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成熟した人間は、他人の助けを上手に借りて、人間関係のなかで生きていくことを楽しめる

2023.06.22

Updated by WirelessWire News編集部 on June 22, 2023, 07:18 am JST

バブル真っ只中に公開された「魔女の宅急便」は女性たちへのエールだった

映画「魔女の宅急便」(1989年)は、空前のバブル景気(1986-1991年)の真っ只中に公開された。日本の人々は浮かれ、華やかな消費社会が花開いていた。1985年には男女雇用機会均等法が制定され、女性の社会進出が声高に叫ばれ、フェミニズムが経済的自立をうたった。

その渦中で宮崎駿は、物質的豊かさだけではなく、精神的自立の支えとなるような、若い女性のための物語が必要だと考えた。そのため、主人公のキキは、地方から都会に出てきて職を得て、飛躍しようとする女性たちと重ねられている(宮崎駿『出発点』徳間書店、1996年)。魔女たちの住む小さな田舎町から大都市に出てきたキキが、宅急便屋さんになるべく悪戦苦闘して成功を目指す姿は、都会で居場所を見つけようともがく女性たちへのエールでもあった。

物語の冒頭で、キキは魔女になるための修行の一環として、若くして生まれ故郷を離れることになる。キキの母親は、年配の女性に「あの歳で独り立ちなんて、今の世には合いませんわ」とぼやいている。母親自身も若い頃に今住んでいる場所に降り立ち、生活基盤を作ってきた。そのしきたりを理解しながらも、魔女として今ひとつ技術の身につかない娘・キキを心配している。それに対し、年配の女性が「時代のせいですよ。なにもかも変わってしまう」ととりなしている。

キキのほうは希望に胸を膨らませており、母親の小言もまともに聞いていない。「キキ、形にそんなにこだわらないの。大切なのは心よ」と忠言されても、「わかってるわ、心の方はまかしといて。お見せできなくて残念だわ」と生意気に言い返す。「笑顔を忘れずにね」と言われても、キキはそんなことはわかってます、という顔をしている。母親の古いほうきを持たされてブツブツ言い、下手くそな飛行で木にぶつかりながら飛び出しても、明るい未来で頭がいっぱいだ。両親や地元の人々に愛され、見送られ、キキは旅立つのである。

自立したてのタイミングでは何もかもがうまくいかない。オソノさんに商売を学ぶまでは

ところが、故郷をあとにするとキキは心細くなっていく。飛行中に、先に魔女の修行を始めた女の子に出会い、特技はあるのかと聞かれる。「いえ、いろいろ考えてはいるんですけど」と答えてみるものの、生活の糧を稼ぐあてはない。海の見える都会の町に住むと決めたが、飛行中に警察官に捕まりそうになるわ、未成年でホテルに泊まれないわで、なにもうまくいかない。意気消沈して、お弁当のサンドイッチを食べる気力もなくなってしまった。相棒の黒猫のジジに「別の街をさがそうよ。大きくてもっといい街があるよ、きっと」と言われて、黙り込んでしまう。

両親や地元の人々に守られて、安穏に暮らしてきた楽天家の少女は、現実に直面するとすぐに落ち込み、立ち行かなくなるのである。事態が好転するのは、パン屋のオソノさんとの出会いからだ。キキがオソノさんに「この街の方は魔女がお好きじゃないみたいですね」と弱音を吐くと、彼女は「大きな街だからね、いろんな人がいるさ。でも、あたしはあんたが気に入ったよ」と言ってくれる。そのうえ、寝床まで提供してくれた。オソノさんの助けもあり、キキは町の宅急便屋さんとしてビジネスをスタートする。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
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