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大学職員だからこそできる産学官民連携の場づくり。地域活性化プレーヤーすべての「つなぎ役」となる金沢工業大学職員 福田崇之氏のネットワーク構築術 − 日本を変える創生する未来「人」その18

2021.02.01

Updated by 創生する未来 on February 1, 2021, 10:35 am JST

人口減少、高齢化、空き家問題。地方が抱える問題は、それぞれが複雑に絡み合い、一筋縄で解決できるものではない。「お金があれば」「アイデアがあれば」「人材がいれば」と、地方から窮状を訴える声が聞こえるが、実際にはどれか一つではなくすべてが必要な場合がほとんどだろう。では、どうすれば良いのか。人もお金もアイデアも、一気に生み出す魔法はないものか。

金沢工業大学の産学連携局次長・福田崇之氏は、解決の糸口となり得る「人的ネットワークの構築」を担っている。ローカルな情報や人脈を把握し、大学の持つ機能や資源を踏まえ、企業のニーズにも応える。産学官民のあらゆるメンバーとの「つなぎ役」になり、新たなアイデアを創出する「場」をつくる。そんな福田氏に、大学の職員という立場だからこそできること、人と人とをつなぐ術について話を聞いた。

エンジニアからの転身。大学を起点に企業や地域社会と関わり始める

「もともと大学の職員として勤務したいという気持ちがあって、東京で働くことになった当時も、『3年で戻ってくる』と公言していました」

1998年、その言葉通りに福田崇之氏は、母校の金沢工業大学に大学職員として戻ってきた。東京では日本アイ・ビー・エムでSEとして3年間働いたが、子供の頃に見ていた大学職員だった父親の楽しそうに働く姿が忘れられなかった。

地元に戻ってきた時期、世の中ではITバブルが起こり、組織は合理的な再編化が求められ、インターネットも普及し始めていた。エンジニアの経験があった福田氏は、大学に転職した際に「大学でももっと多くのことがやれるのでは?」と感じたという 。

▲金沢工業大学産学連携局次長・福田崇之氏

大学では、システムや広報など様々な部署で働いていたが、2000年以降、文部科学省が「GP事業(GP:Good Practice)」(教育改革の参考となる「優れた取り組み」を国立・公立・私立の垣根を超えた競争的環境の中で支援する施策)を本格化することで、地方創生や社会との連携に興味を持つようになった。

福田氏は、上司とともに教員とチームを編成し「GP事業」を通じて20件以上もの教育改革のプロジェクトを立ち上げた。その結果、「大学と社会とのつながり方」をテーマに、学生が実社会で主体的に学ぶ場の企画・立案・運営に携わることが増えていった。

また、金沢工業大学は全国に先駆けて、大学と企業との連携を目指す独立事務局「研究支援機構」を設置(1993年)しており、産学連携に力を入れていた。研究支援機構は、2016年に「産学連携局」としてリニューアルされた。その立ち上げに福田氏も関わることになり、大学と地域社会、企業とのつながりに対する意識は強まっていった。

地方創生の現場で、住民の声を聴き、体験的に学ぶ。あえて田舎に設立された「白山麓キャンパス」での役割

福田氏が次長を務める産学連携局は、共同・委託研究を求める企業や政府機関と大学を結ぶ窓口だ。同局は「科学技術イノベーションと産官学連携による地方創生」を掲げてもいる。地方創生は産学連携において重要なミッションだが、そこには「地域(住民)」の存在が必要だと福田氏は強調する。

▲地方創生は地域住民の声を聴くことから始まる

「地域で生活している方々の思いや価値観をリスペクトしなければ、本当の地方創生は実現しないと思います。例えば、『中山間地域』にイノシシやクマが出没するという状況。外から見ると獣害として扱われます。確かに課題ではありますが、地域の方は自然と共に生活しているという価値観をお持ちです。その微妙な感覚の違いを汲み取っていかないと実質的な課題解決につながらないと思っています」

地方創生に取り組むためには、その課題に直面する住民たちとの関係構築が重要だという。地方創生には産学官だけでなく「民」が必要なのだ。

また、当然のことながら、大学という教育機関の最大の役割は学生に教育の「場」を提供することだ。「地域社会」と「教育(学生)」も連携させる。金沢工業大学が2018年にオープンさせた白山麓キャンパス「地方創生研究所 イノベーションハブ(KIT Innovation Hub)」は、まさにこの点を狙って設立された。

白山麓キャンパスが位置するのは、石川県白山市の自然に囲まれた中山間地域。利便性を重視し、東京・関東近郊に新キャンパスを建設することが多い他大学の運営方針とは真逆のように見える。

「教育は『場』であると先輩方から学びました。何一つ不自由ない場所で地方創生について座学で学ぶよりも、サルやイノシシが出没する場所で、ドカ雪を身をもって経験し、地域の人たちの相談事を直に聴くことが新しい気付きをもたらし学びになります。複雑で難しい社会課題に直面している地域に身を置くことは、最大で最高の教育の場になると思います」

課題解決に参画するあらゆる人たちにとっても、この「場」は重要な拠点になる。そして、企業や自治体、大学教員、住民、学生といった立場の参画者の「つなぎ役」となるのが福田氏の役目である。

キャッチーなコンセプトを作り企業に提案。大小問わず企業とつながることで、アイデアもビジネスも生まれる

白山麓キャンパスで産学官民の参画者が連携して、地方創生という課題に取り組む。この構想を青写真に終わらせないために、福田氏は「企業に認知してもらうこと」を自身のミッションとした。

白山麓キャンパスがどんなところなのか、企業人たちに認知してもらうためには、わかりやすいコンセプトやキャッチコピーも必要になる。福田氏はパートナー企業のロフトワークの協力を経て、「多様な人々が集い里山都市からイノベーションの輪を広げていくこと」を目指し、「白山クリエイティブビオトープ」というコンセプトを作り上げた。

▲「白山クリエイティブビオトープ」のホームページ

そして2017年、「挑戦する人とともに未来をひらく」をミッションに掲げたデロイト トーマツ ベンチャーサポートとの出会いを通じて、社会課題解決に取り組む多くのベンチャー企業を知ることになった。大企業に限らず、斬新な試みをしているベンチャー企業との出会いは新鮮だった。若い起業家らとの対話には、エンジニアとしての経験が生きることもしばしばあった。

ベンチャー企業と大企業の事業提携やマッチングを目的としたピッチイベント「Morning Pitch(モーニング ピッチ)」を視察した際には、2万人におよぶ専門スキルを持つ「旅人」が、全国・世界の仕事を請け負うプラットフォームを運営するSAGOJOと出会った。何か一緒にできないかと、すぐに連絡先を交換した。ほどなくして旅人ライターが白山市を訪問。金沢工業大学の学生と神社が共同で創作したデジタルアートの様子が記事化(WirelessWire News 創生する未来)され、学生と地域との連携や共創、大学のサポート体制の様子が全国に伝わることとなった。

▲県内外の企業11社が集った「サトヤマカイギvol.1」では様々な地方創生のアイデアが生まれた

福田氏は、その後も「認知」のためにフットワーク軽く飛び回っている。詳細は別稿に譲るが、こうしてつながりを得た県内外の企業11社が集った「サトヤマカイギvol.1」(WirelessWire News 創生する未来)では、白山麓キャンパスで1泊2日の合宿を行い、企業人たちは地域住民の直の声を聴くことを通じて地方創生のアイデアを生み出した。この合宿を通じて生まれたアイデアの一つは、「VANLIFE(バンライフ)」で地方創生を目指す産学民連携の事業「石川県VANLIFE拠点整備大作戦」(WirelessWire News 創生する未来)」として結実しつつある。

なぜ大学なのか? 地方大学職員が唱える、大学だからこそできる地域社会との協働

では、大学が地方創生に取り組む意義はどこにあるのか。

「地域社会には様々な利害関係が存在しています。その中で変化を起こしていくことはとても難しい。そういう観点から見ると、アカデミックな存在である大学は利害関係を払拭していく存在になり得ると思いますし、それが大学の一つの強みでもある」(福田氏)。

▲白山市最奥の白峰エリアでは「地域をまるごと先端的な学びの場にする」プロジェクト「白峰ボーディングスクール」が実施されている。詳細はWirelessWire News 創生する未来の別稿(1)(2)(3)

たとえどんな素晴らしい地方創生のアイデアを持っていても、その土地に縁もゆかりもない企業(人)がいきなり地域社会と関わりを持つことは難しい。しかし教員や学生は、純粋に自分たちの教育研究活動を通じて社会に貢献したい気持ちでいるため、地域社会(住民)との関係が構築しやすい。「特に学生さんの地域を巻き込む力は、大人はとてもかなわない」と福田氏は明かす。「大学」や「学生」だからこそ、地域住民が受け入れてくれる面があるわけだ。

一方、企業にとっても利がある。新たな挑戦を試みたい企業にとって、大学と連携することは、様々な研究シーズとの連携や、異なる専門領域との連携、さらには挑戦を試みる「場」の確保等のさまざまなメリットがあり、第一歩を踏み出しやすい。

こうして地域と企業との間に大学が入ることは、地方自治体にとっても安心材料になるだろう。これはまさに、市民や民間が主体となって自治に参画する姿であり、自治体や国の施策から求められている座組みでもある。

▲企業人と地域の情報を熟知する大学職員が協働してアイデアを練る

さらに福田氏は「大学職員という立場は、教員と学生に囲まれた恵まれた環境」だという。

教育者であり研究者でもある教員は、幅広い知識とそれぞれの専門分野を探求した知見を持ち、大学職員にとって普段のコミュニケーションから疑問に思ったことを聞ける頼もしい存在だ。それに学生という学びに対して純粋かつ貪欲な気持ちを持つ人材が身近にいることも刺激になる。「学生の成長している姿は、本当にカッコいい。力をもらえます。大学にとっての主役はやはり学生であり、その成長を支えるのは教員。私たち職員はその両者を支える立場にあり、学生や教員と共に学び成長していかなければならない」と話す。

地方創生の多くのケースで、さまざまな人脈を媒介・仲介する人がキーマンになる例は多い。福田氏の活動を聞くと、もしかしたらその地域の大学職員こそが、キーマンとして最も適任なのではないかとすら思える。

ネットワークを広げるだけでなく、より深く交わることも大切

仲介役としての難しさもある。たとえば、前出した「サトヤマカイギvol.1」では、白山市職員や市議会議員、地元農家、大学教員、都内のベンチャー企業や大手企業らが交流する場が持たれたが、「それぞれの想いがあるからこそ、つなげていくのは大変」と、福田氏は素直に話す。

▲BBQ形式で行われた交流会

大学、企業、自治体、地域住民らと連携するにあたり、それぞれの利益や想いをすべて叶えることが困難なのは当然だろう。では、仲介するにあたって気を付けていることはあるのか。一つの要素は、「幅広い知識を持つことと、つなぐための文脈を創造する力」だと福田氏は語る。

「建築の先生から学んだのですが、物事の本質を追求すると共に、その物事を全く異なる視点から捉えて『文脈』を創出して関連性を持たせていく。『関連学』(WirelessWire News 創生する未来)と呼んでいますが、この様にしてつないでいくことで、トレードオフを発生させずにエコシステムを作っていくことが可能になります。まだまだ力不足ですが、ファシリテーションをする際には意識しています」

もう一つは、福田氏自身の振る舞い方だ。福田氏は、企業による業界のイベントに積極的に参加して新たな人の輪を広げることに注力しているだけでなく、地域の会合や雪下ろしなどの季節行事にも顔を出して、既につながっている人であってもさらに親睦を深めて関係を密にする。企業が若手人材の育成に悩んだときは勉強会の企画を提案するし、地方自治体が申請できる国の補助金のサポートもする。「とにかく相手の立場に立ってみることが重要」なのだと福田氏は力を込める。

▲「サトヤマカイギvol.1」での一幕。地域住民との親密な交流も大切だ

一人ひとりとより深い関係を築いていくのは大変なことではある。出会う人は千差万別で、中には価値観の違いから付き合っていくことが難しい人もいるからだ。そういうときは、楽観的に向き合う姿勢も必要だという。

「こうありたい、したいというビジョンを決め付けずに、余白をたっぷり残しておくことが楽観的な姿勢を生むことにつながります。また、短期・中期・長期的な時間軸の視点を持っておけば、目の前の意見が食い違っていても目くじらを立てなくて済むし、いずれつながってくるはずという緩やかな期待も持てる」

人間関係の構築を楽観視できる術を持っているのは、後述するように、福田氏が常に相手から「学ぶ」姿勢を大事にしているからかもしれない。

互いにリスペクトを持って「学ぶ」姿勢こそが人をつなぐコツ

実は福田氏は、40代になってから学生として、金沢工業大学の大学院でビジネスアーキテクトを学んだ。

「今まで『うち(金沢工業大学)は宿題が多くて大変だけど、その分多くの学びを得て成長する』と、受験生や企業の方々には伝えていたけれど、実際、本当に大変でした。これでもかというくらい宿題が出ました。でも、この経験のおかげで、先生方の大変さや学生の学びに対して真摯に取り組む姿勢を感じられたので、本当に良かったし、とても感謝しています」

学費は大学側が負担してくれたとはいえ、働きながらの学業は容易ではない。自らが一歩引いて、相手を尊重して「学ぶ」。この学びに対する前向きな姿勢が人をつなぐコツなのだろう。

同様に、企業人と地元住民が出会う場では、それぞれに対して相手を尊重し「学ぶ」姿勢を持つように促しているという。

「誰しもバイアス(先入観)は持っているもの。地域と無関係だった企業の人も、先入観を取り払って、地域の人たちから学ぶ姿勢で接点を持ってもらう。地域の人たちも企業の人たちから新しい情報を学ぶ姿勢を持ってもらう。互いにリスペクトし合うことが大切。そういうスタンスで行きましょうと事前に説明します」

地域がどうあるべきか、将来図に正解はない。ただ異なる背景を持つもの同士が一つのことを共に考えていくには、互いのことを知り、学ぶことが第一歩になる。地方創生のための「お金」や「アイデア」や「人材」が生まれるのは、その先の話だ。

実際に、周りの意識にも変化が生まれたという。地域住民は、持続可能な社会の将来図を描こうと、地域住民が主体となってチームを作り定例のミーティングを行うようになった。企業も、自社のビジネスを創出することに加えて、地域住民の思いや価値観を積極的に汲み取ろうと努めるようになったのだ。特に企業にとっては、ビジネスを創出するために新たな制約(住民と交流して学び、意見を交わすこと)が課せられたわけで、そこに真摯に取り組む姿勢の企業が生まれてきたのは大きな変化だという。

産学官民、それぞれの仲介役として振る舞う「大学職員」。そこで構築されたネットワークと「場」がこれからも新たな地方創生のアイデアやビジネスを生み出していくはずだ。そんな「つなぎ役」に徹する福田氏を創生する未来「人」認定18号とする。

(取材・文:浅井みらの 編集:杉田研人 企画・制作:SAGOJO 監修:伊嶋謙二)

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