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コミュニティの特性をひと目で理解できる「station」で地方の人と人とのつながりが活性化する 福島浜通り「地域未来実現プログラム」(その1)

2021.08.15

Updated by SAGOJO on August 15, 2021, 12:50 pm JST Sponsored by 福島イノベーション・コースト構想

震災で大きな被害を受け、原発の避難区域ともなった福島県の沿岸部、通称「浜通り」地域。相馬市、南相馬市、双葉郡、いわき市などを中心に15市町村を含むこのエリアは、震災から10年経ち、新たなフェーズを迎えている。

そんな福島浜通り地域を、安心・安全で、家族の笑顔があふれ、地域の産業が輝く町にしていこうと立ち上げられたのが、福島イノベーション・コースト構想のイノベーション創出プラットフォーム事業「Fukushima Tech Create」のプログラムの一つ「地域未来実現プログラム」だ。第1回は、同プログラムに採択されたstation株式会社のコミュニティデザインツール「station」を紹介する。「station」は福島浜通りでどのように使うことができるのか。また、このツールを用いることで地方ではどんな使い方ができ、利便性がもたらされるのか。同社共同代表の渡邊雄介氏に聞いた。

複雑化した「コミュニティ」の内実を視覚的にデザインするツール

station株式会社が開発した「station」を一言で説明すると、コミュニティの実態をシステム上で可視化するデザインツールだ。まずは渡邊氏に、なぜこのサービスを開発したのか、その背景から伺った。

コミュニティとは本来、地域や場所を共有して結びつく人たちの集まりを指す。共同体や地域社会とも訳される言葉だ。しかしインターネットが普及したことで、「現実の(リアルな)空間」を共有するものだけではなく、ネット上の「バーチャルな空間」を共有する人の集まりに対しても、この「コミュニティ」という語を当てるようになった。そのため今日の社会には、地域や学校、会社などオフライン(現実)上にも、インターネットのオンライン(ネット)上にもコミュニティは存在する。

さらには、もともとネット上の集まりを現実の場で行う「オフ会」や、奇しくもこのコロナ禍でリモートワークなど現実の集まりがネット上に移行したことを考えると、コミュニティは、オフライン/オンライン上を往来するようなものになったと言えるかもしれない。

▲station共同代表の渡邊雄介氏

渡邊氏は、こうして「コミュニティ」というものが複雑化したために実態が掴みづらくなったことや、必要なものを積極的に探しても見付からないことに疑問を抱いていた。

実際に渡邊氏自身、起業当時に同じ志を持つ仲間を見つけるために、「人のつながりやコミュニティがしっかりと形成されていることを売り」にしていたコワーキングスペースを訪ねたことがあったという。しかし、受付の人に自分たちが求める人材がいるか確認したところ「わからない」との答えが返ってきた。

「コミュニティとは、抽象化しやすく言語化しにくいものです。コミュニティのコンセプトや、その場にどんな人がいるのか、どんなニーズがあるのか、第三者に対して説明することのハードルがそもそも高い、ということに気付きました」

前述の通り、コミュニティを構成する要素の一つは空間や場所だが、これはバーチャルでもリアルでもあり得る。そこに内包される要素としては、「内部にどんな人がいるか」、「何をしているか(どんな団体か)」等の活動内容が挙げられるだろう。普通これらは、その中にメンバーとして入って、中の人と関係性を築きながら少しずつ理解していくものだろう。もちろんこれには時間がかかるし、場合によっては「加入したものの思っていたものとは違った」という場合もある。

▲「コミュニティ」を可視化することを目指して開発されたツール「station」

そこで、コミュニティの中に「誰が」「どんな人が」いるのか、「何を」しているのか、「何が」できるのか、内部の人は「何を」「どんな人を」求めているのかを、分かりやすく表現できないかと考えたのだ。

事前にこれらの情報を示すことができれば、コミュニティ「を」求める人も、コミュニティ「が」求める人も、双方ともに探しやすくなる。互いに適した出会いができれば、人と人、企業と企業のコラボレーションも生まれやすくなるはずだ。これはオンラインでも同じだろう。

「SNSや既存のコミュニティツールは、自分のホーム画面にさまざまなフィード(情報)が流れてくるものが中心です。そのため、今欲しい情報が見付かりにくかったり、特定のコミュニティに参加していても中心核の人に話しかけづらかったりと、それぞれに課題があると感じました。オンライン・オフライン、どちらの問題も解決するには、コミュニティを可視化できるデザインとそのデザインを用いたツールが必要だと思いました」

こうして渡邊氏を始めとするデザイナー仲間たちは、2013年より研究開発を始め、2019年に「station」をリリースした。

コミュニティの活動内容がビジュアルで理解できる「コラボレーションボード」機能

「station」は、コミュニティの作成や運営を行う側、探す側、双方のためのアプリケーションツールだ。主に5つの機能がある。

一つは、「フォーム」。顔写真や名前、会社名、活動内容、趣味など登録者個人が自身の情報を掲載できる。次に、コミュニティに参加しているメンバーのフォームが確認できる「メンバーデータベース」。三つ目が、コワーキングスペースなどリアルな場に、その時、誰がいるのかがわかる「チェックイン」。そして、コミュニティ内のトピックがビジュアルで分かる「コラボレーションボード」と、どのくらいアクティブな人がいるのか数値化できる「アナリティクス」である。

▲コラボレーションボード、フォーム、メンバーデータベースなど5つの基本機能がある

中でも特徴的なのはコラボレーションボード機能だ。

「コワーキングスペースにstationのアプリをインストールしたタブレットを置けば、その施設内にコミュニティ内のどんなメンバーがいるかや、行われているイベントなどを表のように見ることができます。既存のツールと大きく違う点は、デザイン性です。コラボレーションボード機能で、行われているイベントや情報の一覧を画像付きで見ることができます。画面をスクロールしなくても表のようになって概観でき、それが何をしているグループなのかビジュアルで捉えやすくなっています」

▲「コラボレーションボード」機能のチケット表示例

コラボレーションボードに表示される画像付きのコミュニティの情報を「チケット」と呼ぶ。メンバーが投稿すれば、各チケットに、そこで何が起きているか、どんな議題が持ち上がっているかが画像と短いタイトルで表示される。一画面に10〜15のチケットが表示されるため、コミュニティを探す側としては、そこがどんなグループなのか直感的に理解できる。一方の運営側としても、視覚的に活動内容を訴求しやすい。運営側がフォームを見てメンバーに招待することもできる。

これら以外にも施設運用に紐付ける機能などを現在開発中で、オンラインだけでなくオフラインでの施設管理についてもシステムの対応範囲を拡充させる予定だ。

▲「チェックイン」機能の画面

使用方法はいたってシンプルで、スマートフォンにstationのアプリをインストールし、そのコミュニティ専用のQRコードを読み込むだけ。

「コワーキングスペースなどの施設では、入会していない人でも、stationをインストールすればイベント内容や他の入会者情報を見られるようにすることもできます。あえてメンバー情報を開示しておくことで、結果としてそれが営業案件につながることもあります」

もちろんメンバーデータベースをメンバー内だけが閲覧できるようにして、クローズドのコミュニティにすることもできる。それぞれ運営側の意向に合わせて設定を変えられる。

地域コミュニティの情報が事前に分かれば、移住への決断もしやすくなる

今回、福島浜通りの「地域未来実現プログラム」に採択された「station」だが、この地域ではどのように活用できるのだろうか。

そもそも渡邊氏が福島浜通りでstationが活用できるのではと思ったのは、「福島には魅力的な人たちや、価値の高い地域資産がたくさん存在しているのに、その一つひとつの存在や情報に触れるまでの距離が長い。安心・安全だと感じられる信頼性の高いコミュニティの中で、よりダイレクトな形で地域資産に触れることができる状況があれば、質の高い情報を同県内だけでなく他県の人たちにも届けられる。これが将来的には、関係人口や地域への定着率の増加につながっていくのではないか」と感じたことがきっかけだという。

「祖母がいわき市に住んでいるため、子供のころはよく遊びに行っていました。当時は子供もいっぱいいて町に活気がありました。でも、震災から数年経ってから再訪した時、街のインフラは整いつつありましたが、あのころのような人の活気はまだ戻っていないと感じました。そこで、人と人とのコミュニティを活発化させるために、自分が開発しているstationが役に立つのではないかと思ったのです」

復興とは、町が整備されることだけを指すのではない。人々の交流が活発化すること、それが本当の意味での復興なのではないか、と渡邊氏は話す。

「福島には素晴らしい人もたくさんいますし、面白いコンテンツもいっぱいあります。しかし、なかなか現状のメディアやツールではその良さが届きにくい。SNSなどで発信している人もいますが、よりダイレクトに情報が伝われば理解がより深まります」

「stationに福島浜通り地域のコミュニティを作れば、各市町村の取り組みから、小さなカフェのランチ情報までコラボレーションボードでより詳しく共有できるようになります。メンバー同士がフランクに話しかけやすい構造なので、会話も生まれやすい。stationのコミュニティ内で知り合いが増えることもあるでしょう。福島浜通り地域の人がお互いの理解を深めたり、結束を強化することにもつながるのではないかと可能性を感じています」

▲誰とどんなことができるかがわかりやすく、つながりやすい

つまり、オンラインのstation上のコミュニティの存在が、地域社会というオフラインのコミュニティの強化にもつながる可能性があるということだ。とはいえ、情報発信の担い手がいないことには始まらない。

「stationを使えばコミュニティが自動的に活性化されるわけではありません。情報や魅力は中の人たちが発信する必要があります。自分たちの『くらし』に深く紐付くある程度の信頼性が担保されたコミュニティから、より解像度の高い情報が発信されることで、情報の受け手にとっての安心・安全を生み出すことが期待できます。今後は、福島浜通り地域に既にあるさまざまなコミュニティが、『福島浜通り』という地域名でつながることもできる。そういった『コミュニティの横つなぎ』もstationを使うことでできるようにしたいと考えています」

参加メンバーをオープンにすることもできるので、情報を発信しさえすれば、それを必要とする人たちへダイレクトに届けることができる。さらに、地域のコミュニティの「つながり」を可視化することで、移住者を増やす可能性まであると渡邊氏は考えている。

▲福島浜通り地域

「ある土地に移住しようと決断したり、関わり続けようと思うようになるきっかけは、結局、中の人をはじめとする『場やコミュニティの資産』だと思います。逆にどんなに良い土地でも、人となりが分からないと近付きにくいこともある。これまでは、なかなか手に入れることができなかった地域コミュニティの情報が、stationを使えばメンバー誰しもが手に入れやすくなる。地域の『人』の情報も事前に分かれば、そしてそれに魅力を感じれば、移住の決断をしやすくなると思います」

地域の情報を共有できることが、交流人口や関係人口の増加や移住への動機にもつながりうるものだとすれば、地方創生へのきっかけとなるツールともいえるだろう。

災害時の安否確認からオンライン上のビジネス展開まで使い方は広がる

災害時にもstationは活躍する。

地震や水害などの災害時にSNSが役立つことは知られるようになった。しかし、自分がいる地域の情報だけをピックアップすることは、今もまだ難しい。特にSNS慣れをしていないと、緊急事態にそれを使用することにハードルの高さを感じる人は多いかもしれない。その点、stationであれば求めるコミュニティの情報のみがトピックとして表示されるので、特定の地域の「今の情報」にアプローチしやすい。

「先日、福島県の南相馬市で実施した実証実験では、南相馬市の行政区の方が使っている時に、ちょうど大きな地震があったんです。その時、stationを介して安否確認や破損箇所などリアルタイムでやりとりしていました。そのコミュニティ内で話したい、知りたいトピックをひと目でキャッチして交流することができたので、とてもスムーズなやりとりができていました」

特定のコミュニティに誰がいるか、どんな人がいるか、誰が来ているかを視覚的に把握できるので、緊急事態時の安否確認などもしやすいという。それに、地域に住む人々に何かがあった時の集まる場所がオンライン上に確保されていることは、心の支えにもなるだろう。コロナ禍のように、現実の場(オフライン)で交流しづらい状況下では、なおさらだ。

▲何をするにも、「誰が」「どんな人が」いるかがわからなければ始まらない

さらにstationなら、オンライン上だけのつながりをローカルなビジネス(事業者)と接合できるかもしれない。

「station上のチケットで、新規参入する事業者が悩みや解決したいことを掲載して、それを解決できるローカルな事業者が答えていくという展開が生まれれば、ビジネス関係のつながりにもなるし、事業の発展やコラボレーションも見込めます」

事業を始めたばかりで地域の事業者とのリアルな人間関係が構築できていない状態でも、station内で地域の人と交流できれば、地域の先輩事業者と連携することもできる。コロナ禍のような状況でも「顔が見える関係であるかのように」活発にやり取りできるのは、このツールならではだろう。

今後、福島浜通り地域でstationが活用されることにより、渡邊氏が子供のころに感じた地域のつながりが戻ることはあるのか。また、地方創生の新たな「アイテム」として、stationが使われるようになっていくのか。今後の展開に期待したい。

(取材・文:Fujico、編集:杉田研人、企画・制作:SAGOJO)

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