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アニメ・漫画・映画の舞台が現実の観光に結び付く「聖地巡礼」。プロデュースする柿崎俊道氏のコンテンツ・ツーリズムから地域ビジネスを支援する方法
日本を変える創生する未来「人」その15

2020.08.23

Updated by SAGOJO on August 23, 2020, 13:40 pm JST

いまでは、アニメや映画などのファンの間でおなじみのキーワードになった「聖地巡礼」。ここでいう「聖地巡礼」とは、宗教施設やパワースポットを巡る行為ではない。アニメや漫画、映画の舞台やロケーション・背景とされる土地に、そのファンが訪れることを喩えた言葉だ。観光学の文脈では、このように作品に登場する舞台、作者ゆかりの地域を訪れる旅を総称して「コンテンツ・ツーリズム」と呼ぶ。

20年前は、まだ一部のアニメファンの中だけの事象で、ビジネスに結び付くほどの規模ではなかったが、今では、様々な漫画や映像作品の「聖地巡礼ブーム」が起こっている。しかしながら、地方創生という観点からは「聖地となった地元」がこのビジネスチャンスを十分に活かし切れていない状況が多いといえそうだ。そこで、自ら「聖地巡礼プロデューサー」を名乗り、新たな地域ビジネス創出に尽力する柿崎俊道氏にアニメ等のコンテンツを観光資源として活用する術を聞いた。

アニメ作品の舞台がファンにとっての「聖地」に。この新たな観光現象をビジネスにつなげられるか?

以前より柿崎氏は、アニメを通じて聖地巡礼に関わる仕事をしてきた。2005年には、アニメやマンガの舞台・背景のモデルとなったと思われる実在の場所を、現地の写真と作中の画像とで比較・紹介した『聖地巡礼 アニメ・マンガ12ヶ所めぐり』(キルタイムコミュニケーション刊)を刊行した。しかし、当時はまだ機が熟しておらず、世間の注目度もそれほど高くはなかったという。

状況に変化が見え始めたのは、同書刊行2年後の2007年のこと。テレビアニメ「らき☆すた」が大ヒットし、その舞台となった埼玉県鷲宮町(現・久喜市)に多くのアニメファンが訪れるようになったのだ。それまで観光客が訪れるような土地ではなかった場所が、アニメの舞台として描かれたことで新たな観光地になった瞬間だった。

▲「らき☆すた」のオープニングで登場し、全国で有名になった鷲宮神社と大酉茶屋。アニメファンのメッカとして知られる場所になった。神社の鳥居は現在はない(写真提供:聖地会議)

これを一つの端緒として、2010年前後から「聖地巡礼」が実ビジネスに結びつく兆しが見えてきた。後述するが、埼玉県など一部の自治体も地方創生を目的として、観光産業としての「聖地巡礼」に精力的に力を入れ始めた。

しかし、これまでの経緯を知っていた柿崎氏にすると「アニメビジネスのことを十分に理解しきれていないのに、地域でいったいどんなビジネスが生まれるのだろう?」というモヤモヤ感もあったそうだ。現地を訪れる観光客(アニメファン)が求めるものを自治体サイドが十分に理解できているのか、それにアニメ業界の特性や力学を知らなければ、地域住民もせっかくのビジネスチャンスを活かし切れないだろうと思ったからだ。

そこで2011年から、自ら「聖地巡礼プロデューサー」を名乗り、活動範囲を拡げることにしたのである。

自治体と企業、アニメファンの橋渡し役が「聖地巡礼プロデューサー」

「元々僕は、長い間アニメやゲーム業界で編集者・ライターとして働いてきたので、アニメビジネスの知識がありました。そういう知識を持った人間が聖地巡礼のプロデューサーになって、地域の味方に付きながら地元を盛り上げていきたいと思ったのです」と柿崎氏は当時を振り返る。

「地域の味方に付く」とはどういう意味なのか、少し説明が必要だろう。柿崎氏によると、「地方自治体や地元の有志がアニメイベントを開催しようとしても、いざアニメ会社を目の前にすると、自治体側がどうしても萎縮してしまう印象があった」という。

▲聖地巡礼プロデューサーとして活躍する柿崎俊道氏。株式会社 聖地会議の代表を務め、自主制作の冊子「聖地会議」シリーズを発行(写真提供:聖地会議)

例えば、聖地巡礼に関わるイベントを開催しようとすると、「アニメ製作委員会」が地元にやってきて、いろいろと助言してくれる。アニメ製作委員会とは、アニメや映画、テレビ番組などの映像作品を制作する際の資金調達のために作られる団体で、複数企業が出資して、グッズなど派生関連品の優先権を持つ団体のこと。しかし、製作委員会の指示に沿うのは良いことばかりではないという。

「自治体関係者は、製作委員会の言うとおりにしたほうが良いだろう、と安易な方向に流れてしまうのです。しかし、これでは本来の聖地巡礼の醍醐味を損なってしまうような気がしました」と柿崎氏は続ける。

当初、聖地巡礼というと、アニメファンによる自主的な活動で、いわば同人活動のようなものだった。イベントに声優を呼んだり、トークショーを開いたり、アニメをテーマにした神輿を作ったりすることもあった。こうしたファン活動は地域ごとに特色が出て、独自性、個性に富み、聖地巡礼の起爆剤となっていた。これが「聖地巡礼の醍醐味」なのだ。しかし、いざ東京のアニメ製作委員会が絡んでくると、個性は均されてしまい、ファンの食い付きは良いがどこでもできるような紋切り型のイベントになってしまう。

コンテンツ・ツーリズムを成立させるには、ファン(観光客)にとって面白みのある「聖地巡礼」でなければならないし、もちろん地域(自治体)の協力なしには成り立たない。そして、製作委員会との協同も欠かせない。製作委員会優位のイベントにせず、地域(自治体)側の目線にも立って、三者をうまく橋渡しすることが「聖地巡礼プロデューサー」の役割ということだ。

さらに、単発イベントで終わらせないための訴求も大切だ。「アニメ製作委員会は、従来のビジネスの延長線上で考えがちです。イベントを企画して実施した後の地域の展開をどうするのかまでは、なかなかフォローできません。せっかく実った果実があっても、地域で活かすことができないもどかしさがありました」

メーカーや制作側のビジネスに乗るだけでは、単発的なイベントに終わってしまい、継続的な観光コンテンツには育たない。「地元住民やファンが主役になって、彼らの発信力や行動力によってイベントを盛り上げるのが理想的」だと柿崎氏は語る。こうして地域の住民を表に立てて、継続的にファンが訪れる観光コンテンツを共にデザインしていくことも「聖地巡礼プロデューサー」の仕事の一つになる。

柿崎氏のようなコンテンツ・ビジネスの知識を持ったキーマンが助力すれば、ローカルな「聖地巡礼」観光産業は、「資本や利権を持つ製作委員会に言われるがまま」とはならずに、住民と協同し、効果的にファン(観光客)にアピールできるようになるだろう。

 

複雑な権利関係を簡略化。地元商店が手軽に関連商品を作れる「アニメビジネス・スターターキット」

柿崎氏の聖地巡礼プロデューサーとしての活動は多岐にわたる。例えば全国各地でのセミナーで、ビジネスとしてアニメ会社がどのようにコンテンツを売っているのか、アニメ聖地巡礼のノウハウを多くの人々に伝える、といった活動もしている。そこには、地域の方々に「アニメビジネスを知れば、聖地巡礼ビジネスがスムーズになる」ことを知ってもらいたいという思いがある。

「地域でアニメ施策を打っても、2、3年で終わってしまうようなケースが多い。でも2、3年で終わるようなアニメビジネスはありません。ヒットを連発しているように見えるアニメやゲーム会社には、数十年続く主軸となる作品があり、そこで収益を得ながら資金を新作に投入するという流れがあります。この主軸が重要です。だから、自分たちのコンテンツを大事にしています。地域の関係者は、アニメ施策で成功をしたいなら、アニメビジネスはそもそも時間がかかるものと割り切り、10-20年間は継続する努力をしてもらいたいと思う」

同氏は、これを「アニメ施策ペット論」と呼んでいる。「アニメ施策は2、3年で寿命を迎えるハムスターではなく、10年、20年生きる犬や猫と同じです。飼い始めたら最後まで飼い主が責任を持って世話をすること。地元もアニメを大切にしながら、最低でも十数年は頑張って施策を打ち続けて欲しい」ということなのだ。逆に、適当なアニメ施策を打ってしまうと、ファンの熱気に冷や水を浴びせることにもなるという。

手を付けるなら責任を持って、本腰を入れて取り組むべきということだろう。自治体や地域住民にとっては、ファンが集まり続けるかどうかも分からない作品に力を入れ続けるのは大変かもしれないが、 諦めずに取り組んでいくうちに、ビジネスの芽となるようなグッズなど足がかりとなるものが生まれる可能性があるという。

例えば、いま茨城県の大洗が、アニメ「ガールズ&パンツァー」(ガルパン)の聖地巡礼の地として継続的に盛り上がっているのも、アニメが話題になったからだけではない。もちろん、きっかけはアニメのヒットだが、その後にノベライズやコミカライズが行われ、ラジオなどにもスピンオフすることで、新たな副産物(名物商品)が生まれたからだ 。

▲茨城県大洗の魚屋さん「丸五」で売っていた干し芋。ガルパンのファンなら、なぜ干し芋なのか分かるだろう。

「ファンの気持ちをつなぎとめ、彼らの熱意を途切れさせずに持続していく中で、人気キャラクターが生まれました。ですから、地域でも一時的なアニメ施策に帰結せず、原作者やアニメ制作スタッフと交流してグッズなどの派生物を作るとか、いろいろな方法を探ると良いと思います。しかし、自治体はそういうノウハウを持っていないのが実情です」。全国各地の「聖地巡礼」観光に精通する柿崎氏が、自治体にアドバイスできることは多そうだ。

例えば、地域おこしのために商店がキャラクター入り商品を作りたいと思っても、コンテンツホルダーの複雑な権利関係の知識がないと関連会社に交渉すること自体が大変だ。こうした問題を解決するために、柿崎氏が考案したのが「アニメビジネス・スターターキット」。これはテレビ埼玉で放映された人気アニメ「浦和の調(うさぎ)ちゃん」のキャラクターを手軽に商品化できるキットだ(現在は使用期限切れ)。

▲浦和市の商店街の活性化のために考案した「アニメビジネス・スターターキット」。このキットを買うと人気アニメ「浦和の調ちゃん」のキャラクターを手軽に利用し商品化できる(提供:テレビ埼玉)

「調ちゃんキャラクターを使いたい購入者が、このシールをパッケージなどに貼るだけで、権利者である『浦和の調ちゃん製作委員会』からすべての許可を得たことになる仕組みです。キットには、商品パッケージや店内POP、チラシ、メニューなどで自由に使えるキャラクターやビジュアルの実データのほか、付属DVDに3話分のアニメ本編も入れて、店内で流してもらえるように工夫を凝らしました」

このようなキットは、浦和市の事例に関わらず、聖地巡礼ビジネスを始めたい地元商店を支援するための有効な手段になるかもしれない。

いま日本全国にはアニメの聖地が3000以上もあるそうだ。こうした小さなビジネスチャンスにも気付いてすらいない自治体は多いのではないだろうか。

アニメファン数万人が集う「アニ玉祭」に見る「聖地巡礼」のポテンシャル

柿崎氏が聖地巡礼プロデューサーとして関わった代表的なイベントといえば、やはり「アニメ・マンガまつり in 埼玉」(通称「アニ玉祭」)だろう。これはアニメと観光をテーマに、埼玉県と埼玉県産業文化センターを中心とした「アニ玉祭実行委員会」が2013年から開催している一大イベントだ。

今やアニ玉祭は、毎年3万人以上のアニメファンが訪れるようになり、全国的に知られるイベントになった。そもそも埼玉県は、冒頭で紹介したようにアニメ「らき☆すた」で聖地巡礼の走りとなった鷲宮があったため、先見の明もあったかもしれない。

柿崎氏は、2009年に埼玉県の観光課に呼ばれ、「アニメツーリズム検討委員会」の委員になった。それが2013年から始まるアニ玉祭の端緒となった。同氏は、第1回からアニ玉祭に参画し、ガイドブックの制作やシンポジウムにも登壇した。そして第2回と第3回では総合プロデューサーを務めた。

「アニ玉祭は、大宮ソニックシティで開催され、第2回、第3回は2日間で合計6万人の来場者を動員できました。ソニックシティはかなり大きな会場です。ファンの歓声で地鳴りが起きるほどで、その熱気に企画した私たちが驚きました。ファン参加のコスプレ大会なども企画し、とても盛り上がったイベントになりました」と回想する。

▲埼玉の聖地巡礼を後押しするアニ玉祭の模様。いまでは毎年3万人以上のアニメファンが詰めかける一大イベントに成長している(写真提供:聖地会議)

このアニ玉祭は、同氏にとっても、あらためてアニメ聖地巡礼のポテンシャルを肌で実感できたイベントだった。数だけでなく、アニメファンは一人ひとりが熱狂的だ。うまく「聖地」に誘導できれば、ローカルな観光産業を刺激できるに違いない。

アニ玉祭の影響力に加えて、埼玉県は秩父市(「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」、通称「あの花」)、飯能市(「ヤマノススメ」)、春日部市(「クレヨンしんちゃん」)といった聖地に恵まれている背景もあり、これらの町には多くのアニメファンが巡礼するようになっている。

静岡新聞の気付きと変化。地域住民の主体性が「聖地巡礼」を継続させる

最後になるが、柿崎氏が発行している「聖地会議」にも触れておこう。同氏が、コンテンツ・ツーリズムのキーマンとなる各界の人物を取材し、自主メディアとして発信し続けている冊子である。

▲「聖地会議」総集編1では、1号から6号までがまとめられているほか、特別鼎談「聖地巡礼スピリッツ」も追加(写真提供:聖地会議)

「聖地会議」は、アニメと聖地巡礼をビジネスに結び付けたいと考えている関係者にとって大きなヒントになるはずだ。例えば、地方自治体の課題や取り組み、コンテンツ・ツーリズムを研究する大学の研究者の声なども聞ける。ソニーやJTBといった大手企業のアプローチも取り上げている。

最近、この「聖地会議」で柿崎氏が特に印象に残った取材があるという。同誌第25号で紹介されている静岡新聞の記者、橋爪 充氏の回だ。

静岡県沼津市は、大ヒットしたアニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の聖地となったが、橋爪氏は同アニメ企画が立ち上げられた2015年当初から、コンテンツ(アニメ)・ツーリズムを追い続けていた。柿崎氏は、橋爪氏への取材の中で次のように感じたという。

「コンテンツ・ツーリズムが地域に与える影響として、皆さんは経済効果や旅行者数など数字で測りたがりますが、一番のポイントは地域での人々の生活や仕事、意識が変化することだと思います。そういう点から見ると静岡新聞にこの変化が顕著に表れた」

地方新聞として、あまり売れずに正直パッとしなかった静岡新聞だったが、あるとき紙面で「ラブライブ!サンシャイン!!」の特集を組んだところ、県内のキオスクやコンビニから新聞が一斉に消えてしまったという。すぐに完売してしまい、新聞社に「どこで買えるのですか?」と問い合わせが殺到した。

「この現象をどう見るか。地方紙だから売れないのではなく、読者が興味を引くネタならば売れる、ということに新聞社側も気付いたということです。これは、宿泊所でも旅館でも同じです。お客さんが集まったことで何に気付いて、何ができるのかと考えることが、聖地巡礼という観光現象を紐解く上で、すごく大事なことだと思います」

アニメの聖地になり、棚ぼた式にファンがどっと集まってくることはあるだろう。先に挙げた茨城の大洗のように、継続的に盛り上がっている地域では住民の意識にも変化があり、コロナ禍の中でもクラウドファンディングで資金を募ったり、地域住民が自主的に自らの手で地元を盛り上げようとしている。

静岡新聞でも特集を機に、アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」とその舞台である沼津市を絡めた記事を積極的に掲載するようになったという。地域企業の意識に変化が起きた好例だ。

地域の生産物販売にも利用できる?自主メディア「聖地会議」をライブ配信即売会で売る

柿崎氏は、「聖地会議」を自主出版し、全国の展示会やイベントを行脚して即売会で販売してきた。ただ最近は、コロナ禍の影響で、予定されていたイベントが軒並み中止になってしまった。そこで「聖地会議」の販売をネットに移し、自主制作本の新しい販売形態を模索している。

実は同氏は、毎日、facebook上で「ライブ配信即売会」を開催している。通常のECと異なる点は、自宅からリアルタイムで映像を流し、ユーザー参加型にして生でやり取りをしていること。その中で参加者が「聖地会議」に興味を抱いたら、専用の販売サイト「セイチカイギショップ」から本を購入できるようにしている。

▲販売サイト「セイチカイギショップ」で聖地会議を購入できる。現在、最新号は24号。このほかに、もう一つの柱である「ゲームクリエイター育成会議」なども発売(写真提供:聖地会議)

こうした工夫は、雑誌に限らず、地域コミュニティの生産物やサービスにも応用できそうだ。さらに、このライブ配信即売会の汎用プラットフォームがあれば、個人事業主が集まるオンライン朝市や夕市なども実現できるだろう。オンライン上で「寅さん」的な口上で商売をする人が出てくるかもしれない。

アニメや漫画というコンテンツは、地域が気付いていない魅力的な観光ビジネスにつながる可能性を秘めている。聖地巡礼プロデューサーとして、自治体と企業とファンの橋渡し役となりながら、この新たなビジネスに粘り強く挑戦し続ける柿崎俊道氏を創生する未来「人」認定15号とする。

(取材・文:井上猛雄  編集:杉田研人 企画・制作:SAGOJO  画像提供:株式会社 聖地会議 監修:伊嶋謙二)

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