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データ・サイエンティストらに要求される「パラ技能」

2024.09.13

Updated by WirelessWire News編集部 on September 13, 2024, 10:14 am JST

専門性の高い特殊な技能を持っていたとしても、それ「だけ」でできることにはごく限りがあり、成果は上がりにくい。あらゆる領域で「パラ技能」が必要とされているのである。科学技術社会学の専門家である福島真人氏が解説する。

業務の境目をめぐる境界確定作業

つい先日まで、メディアでは21世紀の花形職業の一つとしてデータ・サイエンスの名が喧伝されていた。しかし最近では、関係する記事を読むと、むしろその将来に暗雲が立ち込めているという不穏な予測がちらちらと目に付く。

膨れ上がる期待は急激に収束することもまた必定というのは既に何回も指摘したが、この場合、分かりやすい負の要因の一つは生成AIによる失業という、世間でよく聞く話である。それに加えて、データ・サイエンティストの現実の仕事が、単に現場へ赴いてデータを分析するという単純作業ではないという点も指摘されることがある。

かつて調査していた精神医療の現場は、医師、看護師といった医療系のスタッフに加え、患者の日常の活動を管轄する作業療法士や、地域との連係を図るソーシャル・ワーカー、更に薬剤師や管理栄養士も加わるチーム医療が前提であった。

彼らには当然自らの持ち場があるが、会議では時々面白いやりとりがあった。ある患者に対して、状態の改善が見られず、もう少し治療的な関与が必要かも、という雰囲気になった時に、医師が作業療法士に「期待しているよ」という内容でやんわりと圧力をかけるのである。それに対して作業療法士側は、「あまり我々の力に期待しないでほしい」と反論したりするのだった。

STSには境界確定作業(boundary work)という概念があるが、科学(即ち真)/非科学(偽)という境界を作ることへの科学者の執着と努力を表現したものである。上記した業務の境界をめぐるやりとりは、こうした作業に似た行為の別の例といった面もある。

他方、それとは逆のケースもしばしば目撃した。一般に開放病棟の医師は、患者の社会復帰のため、狭い意味での医学的知識以外の知見も必要とされる。実際、熱心な医師の中には、近隣の不動産について詳細な知識を持っている人がいて、驚いた経験がある。基本的にそれはソーシャル・ワーカーの役割だが、必要に応じて医師自身も、そうした詳細な実践的知識を持つようになることもある、という例である。

この話はいくつかの解釈が可能だろう。その一つは分業とその限界である。分業を基礎とする組織では、前述した境界確定作業は日常茶飯事で、その悪しき例が役所等での業務のたらい回しである。その案件はうちの担当ではない、いやうちでもない、という奴である。逆もまた真なりで、刑事モノの番組でよく目にする、このホシはうちの管轄だ、いやうちのだ、という例がそれに当たる。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の前半部分です。
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