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八瀬清志(やせ・きよし) 国立研究開発法人 産業技術総合研究所・名誉リサーチャー

分子薄膜技術:分子を並べて見て使う

Molecular Thin-Films Technologies: How to arrange, see and use

2022.09.22

Updated by Schrodinger on September 22, 2022, 15:05 pm JST

大画面で高精細な有機ELテレビが量販店で展示されています。また、プラスチックシート上に作製されたフレキシブルな有機薄膜太陽電池やセンサーなどが、研究段階から実用化に向けて開発が進められています。

歴史的には、有機・高分子系材料は、無機・金属材料に比べて耐熱性・安定性が低いために、電子デバイスなどのメインのパーツに用いられることはなく、封止やレジストなどの補完的材料として用いられているに過ぎませんでした。その中で、1980年代以降、日本を含めた世界各国の科学技術者により、アクティブな機能素子としての有機半導体や導電性高分子の研究開発が精力的に行われてきました。その製品化には、日本の企業が世界に先駆けて成功しています。

ところで、1999年にオーストリアの研究者が、「Wave-particle duality of C60 molecules」という題目の論文をNatureに発表しました。材料吸収格子での回折による C60(フラーレン:炭素原子60個で構成)分子のド・ブロイ波干渉縞の形成が観測されたのです。これは先にご紹介した有機薄膜技術、および私自身が30年間にわたり行ってきた「分子薄膜技術:分子を並べて見て使う」と大きな関係があります。

今回の講演では、この論文の詳細を紹介するとともに、私自身の分子薄膜技術についてお話しします。真空蒸着した分子の挙動から、到達した基板表面でのダイナミクス、そして薄膜中の分子の配列、そして、それから得られる異方的な光電子特性(偏光発光)についてご紹介する予定です。下記の4枚の図を中心にその詳細を解説しますので予習しておいてください。(八瀬)

蒸発分子の基板表面での挙動:基板表面に到達した分子は吸着、表面拡散そして凝集・核形成・結晶化を行います。

蒸発分子の挙動:四重極質量分析装置による分子線強度のるつぼ温度依存性は、昇華のエンタルピーに対応します。

雲母基板上に真空蒸着したフタロシアニン薄膜の高分解能電子顕微鏡像:平面分子としてのフタロシアニンが、棒状に見えています。仔細に見ると、ところどころ分子の傾いている方向が違います。

特殊な方法で透明導電基板上に作製した青色発光素子の写真:偏光フィルターを介してみると、配向方向にのみ青色の発光が見えています。

募集要項
9月28日(水曜日)19:30開始
分子薄膜技術:分子を並べて見て使う

八瀬清志(やせ・きよし)
国立研究開発法人 産業技術総合研究所・名誉リサーチャー

1973年大阪大学理学部高分子学科入学、1978年同大学大学院理学研究科無機及び物理化学専攻(修士)、1980年京都大学大学院理学研究科化学専攻(博士)、1984年広島大学生物生産学部食品物理研究室・助手、1989年マックスプランク(Max-Planck-Institut)高分子研究所・客員研究員、1991年広島大学大学院生物圏科学研究科・助教授、1992年通商産業省・工業技術院・繊維高分子材料研究所・主任研究員、1997年同室長、2000年総務部総務部産業技術総合研究所(産総研)設立準備本部(戦略企画調整チーム)調査官就任を経て、2001年産総研光技術研究部門・副部門長、2010年同・ナノシステム研究部門・部門長、2012年同・計測・計量標準分野・副研究統括、2015年同・評価部・首席評価役、2016年同・材料・化学領域・領域長補佐、2020年先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)専務理事補佐、2022年産総研・ナノ材料研究部門・契約職員を経て現在に至る。

・日程:2022年9月28日(水曜)19:30から45分間の講義(その後、参加自由の雑談になります)
・Zoomを利用したオンラインイベントです。申し込みいただいた方にURLをお送りします。
・参加費:無料
・お申し込み:こちらのPeatixのページからお申し込みください。


「シュレディンガーの水曜日」は、毎週水曜日19時半に開講するサイエンスカフェです。毎週、国内最高レベルの研究者に最先端の知見をご披露いただきます。下記の4人のレギュラーコメンテータが運営しています。

原正彦(メインキャスター、MC):東京工業大学・物質理工学院応用科学系 教授原正彦(メインコメンテータ、MC):東京工業大学・物質理工学院・応用化学系 教授
1980年東京工業大学・有機材料工学科卒業、1983年修士修了、1988年工学博士。1981年から82年まで英国・マンチェスター大学・物理学科に留学。1985年4月から理化学研究所の高分子化学研究室・研究員。分子素子、エキゾチックナノ材料、局所時空間機能、創発機能(後に揺律機能)などの研究チームを主管、さらに理研-HYU連携研究センター長(韓国ソウル)、連携研究部門長を歴任。現在は東京工業大学教授、地球生命研究所(ELSI)化学進化ラボユニット兼務、理研客員研究員、国連大学客員教授を務める。

今泉洋(レギュラーコメンテータ):武蔵野美術大学・名誉教授今泉洋(レギュラーコメンテータ):武蔵野美術大学・名誉教授
武蔵野美術大学建築学科卒業後、建築の道を歩まず、雑誌や放送などのメディアビジネスに携わり、'80年代に米国でパーソナルコンピュータとネットワークの黎明期を体験。帰国後、出版社でネットワークサービスの運営などをてがけ、'99年に武蔵野美術大学デザイン情報学科創設とともに教授として着任。現在も新たな表現や創造的コラボレーションを可能にする学習の「場」実現に向け活動中。

増井俊之(レギュラーコメンテータ):慶應義塾大学環境情報学部教授増井俊之(レギュラーコメンテータ):慶應義塾大学環境情報学部教授
東京大学大学院を修了後、富士通、シャープ、ソニーコンピュータサイエンス研究所、産業技術総合研究所、米Appleにて研究職を歴任。2009年より現職。『POBox』や、簡単にスクリーンショットをアップできる『Gyazo』の開発者としても知られる、日本のユーザインターフェース研究の第一人者だがIT業界ではむしろ「気さくな発明おじさん」として有名。近著に『スマホに満足してますか?(ユーザインタフェースの心理学)(光文社新書)など。

竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人
日経BP社でのインターネット事業開発の経験を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。2010年にWirelessWireNewsを創刊。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997〜2003年)、独立行政法人情報処理推進機構・AI社会実装推進委員(2017年)、編著に『ネットコミュニティビジネス入門』(日経BP社)、『モビリティと人の未来 自動運転は人を幸せにするか』(平凡社)、近著に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス/ミシマ社)、など。

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