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July 28, 2026
中村 航 wataru_nakamura
1985年生まれ。福岡県福岡市出身。翻訳者。テクノロジーやファッション、伝統工芸、通信、ゲームなどの分野の翻訳・校正に携わる。WirelessWire Newsでは、主に5G、セキュリティ、DXなどの話題に関連する海外ニュースの収集や記事執筆を担当。趣味は海外旅行とボードゲーム。最近はMリーグとAmong Usに熱中。
フィジカルAIの実用化を考えるとき、つい注目は「頭脳」や「歩行」に集まりがちだ。だが、ロボットが実際に家庭や工場で役に立つには、もう一つ重要な部位がある。手だ。
ノルウェー発のロボット企業1X Technologiesは先ごろ、家庭用ヒューマノイド「NEO」に搭載する新たなロボットハンドを発表した。Wiredによれば、この手は人間の腱のような仕組みで動き、25自由度(手や指がどれだけ多様に動けるかを示す指標)を持つ。人間の手が一般に27自由度とされることを考えると、かなり人間に近い可動域を目指した設計だ。奇妙な形の物をつかむ、滑りを検知する、水に濡れても使える、といった特徴も紹介されている。
なぜここまで「手」が重要なのか。理由は単純で、ロボットにやらせたい仕事の多くが、結局は物を扱う作業だからだ。洗濯物をたたむ、食器を片づける、ドアを開ける、ケーブルを差す、部品を持ち替える。人間にとっては何気ない動作でも、ロボットにとっては非常に難しい。
この課題に注目しているのは1Xだけではない。The Guardianは7月6日、中国でロボットハンド専門のスタートアップが相次いで登場していると報じた。LinkerBotやWuji Technologyのような企業は、人型ロボットを単なるデモから実用品に変えるには、器用な手が不可欠だと見ている。中国ではEV(電気自動車)産業を背景に、小型モーターやバッテリーなどの部品供給網が整っており、ロボットハンドの量産にも追い風になっているという。
ただし、ハードを作れば終わりではない。The Guardianの記事でも指摘されているように、より難しいのは、その手をどう制御し、どう学習させるかだ。人間の手は、力加減、触覚、滑り、角度、対象物の柔らかさをほとんど無意識に処理している。これをロボットに教えるには、大量の動作データや触覚データが必要になるという課題もある。
『工場ロボットは「見て覚える」ようになるのか、進化するロボットの学び』で紹介したMowitoは、工場ロボットに人間の実演から作業を学ばせようとしていた。一方で現在のロボットハンド開発競争の最先端を見ると、その先にある課題が浮かび上がってきていることもわかる。ロボットが仕事を「覚える」だけでなく、それを現実世界で「実行する」には、器用で壊れにくく、量産できる手が必要になる。最後に現実世界と向き合うのは、物に触れ、つかみ、離す「手」だからだ。
(中村 航/翻訳家)
参照
Wired: The 1X Neo Robot Has Freaky Fast Fingers
The Guardian: China wants to solve the hardest problem in robotics – making hands
Business Insider: 1X’s product head says its new humanoid hand has solved one of the toughest problems in robotics