光ピンセットで世界制覇を狙え!
Aiming for World Domination with Optical Tweezers
2023.06.23
Updated by WirelessWire News編集部 on June 23, 2023, 14:10 pm JST
Aiming for World Domination with Optical Tweezers
2023.06.23
Updated by WirelessWire News編集部 on June 23, 2023, 14:10 pm JST
「光ピンセット(optical tweezers)」は、光圧(ひかりあつ)という光の圧力を使った新しい技術です。例えば、血液中の赤血球を捕まえて自由に移動させたり、あるいは水と油に溶けているそれぞれの物資を光ピンセットで近付けて化学反応させる、などという芸当が可能になります。
この光ピンセットは、ベル研究所のアーサー・アシュキン(Arthur Ashkin, 1922-2020)によって1970年代に初めて報告され、彼はこの研究で2018年にノーベル物理学賞を受賞していますが、実はまだまだ発展途上の技術です。
坪井研究室では、この光ピンセットをさらに改良したNASSCA(ナスカ)光ピンセットによって、ワンランク上の光ピンセットを鋭意開発中です。光圧を上げる基板として、ブラックシリコンが優れていることを世界で初めて発見したことがきっかけになっています。化粧品を構成する粒子などもサイズ的には光ピンセットと相性が良いので、研究室の卒業生には化粧品会社の研究開発部門に就職する人も多いようです。結果として冒頭の写真のような、なんだかとても楽しげな研究室になっています。
坪井研究室のもう一つの重要な研究テーマが「光で高分子の時間を計測する技術」です。坪井研究室が独自開発した計測システムを駆使して、新しい高分子の外部刺激による一連の動的挙動(ダイナミックス)の解明に取り組んでいるのだそうです。
分析化学の大切な要素である「分離と精製」には、溶液中で形成される「界面」が重要な役割を果たしています。高機能性ポリマーは、このような界面を温度変化やpH変化という外部刺激により可逆的に形成することができるユニークな物質群です。このような物質を新たに合成、外部刺激により構造を変化させ(=相転移)、さらに新しい界面を作る(=相分離)という、一連のプロセスのダイナミックスの解明に世界で初めて成功したのだそうです。東工大の中嶋研究室の研究と相性が良さそうなので、ぜひ共同研究されてはいかがでしょう。 (竹田)
坪井 泰之(つぼい・やすゆき)
大阪公立大学大学院・理学研究科物質分子系専攻・教授
大阪大学 基礎工学部 合成化学科 、同大院工学研究科 応用物理学専攻 博士後期課程 修了(工学博士)。1995年富士写真フイルム・富士宮研究所、1996年 京都工芸繊維大学 繊維学部 助手、2001年 北海道大学理学研究院化学専攻助教授を経て、2013年に現職。プロジェクトとしては、JSTさきがけ21 研究員 代表・兼任(「状態と変革」領域)(1998-2001)、JST SOREST(発展・継続研究)研究代表(2002-2004)、JSTさきがけ 研究員 代表・兼任(「光物質とエネルギー変換」領域)(2010-2014)等に参画。受賞・表彰案件としては、光化学協会奨励賞(2005)、光化学協会賞(2017 )などがある。
・日程:2023年7月5日(水曜)19:30から45分間が講義、その後、参加自由の雑談になります。Zoomミーティング形式で実施します。
・「シュレディンガーの水曜日」は2023年5月から招待制に移行しました。参加希望の方は下記の3名、もしくは過去に「シュレディンガーの水曜日」で話題提供いただいた方々にお問い合わせください。研究者、研究者OB、理工系の学部生・大学院生の方々の参加をお待ちしております。なお、事務局の不手際により、数名の方が登録漏れになっていることが判明しました。お心当たりの方は takeda@gmail.com までご連絡ください。
「シュレディンガーの水曜日」は、水曜日19時半に開講するサイエンスカフェです。毎週、国内最高レベルの研究者に最先端の知見をご披露いただきます。下記の3人のレギュラーコメンテータが運営しています。
原正彦(メインコメンテータ、MC):ドイツ・アーヘン工科大学 シニア・フェロー
1980年東京工業大学・有機材料工学科卒業、83年修士修了、88年工学博士。81年から82年まで英国・マンチェスター大学・物理学科に留学。85年4月から理化学研究所の高分子化学研究室研究員。分子素子、エキゾチックナノ材料、局所時空間機能、創発機能、揺律機能などの研究チームを主管、さらに理研-HYU連携研究センター長(韓国ソウル)、連携研究部門長を歴任。2003年4月から東京工業大学教授。現在はアーヘン工科大学シニア・フェロー、東京工業大学特別研究員、熊本大学大学院先導機構客員教授、ロンドン芸術大学客員研究員を務める。
中山知信(レギュラーコメンテータ):物質・材料研究機構(NIMS)国際・広報部門・部門長
1988年東京工業大学大学院・材料科学専攻修士修了(99年博士(理学)、東京大学)。91年、民間企業から理化学研究所に移籍し、ナノ物性研究に従事。2002年より、物質・材料研究機構(NIMS)。国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)PI、同拠点副拠点長および事務部門長などを務め、2007年文部科学大臣表彰科学技術賞研究部門、2019年応用物理学会フェロー表彰などを受賞。筑波大学准教授、教授も併任し、2022年より同大学名誉連携教授。現在は、NIMS国際・広報部門長として研究の活性化に力を入れている。
竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人
日経BP社でのインターネット事業開発の経験を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。10年にWirelessWireNewsを創刊。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997-2003年)、独立行政法人情報処理推進機構・AI社会実装推進委員(2017年)、編著に『ネットコミュニティビジネス入門』(日経BP社)、『モビリティと人の未来 自動運転は人を幸せにするか』(平凡社)、近著に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス/ミシマ社)、など。
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