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村上陽一郎氏

【村上陽一郎氏による私塾】専門家とは何か 第1回:専門家に必要な“意外な”覚悟

2021.04.05

Updated by Yoichiro Murakami on April 5, 2021, 07:20 am JST

著書『ペスト大流行』が話題となった科学哲学者・村上陽一郎氏のオンライン私塾がスタートします。塾生は月1回のウェビナーとオンライン交流会に参加が可能。6カ月間連続で開催します(第1回はウェビナーのみ)。

テーマは「専門家とは何か」。専門家の知は、とくに災害時・緊急時においては重宝されると同時に疑義の眼差しが向けられる対象でもあります。このとき問われているのは、私たちが持つ「良識」であるはずです。ではこの良識なる厄介なものは、どうすれば育成することができるのでしょう。多様なゲストを招いてあらゆる「専門知」にふれ、考えを深めていきます。

第1回のテーマは「専門家に必要な“意外な”覚悟」。オリエンテーションをかねた講義を展開する予定です。

イントロダクション:専門化が進んだ時代に、隣の領域の問題に口出しが出来るか

学問の世界では、領域が細分化され続け、特に自然科学では、例えば物理学という同じ括りのなかでも、隣の領域の内容は、フルの理解が難しい、というような事態が普通になっている。まして、個々の領域の学問内容は、物理学の素養を持たない人にとっては、他の惑星人の言葉ほどに、疎遠なものと言える。しかし、他方では、そうした学問領域での成果が、場合によっては、社会の構造を変え、人々の生死を支配し、人間の生き方まで変革するような「力」を持つことがある。そうした場合に、当該の領域の外の人間が、そこで学問の内容に介入することが出来るだろうか。この「出来る」には幾つかの意味がある。そのことに無知な人間には、到底口出しが出来ないのでは、という意味がある。他方では、当該の領域の外から、口出しをすべきかどうか、という社会倫理的な「出来る」か、という意味もある。こうして、学問の専門化が進めば進むほど、そして学問の成果が社会に与える「力」が大きくなればなるほど、この「出来る」問題は深刻になる。このような論点に視座を据えて、このシリーズでは、色々な方々との対話を通じて、少しずつ問題を解きほぐしていきたいと考えている。

第1回のテーマは「専門家に必要な“意外な”覚悟」

何によらず、専門家──ここでは、音楽とか、スポーツ、あるいは、料理など、学問の世界とは異質の場は、差し当たり論の外に置くことにする、もっとも、このシリーズで、将来、そういう世界にまで話を広げる機会が巡ってくるかもしれないが──になるのは難しい。身を削るような時間を積み重ねて、自分がこれと定めた領域の過去の蓄積と、現在の状況とに、充分な知識と理解の力量とを備えた上で、未来に向けて、何らかの<something-new>という結果、あるいは「成果」を造り出さなければならないからだ。領域によっては、その「成果」は一生を終えるころに、初めて形をとることになるかもしれず、また場合によっては、目に見えぬ「成果」を創造し得ないままに、生涯を終えなければならないことにもなる。それが真の専門家とうものだ。実は今は、専門家と呼ばれるようになるのは、むしろ簡単なことになってしまった、とも言えるが。

しかし、すべての人間が、真の意味での専門家になるわけではない。もともと、そう考えること自体が専門家の定義に反する。学問において、一つの領域に沈潜することは、往々にして、他の領域に心を開く余裕を失わせる。まして、自分の生きる場(社会と言い換えてもよい)と、自分が極めようとしている世界との関連などに目を向ける暇はない。他方、人間の知的な成熟過程は様々で、極く若い頃から、これと思い定めた世界を持つ人もいれば、自分が何者であるのか、中々見定めることができずに、混乱の時期を続ける人もいる。

私が学んだ大学の学科のスローガンは<later specialization>であった。<later>と比較級になっているところに注目して欲しい。「他人よりも、より遅く」の意である。

与えられたその時間と場を経ることで、若き混乱のただ中にある学生が、自らの運命を託する領域を見出すもよし、専門家にならない途を選ぶのもよし、ということなのだろう。もっとも、早くから、自分の行く道を見つけている人にとっては、それは無駄な回り道に思えたかもしれないが。とにかく、私にとって、専門家と非専門家という話の場に向かう原点は、そんなところにあった。

〈開催スケジュール〉
第1回 2021年4月24日(土曜)19時~(テーマ:専門家に必要な“意外な”覚悟)
第2回以降は決まり次第お伝えしていきます。

〈料金〉
4月24日からの1カ月は特別価格1000円。
第2回目のウェビナーより月額4500円です。

第2回目以降はウェビナー実施以降にオンライン交流会を予定しています。

〈会場〉
Zoomミーティングを利用したオンラインイベントです。

〈お申込み〉
Peatixよりお申し込みください。

〈主催〉
WirelessWireNews編集部(スタイル株式会社)

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村上 陽一郎(むらかみ・よういちろう)

上智大学理工学部、東京大学教養学部、同学先端科学技術研究センター、国際基督教大学(ICU)、東京理科大学、ウィーン工科大学などを経て、東洋英和女学院大学学長で現役を退く。東大、ICU名誉教授。専攻は科学史・科学哲学・科学社会学。幼少より能楽の訓練を受ける一方、チェロのアマチュア演奏家として活動を続ける。