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ノキアイベント

産業の現場でどこまで使える? ローカル5Gの実力をディスカッション

2021.12.10

Updated by Naohisa Iwamoto on December 10, 2021, 10:00 am JST

ローカル5Gの現実はどのようなものか。実証実験を実施するというニュースはあっても、その後の実際についてはなかなか見えてこない。そんな中でノキアが主催するウェブイベント「Nokia Local 5G Advanced Use Cases」(2021年11月18日にオンライン開催)では、日本におけるローカル5Gの先進企業からエキスパートが登壇し、パネルディスカッションで議論を交わした。そこからローカル5Gの今が見えてきた。

ミリ波でも安定、広い敷地の通信インフラにも

まず登壇者から、各社のローカル5Gの取り組みについてプレゼンテーションがあった。

オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 技術開発本部 経営基幹職 5G/IoT担当の山田弘章氏は、AMR(自律型搬送ロボット)を使った実験について紹介した。「オムロンはノキアのオウル工場などで、5Gミリ波を使った実証を行っている。既存のAMRはWi-Fiベースで制御しているが、電波利用が混雑すると立ち止まる。ローカル5G端末で自走しながら通信状態を観測したところ、5Gミリ波アンテナから50m四方に電波が届き、通信遅延も片方向2ミリ秒で安定している」とローカル5Gの有効性を説明した。

▼オムロンの資料「AMR走行軌跡と5Gミリ波による通信状態」オムロンプレゼンテーション

IoTゲートウエイを中心に産業向けゲートウエイを提供するコネクシオは、IoTソリューション部 企画担当の中島雅彦が5G対応のゲートウエイを紹介した。「5G対応デバイスは、ルーター、スマートフォンが多い。工場、港湾、産業用途には高機能ゲートウエイが必要であり、エッジコンピューティングゲートウエイの「CONEXIOBlackBear」を5Gに対応させた。多様な産業機器とつなげるインタフェースを持つこと、現場で使える対環境性能、温度、振動、車載性能を備えていることが特徴だ」と語る。

シャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部の設楽彰一氏は、ミリ波およびサブ6に対応したローカル5G端末を紹介した。「ローカル5Gの端末として、2020年9月からルータータイプの“試作機”を提供している。実証試験やネットワーク開発の試験機として利用してもらえる。ミリ波NSA、サブ6のNSA、SAに対応し、8Kの伝送なども実証試験をしている」という。今後は、据え置き型データ端末、スマートフォンなどでもローカル5G対応の製品を提供していきたい考えだ。

日鉄ソリューションズ エンタープライズ5G事業推進部の石井大介氏は、プラント工場の労働現場の見える化ツールへのローカル5Gの適用状況を解説した。「当社は、DXを実現する基盤整備の一環としてローカル5Gを捉えて、アプリケーションからデバイスまで一気通貫で提供している。直近のトピックとしては、2021年11月に日本製鉄の室蘭製鉄所がローカル5Gの実用局の免許を取得し、安全見守りに活用する。屋外の2~3km四方の広大な敷地を2局のローカル5Gでカバーする」と具体的な利用が始る段階にあることをアピールした。

▼日鉄ソリューションズの資料「日本製鉄 室蘭製鉄所でのPoC」日鉄ソリューションズプレゼンテーション

DXへのローカル5Gの適用としては、日立国際電気のプレゼンテーションも興味深かった。新事業開発本部 シニア・チーフエンジニアの玉木剛氏は、「無線技術のありとあらゆる周波数、自営からキャリアまでを使い、映像を活用するソリューションを提供している。5GとAIで新しい価値が生まれる」と語る。その上で、「5Gやローカル5Gの活用で大容量でどんどんデータがクラウドに行くとき、ボトルネックがあると制御のフィードバックなどが難しい。AIエッジコントローラーのように即時判定制御ができるものと、クラウドに4K/8Kなどの高精細映像を送って分析するものと、双方が求められる」と課題を指摘した。

▼日立国際電気の資料「AIエッジコントローラーの必要性」日立国際電気プレゼンテーション

日本マイクロソフト エンタープライズ製造事業本部 インダストリーアドバイザーの鈴木靖隆氏は、エッジクラウドのAzure IoT EdgeとスマートグラスのHololens2について説明した。「マイクロソフトでは、産業向けにAGV(無人搬送車)の実証実験のためのAIサービスや、IoTによるデータ活用、ホロレンズなどのソリューションを提供している。ローカル5Gでこうした活用が広がる中、人間も含めたユーザービリティや、人と機械の融合といったデジタルツインが苦手な側面から、産業でのDXをサポートしていきたい」と語る。

▼日本マイクロソフトの資料「リアルタイムの現場サポート遠隔支援シナリオ」マイクロソフトプレゼンテーション

プレゼンテーションの最後にPTCジャパン COE/製品戦略本部 本部長の西啓氏が、ARソリューションとローカル5Gの関連について説明した。「PTCは36年前にボストンで発足した製造業を中心のお客様にしたソフトウエア会社。7年前からIoT、ARのソリューションを提供している。ITはこれまでオフィスを中心に効果を上げてきたが、従業員の75%はどこかの現場にいる。IoTでデータを取られるだけでなく、現場をアシストすることがITには求められる。ARでトレーニングや作業指示をする際に、現場をつなげるネットワークとしてローカル5Gが必要だ」という。

コストや現場対応などの課題も

ディスカッションでは、まずローカル5Gの現状の評価と課題について議論があった。オムロンの山田氏は「現場で使い方に即したところで実験しているが、ミリ波による悪影響は心配したほどなく、通信は安定している。通信の足腰としてローカル5Gの高信頼性はポジティブなデータだと感じている」と切り出した。日立国際電気の玉木氏も「屋内では結構いける。ランダムなビームフォーミングにより、反射がこんなに使えるんだということを実感している。実際にビデオでローカル5GとWi-Fのデモを見せるが、Wi-Fiは隣のチャネルでファイツ転送が始まると固まるが5Gは動き続ける。制御系では致命的なことで、ローカル5Gのメリットが感じられる」という。

日鉄ソリューションズの石井氏は、日本製鉄の事例から、「Wi-Fiで伝送してみたけれど、動き出すと乱れる。移動体をきちんと追いかけるには、広い構内ではローカル5Gは有効だ。またコスト面でも、Wi-Fiのアクセスポイント自体は安いけれど、敷地が広い場合には工事費用などが多くかかる。基地局が少なくて済むローカル5Gのメリットを生かす可能性がある」と語った。

一方で、課題点としては、コネクシオの中島氏が「オフィスと違って、振動があるところからデータを採りたい、空調が効いていない、寒い、暑いなど泥臭い場面が多い。端末には耐環境性能が求められる。ローカル5Gというと洗練されたイメージを持つかもしれないが、多様なインタフェースとアプリケーションを作れる自在性に加えて、耐環境性能に優れた柔軟な機器が必要だ」と現場への適用について指摘した。

▼コネクシオの資料「産業用5G対応IoTゲートウエイ」コネクシオプレゼンテーション

シャープの設楽氏は、ローカル5Gの端末をプライベートと公衆網とのデュアルで利用したい場合の課題を掲げた。「両方使いたい場合に、デュアルSIMの端末を持ってくれば使えるというわけではない。プライベートとパブリック行き来するときにうまく切りかわらないことがよくある。SIMに搭載されているすべてのバンドをスキャンしているため、10分など切り替わらないケースもあった。シャープでは数秒から数十秒にその時間を短縮する手法を取り入れている」と説明する。

日鉄ソリューションズの石井氏は、端末側の課題点として、「100個など大量につなぎたい製造設備がある。基地局的には同時接続100個は問題ないが、端末の費用が莫大になる。もう1段の端末コスト引き下げを期待したい」と、端末メーカーに要望を掲げた。

最後に、国内のローカル5Gが加速するポイントについて、議論した。マイクロソフトの鈴木氏は、「現場でどれだけユースケースが出せるかが、普及の鍵を握る。オフィスワーカーや管理者にはITが潤沢にあったが、現場サイドにはテクノロジーが届いていない。それは“提供する線”がないから。ローカル5Gの登場で、現場の人にメタバースや複合現実といったテクノロジーを提供できる可能性が出てきた」と、産業の現場への適用を加速ポイントに挙げた。

▼PTCの資料「今後の展望と課題」PTCプレゼンテーション

PTCの西氏は「日本を代表するような会社であっても、現場にいくと紙に作業結果を書き出していたりして、30年前からときが止まっているような印象を受けることがある。現場はテクノロジーが気に入っても予算がない。本社側からすると、なぜIT化が止まっているかわからず、現場からはなぜわかってくれないかといった不満がある。ローカル5Gの登場で、ようやくITを共通基盤として持てるチャンスがやってきた。これまで工場になかったネットワークを、ローカル5Gで実現することがチャンスなのかなと思っている」と語った。

オフィスのITと異なり、現場のDXを支える可能性を秘めたローカル5Gには、これまでと異なる課題やメリットがある。今後、現場にどれだけ早く展開して、安全性や効率性、改革ができるのか。そのためにノキアやエコパートナーの各社がどう対処していくか、今後の取組に注目したい。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。