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なぜ海外の企業は積極的なIT投資ができるのか

Why overseas companies can conduct proactive IT investment

2022.06.30

Updated by Mayumi Tanimoto on June 30, 2022, 07:00 am JST

最近日本では、ニトリホールディングスがIT部門の人材に高額報酬を支払い、人員数を現状の3倍に増やすと発表したことが話題になっています。日本企業の中にも、やっと積極的なIT投資を行う企業が出てきたのか、というのです。

しかし、日本におけるIT投資は他の先進国に比べても著しく少なくなっており、 ごく少数の企業が積極的に投資をしても国全体としてその総量が少ない、という事実は変わりません。

総務省の調査によれば、日米の国内総生産(GDP)を比較した場合、日本は1994年から2015年までは500兆円台で横ばいなのですが、アメリカは約7.3兆ドルから約18兆ドルとなんと2.5倍程度に増加しているのです。アメリカは、インターネットバブルの前からIT投資を継続し、現在も増やしているということになります。

またIT投資の内訳に関しても、アメリカはパッケージソフトへの投資の割合が半分近くになっていますが、 日本は受託開発のシステムが多く、市販のシステムやソフトウエアを使うことが少ないと指摘しています。これは、実際現場にいる方であればご存知のことだとは思いますが、こういった日本と海外のIT投資の違いについて「なぜそうなるのか」という文化的な側面からの分析は少ないように思います。

日本の企業はなぜ、アメリカやイギリスのような大胆なIT投資を行わず、さらに既存のパッケージソフトやクラウドサービスの活用がなかなか行われないのか。合理的に判断した場合、アメリカやイギリス式にITにどんどん投資をし、市販品のソフトウエアやクラウド使った方が生産性が高くなるわけですが、なぜか日本ではそういう合理的な判断には至りません。

その理由は、実際に日本、アメリカ、イギリスの組織で仕事をし、中から見るとよく判ります。

まず、アメリカとイギリスの場合ですが、IT投資を行う際にシステムやビジネスプロセスを市場に合わせてしまいます。独自性を極力排除し、市場の成功例を集めてきて、それを組織に当てはめてしまいます。

IT投資をして生産性を上げる部分というのは、ロジスティックス、コミュニケーション、文書管理といった要するに「兵站」の部分ですから、そこで特に独自性を出す必要性というのはあまりないわけです。プロセスをきちんと管理すれば、生産性は数値で現れますので、費用対効果も見やすいわけです。

ところが日本の場合、この部分でなぜか各企業で独自性を出そうとして、既存のシステムを改変して使用したり受託開発を依頼してしまいます。なぜそうなるかというと、結局、人の流動性が低いため、しがらみに縛られた組織が多いからです。

前任者や関係者の顔や立場をつぶさないために、既存の古いシステムやビジネスプロセスを使い続けます。「調和を保つ」といえば聞こえは良いかもしれませんが、ビジネスの文脈では「生産性が低い」ということになります。

イギリスとアメリカの場合は、人の流動性が高いですから、役職の変更や転職の際に一気に古いシステムを廃止したりビジネスプロセスを大幅に変更してシステムを刷新してしまいます。その際に業務に携わる人を全て入れ替えることも珍しくありません。しがらみや人間関係を断ち切る代わりに生産性を優先するわけです。結果は数値で出ますので、納得できるわけです。

これは結局、イギリスとアメリカは職場はあくまで「利益を最大化し、自分はその分け前をもらう」という場所に過ぎないと認識しているからでしょう。日本の場合は、会社が利益を最大化するところではなく、自分のアイデンティティを確認し所属を確保する生活の場でありますから、生産性よりも人間関係を優先してしまうのです。

日本は戦中の徹底的な国土破壊により、戦後は新しい生産設備が導入され、戦争により労働人口が大きく失われたために、しがらみがない若い人々が製造業で活躍することになりました。ですから、職場を「村」と考える文化があっても、当時は生産設備の破壊による新規システム導入や、膨大な戦死者や戦傷者による労働人口の損失といった「外部環境の変化」によって高い生産性を維持することができたわけです。

ところが今の日本というのは、全体が高齢化しており、成功体験を引きずった世代が多いですから、昔のシステムややり方をスクラップすることができず、人の流動性も低いですからアメリカやイギリスのように大胆なIT投資で生産性を高めることができないわけです。

つまり、日本がIT投資で生産性を高めるには、雇用規制を緩和し、人の流動性を高める他ありません。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。