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「気候変動」がもたらすのは人類の進化かもしれない

2022.01.31

Updated by Toshimasa TANABE on January 31, 2022, 14:36 pm JST

「カーボンニュートラル」あるいは「脱炭素」は、もはや企業活動において無視できないテーマとなった。気候変動という現象に対しての否定しにくい建前であり、SDGsやESGなどと並ぶ今日的な一つのビジネス・キーワードでもあるだろう。

しかし企業にとっては、事業展開の見通しをこれまでないほどに長期化させるものでもある。2050年目標などといわれても、企業の寿命を超えている可能性があるし、企業が存続していたとしても事業ドメインは変化していることも多いだろう。一方で、1年どころか四半期毎の業績が問われるという現実もある。

そんな先のことは分からない(知らない)というのが、多くの場合の本音でもあるのではないか。そもそも、いわゆる「科学的な裏付け」についてさえも議論の余地があるわけで、気候変動への人類の活動の影響について納得するしないは別として同調せざるを得ない、という感もなくはない。

本当に地球は温暖化しているのか? その原因は二酸化炭素だけなのか? といった基本的な問いについての決定的なエビデンスはない。むしろ、氷河期に向かっているという説もある。「太陽定数」や「アルベド」などという言葉があまり出て来ないのも、なんとなく釈然としない要因の一つだし、それらは変化しているのか、あるいは変化するとしたらその要因は何か、といったことについての考察もとても少ないのではないか。もし、実は寒冷化しているのだとすれば、脱化石燃料などと言ってはいられないだろう。

仮に地球が温暖化しているとすれば、その結果、現在は寒冷であっても「農業や居住に好適な土地」となることが予想される地域があるはずだ。また、「干上がってしまう地域」がある一方で、「作物などを変更することで対応可能な地域」などもあるだろう。こういったことを比較シミュレーションした考察も乏しいように感じる。

気候変動問題というのは、身も蓋もない物言いをすると、そこそこの先進国で人が沢山住んでいて、経済が回っていて、それなりに快適に暮らしているところの気候や環境が激変するのは嫌だ、今の状況から変わりたくない(変われない)という非常に保守的な主張にさえ聞こえてしまうのだ。温暖化して例えばシベリアのツンドラ地帯が快適になればそこに移住すれば良い、とは簡単には行かない世界になってしまった、という話でもある。

世界中で発生している移民や難民を巡る問題を見ても分かるように、国家や体制、所有している土地、言語や宗教を含む文化的な背景、といった近代文明ともいえる様々な枠組みこそが、本来、人類が歩んできたであろう「気候風土が住みやすいところに住む」という自然な選択を困難にしているのである。

もし、海面上昇が本当に起きるとして、水没しそうなところにいつまでも住み続けているべきではないだろうし、温暖化を槍玉に上げても問題は解決しない。インターネットには「海面上昇シミュレーター」というものがある。これで5m、10mなどと海面上昇をシミュレートすると非常に興味深い地図が表示される。日本の首都圏なら、海が見えるところに30年ローンで不動産を買っている場合ではないだろう。

環境問題というのは、人道的な問題を含めて多様な側面があることは事実だが、実は、既得権と経済の側面がかなり大きなウエイトを占めている。既得権とは、その地でのビジネスであり所有している土地であったりするわけで、先祖代々の土地などという感覚に知らず知らずのうちに縛られていて、何らか状況が変わったら、別の住みやすいところ、問題のないところに住むという行為が制限されているともいえる。

日本語に翻訳されていないが、2021年秋に出版された「Move:The Forces Uprooting Us」(Parag Khanna 著)という本がある。詳細は、原文を読んでいただくとして、また、内容についての賛否があるのは当然のこととして、普段、漠然と感じていた上述のようなことを裏付けてくれる内容だった。「人類は、気温や水環境が快適なところに移動することが基本だった。このまま温暖化が続くとすれば、人類の大移動が起こるだろう」という論を展開しているのだ。

Khannaは、世界の人口分布は、
・政治
・経済
・技術
・気候
といったファクターの不安定化や混乱、変動に加えて、インターネットを始めとしたコネクティビティが担保されることによって「移動」が加速される、と指摘する。

人類は長いこと「on the move in right climate」だった。川沿いや海沿いの温暖で水が豊富なところに住んできた。住みやすいところが地球環境の変化によって変わるのは避けられない。海沿いは、海水面上昇によって多かれ少なかれ水没するだろう。温暖なところは、干ばつや水不足、激しい嵐などに晒されるようになる可能性がある。

一方で、いま寒いところが住みやすくなる。シベリア、カナダなどが典型例であり、そういった地域への人類の大移動が起こるはずだ。新たな都市が繁栄するようになるはずだ。そしてこれは、地球規模の人の移動であり、人種、文化、宗教などについても、新たに繁栄する地域では融合が進む。大枠でこのような予測である。

人類と文明を振り返ると、「放浪と農耕の第一段階」から「定住と産業の第二段階」(現在はこれの末期に当たる)という道を歩んできた。今後は、気候変動をトリガーに「移動と持続の第三段階」に至るだろうというのである。Khannaは、これをCivilization 1.0/2.0/3.0と表現している。

土地の文化や地域に特有な感覚は、自然環境や気候風土の中で培われる。Khannaが指摘するような人類の大移動が起こるとすれば、結果的に異なる人種や文化が混じり合った新しい人種や文化の誕生をも予感させる。気候変動とそれによる環境変化が、こういった変化を人類にもたらすとすれば、それは人類の「進化」ともいえるのではないか。

「脱炭素」は、これからの企業活動で避けては通れないテーマの一つになったというだけでなく、Khannaが指摘するような壮大かつ新しいグローバリズムと人類の行く末を考える上での入り口の一つ、ということでもある。

というようなことを考えていたら、1月24日に創刊した「Modern Times」に、気候変動という人類には制御できるかどうか分からない大きなテーマの中で「脱炭素」をどう位置付けるべきかについて、非常に良く整理された論考が掲載されている。是非お読みいただきたい。
脱炭素の思想 人類は地球に責任を負えるのか

「本当のDX」を考えるウェブメディア『Modern Times』創刊「本当のDX」を考えるウェブメディア『Modern Times

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田邊 俊雅(たなべ・としまさ)

北海道札幌市出身。システムエンジニア、IT分野の専門雑誌編集、Webメディア編集・運営、読者コミュニティの運営などを経験後、2006年にWebを主な事業ドメインとする「有限会社ハイブリッドメディア・ラボ」を設立。2014年、新規事業として富士山麓で「cafe TRAIL」を開店。2019年の閉店後も、師と仰ぐインド人シェフのアドバイスを受けながら、日本の食材を生かしたインドカレーを研究している。