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省エネ対策で基地局の消費電力削減が現実に、しかし国内では法的な問題も

2021.07.05

Updated by Naohisa Iwamoto on July 5, 2021, 06:26 am JST

「2Gから3G、3Gから4Gと移動体通信システムでは徐々に消費電力が増えている。5G時代にも前世代と同じ手法のままだと消費電力は劇的に増加してしまう。増加するエネルギーカーブをブレークし、エネルギー削減につなげていこうという取り組みをエリクソンでは進めている」

こう語るのは、エリクソン・ジャパン CTOの藤岡雅宣氏。エリクソン・ジャパンが2021年6月に開催した説明会での一コマだ。「日本でもそうだけれど、モバイル事業者のエネルギー消費の6割前後を基地局が占めている。モバイル事業者全体のエネルギー消費を抑えるには、無線ネットワークの省電力化を進める必要があるというロジックだ」(藤岡氏)。

その対策としては4つの柱があるという。1つが、古い機器から新しい機器へとネットワークを刷新すること。これだけでも3割ぐらいのエネルギー削減につながる。2つ目が、省エネソフトを起動すること。3つ目が都市部や地方など適材適所に5Gを導入して最適化すること。4つ目がAIを活用してインテリジェントにサイト設備を運用することである。

ネットワークの刷新についてエリクソン・ジャパン 標準化・レギュレーション担当部長の本多美雄氏はこう語る。「モバイルネットワークのかなりの部分が、無線ネットワークの電力消費であり、トラフィックをあまり運んでいないカバレッジの重視の基地局が数としては圧倒的に数が多い。こうした基地局を中心に機器を刷新することで、省エネ効果を高めることができる。英国のボーダフォンではロンドンの4Gネットワークを刷新し、5G対応にしつつ、エネルギー消費を20~30%削減した」。

省エネソフトの起動というのは、無線ネットワーク自体を省エネで稼働させるもの。その1つの手法が「Micro Sleep Tx」と呼ぶもので、基地局からの下りリンクで送信する必要がないときは自動的にシンボル単位でパワーアンプをオフにする。このほかにも低遅延のデータ送信が不要な場合にタイミングを調整して送信する「Low Energy Scheduler Solution」、トラフィック負荷が少ないときにMIMOのアンテナブランチの一部をオフにする「MIMO Sleep Mode」などの手法があることが紹介された。エリクソンのトライアルでは、こうした手法を人手による最適化で導入すると、9%ほどの省エネになった。一方、機械学習によるパラメーターの設定最適化を利用すると、14%の省エネが実現でき、より高い効果が得られたという。また、インドネシアの通信事業者が高負荷の基地局でMIMO Sleep Modeを適用したところ、20~25%の省エネ化を実現でき、全国展開を進めているという。

適材適所の導入は、「トラフィックが少ないところには低トラフィック用の機器、トラフィックが多いところではマッシブMIMO対応の機器を導入するなど、必要に応じて機器を使い分けることでエネルギー消費を最適化できる」(本多氏)。インテリジェントなサイト設備の運用について本多氏は、「無線基地局では、基地局の消費電力が半分ぐらいで、残りは整流器、エアコン、バッテリーなどが電力を消費している。AIなどを用いて最適な運用の自動化をすることや、太陽光発電を使ってグリッドからの電力の消費を抑制するなどの手法がある」と語る。

こうした手法を導入することで、多くの電力を消費している移動体通信のネットワークのエネルギー消費を抑えることが可能になる。しかし、その中で比較的実現性が高い「省エネソフトの起動」によるエネルギー消費削減の手法が日本ではまだ使えない状況にある。

本多氏は、「日本でもエリクソンからは紹介しているけれど、制度的な確認が必要になるためまだ使ってもらえていない状況。無線設備規則や電波法、電気通信事業法で機能ごとに制度的に可能であるか、事業者と総務省の間で確認が必要になる。例えば、セルの電力を止めてしまう手法は、電気通信事業法のサービスの維持という意味で問題があると捉えられるリスクがある。しかし、エリクソンが提供している省エネの機能は4G、5Gの設備で対応しつつあり、日本でも使ってもらって電力消費の削減につなげてもらえるようになるといいと考えている」と語る。エネルギーカーブをブレークし、消費電力を減らす取り組みと、国内の法律や規制の折り合いがつくことに期待したい。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。