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AI時代に問われる人間の「真心」の価値

2023.09.29

Updated by Ryo Shimizu on September 29, 2023, 19:11 pm JST

今、ノースカロライナ州に来ています。
アメリカにおけるBBQは、実はノースカロライナに起源があるのだそうです。
ノースカロライナ流のBBQは、実は州の東西によっても味付けが変わります。
アメリカ人にとってのBBQは、日本人にとってのラーメンみたいなものです。
それぞれのお店で独自のスペシャルなBBQソースがある。その味付けも千差万別で、用はラーメンにも醤油、塩、豚骨、味噌がベースになっていて、それぞれお店ごとに味付けが違うのと同じ。

驚いたのは、値段が安いこと。
アメリカでは基本的に料理は高いのですが、昨日夕飯に食べたBBQプルドポークサンドイッチは9ドルでした。
往復のUber代は40ドルだったので、食事がいかに安いかわかります。多分観光地ではないからでしょうが。
昨日訪れた店も地元の人たちで盛り上がっていました。

今後、おそらくかなり高い確率で生成AIを活用した一人会社、一人起業というものが出てくるはずです。フリーランスとの違いは、企業体の形をとることで契約面で色々なことが有利に運ぶところと、源泉徴収など人を雇いやすくなるところです。

そうすると、学生時代から一人で起業して一人で事業を立ち上げて一人で事業が軌道に乗って、というサクセスストーリーの人が遠からず出てくるでしょう。

そもそも会社はなぜ人を集めなければならなかったかといえば、人間がやらなくてはならないことがあまりにも多かったからです。
飲食店を例にとれば、メニューの開発、仕入れ、調理、接客、店の清掃などといったことを一人でやれないことはありませんが、繁盛してくると限界に達するので人を雇って少しずつ作業を分担していく、というイメージです。

飲食店の場合、店舗というものがあるのでマンパワーというのはある程度必要になってくるのですが、究極の形になると、ワンオペの飲食店になります。こういうお店はオーダーが自動化されていたり、注文方法が簡略化されたりしていて、お店の広さも抑えてワンオペでも十分回せるように工夫されています。

飲食店とそこで働くスタッフの関係性は、資本家と労働者の関係をそのまま踏襲しています。
資本家はお金を出し、労働者は言われた通りに働く、という形です。この場合、資本家はお金が続く限りたくさんの飲食店を出して利益を上げることが(理論上)できます。

ところが、この「資本家が資本投下を繰り返して売り上げ・利益全体を上げていく」というモデルは、人口増加が永遠に続くという前提でしか成り立ちません。

どこかで全体が上限に達します。例えば1億人の人口が毎食外食するというのが市場の可能性を最大限広げた状態として、それが翌年1億1000万人に増えるような世界と、9900万円に減るような世界では当然資本家の策略だけでは回らなくなります。

これまでのような、「同じ商品を安くたくさんの人に売る」というモデルは人口減少とともに廃れていき、反対に高付加価値で「この人のための商品をこの人のために売る」というものに変化していくでしょう。

こうすると、「毎日、毎回、同じことをすればいい」という前提で雇っていた店員は資本家にとって都合の良い存在ではなくなります。
まあ実際には人間がやっている以上、常に完全に同じことを毎回繰り返しているというわけではないのですが、仮に機転の効く店員がいたとして、「君、気が利くから給料上げるね」という感じには反映されず、給料を上げるには別の理由が必要でした。

つまり、こうした現場では現場の創意工夫や気配りといった指標が数値化されず、システム全体の評価関数に組み込まれませんでした。
しかしこのような世界は廃れていくと思います。筆者が何度も主張しているように、知性を機械的なものが代替した時、残る価値は「真心」と「思いやり」だからです。

昨日こんなことがありました。
シカゴでのコネクティングフライトの際、空港が広くて一旦ゲートの外に出なくても、そのまま次の出発ゲートまで行くことができました。まあ大きい空港ではこういうことはよくあります。

次の出発ゲートの一番近くにユナイテッドクラブという、要するに航空会社が運営するラウンジがあったのでそこに入りました。
すると、受付の女性に「航空券がないなら入れることはできない」と突っぱねられました。

しかし、筆者は航空券を再発行する方法や、その必要性について全くアナウンスされていません。

「ここで再発行は受けられないのか」と聞くと、短く「無理(nope)」と答えました。
国内線とはいえ、筆者のチケットはファーストクラスで、スターアライアンスゴールドメンバーです。もう少し愛想をよくしてくれてもいいだろうにと思いながら「ではどこで発行されるのか?」と聞くと「知らねえよ(I don't know)」と大袈裟なジャスチャーで門前払いされました。

なかなか日系の航空会社ではされない対応ですが、まあアメリカってこういう国だよなと思い、怒っても無駄なので一旦ラウンジの外に出てチケットを発行してくれそうなカウンターを探しても見つかりません。やっと見つけたのは、チケットの自動発行機です。しかし、2台のうち一台はプリンターが壊れていてチケットが発行できず、かろうじて生きていた一台も、やはりプリンターの調子が悪くてチケットの肝心の二次元バーコード部分が印刷されませんでした。

発行されたチケットを持っていくと渋々といった感じでラウンジに入れたのですが、なぜ彼女がこんな態度をとってしまうかというと、それが彼女の勤務査定やひいては給与に全く影響しないというのも大きな原因です。

しかし実際に彼女がやっていることは、航空券の確認とスターアライアンスメンバーカードの確認(及びスキャン)、だるそうに「次!(next)」と叫ぶことだけです。おそらくセルフでも対応可能ですし、GPT-4の方がずっとマシで丁寧な受け答えができるでしょう。不届ものがいたら、通報するのも彼女の仕事だと思いますが、それもAIがあれば十分です。

接遇というのは訓練を受ければ誰でもできるようになりますが、人間の性根というのはそう簡単に変わりません。
AIよりも愛想の悪い受付嬢に給料を払い続ける航空会社はいつまで生き残るのでしょうか。

AI時代にその人間の価値が本当に再評価される場面というのは、まさに「AIの方がマシでは?」と人間の顧客が思うときでしょう。
たまたまその時、その人の虫の居所が悪ったのかもしれませんが、その後、再度同じラウンジを訪れた時には非常に感じのいい受付の人で助かりました。そもそも、従業員の虫の居所が悪いところを押し付けられるのは顧客からしたらただ迷惑なだけの話です。

顧客を困らせて楽しんでいるような人と比べると、AIは遥かにましになるでしょう。しかしAIは実際的には心を持っていませんので、マニュアル化可能な対応はできても、真に人間に寄り添った対応はできません。

ということは、AIができる対応(マニュアル対応)以下の接遇しかできない人間は、AIよりも価値が低いと見做されるようになっていくでしょう。反対に、人間はもっとAIができないレベルの接遇、つまり困っている顧客に心から寄り添い、助けてあげるような接遇ができない人は、接客業に向いてないと判断されるのではないかと思います。そしてもしかすると、単に頭を使うだけの仕事よりも、相手に寄り添える仕事の方が平均給与が高くなるかもしれません。

頭を使う「だけ」ならAIの方が遥かに安価かつ高速化つ正確に物事を解決できる一方、相手に寄り添うのはマニュアルだけで通り一遍に行かない能力だからです。そうすると、これまで「我こそはビジネスパーソンでござい」と、人の心を捨てたような傍若無人な振る舞いを許されてきたような人たちが、一気に路頭に迷うような展開が出てくるのかもしれません。

ここ最近のニュースを見ていると、そういう流れを社会が敏感に感じ取って起きるべくして起きたのが、エプスタインやビッグモーターなど最近の一連の事件なのかなと思います。

単純な拝金主義、つまり「お金が神様」という世界では、「お金」というものの前には人間性や人間の思い、気持ちよく働きたいという気持ちは単に無視されます。無視した方が効率がいいからです。ビッグモーターでは「数字は人格」というそのまんまの言葉が使われていたそうです。

エプスタインがらみではMITのスキャンダルも、世界中の研究者の尊敬を集める存在であったニコラス・ネグロポンテが、ポンジスキーム詐欺師であり小児性犯罪者でもあるジェフリー・エプスタインからの金を伊藤穰一氏に「受け取れ」と勧めたことなどから、拝金主義というのがいかに世の中を蝕んでいたのか伺えます。

この一連のスキャンダルで象徴的だと思ったのは、無邪気にも証拠になるようなメールやLINEが残されていて、しかもそれを従業員が告発したということです。これは上層部と現場の間の意識に大きなズレがあることを意味しています。

上層部は「みんな金が欲しいから当然いうことを聞くだろう」と思っていたのでしょうが、現場は常に自分の感じるストレスや良心の呵責といったものと、お金の持つ圧倒的な魅力の間で葛藤していて、人の心(良心)を捨てた人だけが成果を出し出世できるという世界を構築していたわけです。

つまり上層部と現場とで、「お金」の価値が違っていた。このギャップが上層部には想像できなかったので証拠の残るような指示を出していたのでしょう。多分本当の犯罪組織ならばもっと罪の意識があるので証拠を残すようなことはしないはずです。

エプスタイン問題では、被害者が起こした訴訟により、エプスタインの行動を容認してきたドイツ銀行やJPモルガンチェース銀行に対してニューヨーク州連邦地裁が7500万ドル2億9000万ドルの和解金の支払いを命じています。

AIの高度化によって拝金主義というものが実は虚しい価値観だったということが広く伝わっていくといいなと思います。
思うに、大切なのは、お金を持っていることではなく、善く生きることです。起業するなら、大金を稼ぐことよりも遥かに、善く生きることが大切になります。自分にとって「善い生き方」とは何か、というのは人によって違うので、お金云々の前に「自分にとって善い生き方」が何かを定義するのがいいのではないかと思います。

質問されそうなので先に答えておくと、筆者にとっての「善い生き方」は、「常に未来志向でいる」ということです。

昨日どうだったかを悔やむより、明日どんなことが起きるか、起こすか、10年後どうするか、20年後どうするか、自分が死んだ後の人類はどうなっていくのか、そればかりを考えているのが自分にとって最良の状態です。時折プロダクトを作ることもありますが、それらも全て、「未来はどうなっていくのか」考える過程にあるもので、目的はあくまでも「未来がどうなるか、どういう未来が自分にとって善い状態か」知ることです。何かモノを作ることで知ることができると考えているわけです。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。

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