残雪に埋めてスキットルごと酒を冷やす、というようなぞんざいな扱いでも問題ないところも気に入っている。

hip_flask

もう一つのポイントはフタである。スキットルは、本来はアウトドアで使うものなので、例えばランプの光しかないところでフタを落としたり、昼間であってもうっかりフタを川に落としたりすると、使い物にならなくなってしまう。そこで、フタが落ちないように、蝶番のついたステンレス板でスキットル本体とフタが離ればなれにならないようになっている。

中に入れる酒は、別にウイスキーでなくても良いのであるが、量も限られるので、やはりアルコール度数が高い蒸留酒、特にウイスキーを入れることが多い。赤ワインのように度数が低く澱があるような酒は、内部の腐食の原因にもなるし洗浄も大変なので避けた方が良い。

ウイスキーの度数は普通は40度か43度であるが、「カスクストレングス」という樽(カスク)で熟成させたものを加水せずにそのままボトリングした60度前後のものが好ましい。40度に比べるとアルコールの量では約1.5倍に相当する。9ozのスキットルをカスクストレングスで満タンにしておけば、アルコールの量だけでいえば、普通のウイスキーのボトル半分以上に相当する。

というわけで、カスクストレングスというのは、荷物に制約のある旅行にはぴったりのウイスキーともいえるのである。これを旅先の美味い湧き水で割って飲むのは、なかなか捨てがたい。もちろん、バーボンやスコッチを詰めて行くこともある。いずれにしても「彼の地の水からできた酒と日本の水との出会いだ」などと、普段、水割りを飲むときには考えもしないようなことも少し考えたりする。

とはいえ、旅の道中、飛行機や新幹線では、スキットルからウイスキーを飲んでいる人には、まずお目にかからない。好きな銘柄のウイスキーを詰めて行って、ミネラルウォーターを買って適当に飲むというのは、機内(車内)販売の水割りを待つよりよほど快適で安上がりではないかと思うのだが。もっとも、ビールなどに比べると、ストレートのウイスキーは周囲に香りが伝わりすぎる、という問題はあるかもしれない。

飛行機の手荷物検査も問題である。かなり前のことになるが、北海道に行く際に羽田空港で手荷物チェックに引っかかった。

係)「これは何ですか?」
私)「ウイスキーですけど、、、」
係)「開けて中身を確認させていただけますか?」
私)「どうぞ、かまいませんよ」

キュキュキュ、、、(フタを開ける音)

ここで係員は、鼻を近づけていきなり吸い込んでしまったから大変だった。「な、何ですか、これは!?」と思っ切りのしかめっ面に。その時、満タンに入っていたのは、60度を超えるニッカのシングルモルト「余市」のカスクストレングスだったのだが、その芳香をモロに吸い込んだのである。申し訳ないことをした。アルコールがダメな人なら、嗅ぐだけで酔うほどである。理科の実験の時に習ったように、手で扇いで嗅ぐように伝えるべきだった。逆にウイスキー好きなら、これは仕事どころではない。

よく考えるとウイスキーは、マッチを近づけると火が付くし、ステンレスのボトルとはいえ、飛行機に持ち込むものとしては危険かも知れない。実際、米国の空港では、中身を捨てさせられる場合もあるようだ。日本の空港では、これまで「捨ててください」という話になったことはないのだが、めっきり飛行機に乗らなくなってしまったので、最近の状況は良く分からない。

スキットルがあればウイスキーは持ち歩けるが、それだけではスキットルから直接ラッパ飲みするしかない(それも悪くはないが)。宿であれば、部屋に備え付けの茶碗(これが旅先での間に合わせの感じで好ましいという話は温泉の回にも書いた)やグラスを使うこともできるが、移動中にどうやって飲むかは、ちょっとした課題である。

簡単な方法としては、列車やバスに乗る前に、売店やコンビニでつまみや駅弁などと一緒にワンカップの酒とペットボトルのミネラルウォーターを買うのが良い。コンビニにあるワンカップ形状の酒には、日本酒だけではなく赤白のワインなどもあるので、好みのものを選ぶことができる。いずれにしても、ガラスの容器でフタが全て外れて、グラスとして使えるタイプのものを選ぶ。まずワンカップの酒を飲んでから、ミネラルウォーターでクレンジングして、ウイスキーのグラスに転用するのだ。氷はないものの水割りにすることができるし、ミネラルウォーターを口に含みつつストレートで飲んでも良い。

stainless_shot

もう一つの方法としては、写真のような携帯可能な「ステンレスショット」を持ち歩く、が挙げられる。ミネラルウォーターがあれば、チェイサーにしつつストレートで飲んでも良いし、多少忙しいが一口ずつの水割りにしても良い。写真のステンレスショットは、サントリーの白州蒸留所を見学した時に買ってきたものだが、縁が薄くてなかなか良い。容量は約1ozである。革のケースに3個セットで入っているので、3人でウイスキーを楽しむこともできる。9ozのスキットルであれば、1人当たり3杯飲める計算だ。ビールと駅弁の後にちびちびやっていれば、目的地まで丁度良いだろう。

クルマでの旅行であれば、ボトルを何本でも持って行ける、という話はあるが、鉄道や飛行機、あるいはバイクツーリング(自転車/オートバイ)などの旅であれば、荷物はなるべく少なくしたい。そんな時、割れる心配のないスキットルに詰めたカスクストレングスとステンレスショットというのは、素晴らしい「ソリューション」なのである。


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田邊 俊雅(たなべ・としまさ)

北海道札幌市出身。システムエンジニア、IT分野の専門雑誌編集、Webメディア編集・運営、読者コミュニティの運営などを経験後、2006年にWebを主な事業ドメインとする「有限会社ハイブリッドメディア・ラボ」を設立。2014年、新規事業として富士山麓で「cafe TRAIL」を開店。2019年の閉店後も、師と仰ぐインド人シェフのアドバイスを受けながら、日本の食材を生かしたインドカレーを研究している。