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オープンイノベーションから共創へ

2014.07.01

Updated by Satoshi Watanabe on July 1, 2014, 12:32 pm JST

ニコニコ学会βの発案者の一人である、産業総合研究所の江渡浩一郎氏(以下、江渡さん)が主催している、共創プラットフォーム研究会というプライベートの勉強会がある。江渡さんご本人からも趣旨としては「私達は共創という言葉を良く使うようになったけれども、実体としてどういうものかはまだまだ良く分かってないんじゃないか」というものとして企画運営されている。
サイトの説明文でいうとこんな感じになる。
「共創」というキーワードがよく聞かれるようになりました。さまざまな人があつまりひとつの物事を作り上げる。私たちは、そのような共創を支援するプラットフォーム「共創プラットフォーム(Co-Creation Platform)」を推進したいと考えています。そこで、各分野で共創を推進している方々をお呼びし、議論をする場として「共創プラットフォーム研究会」を立ち上げました。
江渡さんとは、文科省の産業開発プログラムである革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)でもご一緒させて頂いており、本研究会は、江渡さんのCOI(正確にはCOI-T)での研究と江渡さんの元々の研究テーマが重なっての共同主催的な位置づけとなっている。
ちなみに、本稿のオチを先に記述しておくと「この分野大事になってきてますよね」というところまでである。全体議論を真面目に整理し始めると少々長くなってしまうので、先触れのみ。
■ オープンイノベーションから共創へ
共創というのは新しい戦略キーワードとして議論され始めていると、まだはっきりとした概念定義なりが為されている感はなく、全体的なふんわりとしたトレンド感というか時代の流れ感的に捉えられているように思われる。
ちらと探してみると、HBRに記事が出ており、文中でコンパクトにこう定義されている。
共創は、新しい製品やサービスのためのアイデアを、それらを買ってくれる(と企業側が願っている)顧客とともに出し合うということだ。
共創プラットフォーム研究会でスコープにされている、「協力してコトを進める際の創造性、思いがけないアイデアや考えの発展はどのようにやってくるのか」という問題意識まではカバー出来ないものの、端的な表現としては違和感がない。いずれにせよ、社会活動、あるいはビジネスの手法としてコンスタントに議論の遡上に挙がるようになっているというのはこの論考からも掴めるかと。
事業開発、ビジネス開発的な目線で共創とのフレーズ界隈の動きを思い起こすと、
・ユーザーイノベーション
・オープンイノベーション(特に企業間を今回は指して考える)
・ユーザー参加型+++(CGM、UGMなど)
・プラットフォームビジネス
といったあたりが近傍となる。
共創及び近傍の議論は、いずれもある程度関連はしつつも、個別独立した議論として展開されている。しかし、いずれも背景に共通して意識されているのは、コミュニケーション手段や形態の変化、平たく書くとデジタル化の進展とデジタルネットワーク(インターネット)の普及である。
■ プロモーションから市場開発へ
共創がテーマとしているのは、上記の定義であるように、既存製品の営業販促ではなく、新しい製品やサービス、場合によっては新市場そのものを作り出すような動きをユーザーと共に行っていくことである。
これは、ユーザーイノベーションの議論などと似た問題意識であるが、企業側が技術開発やスペック開発的な目線で努力を積み重ねても必ずしも顧客獲得に繋がらない、あるいは市場調査などを行ってもユーザーの欲しいものに上手くフィッティングしきれていないとの問題意識から、ニーズの取り込み段階からユーザーを巻き込んで進めていくことで、自分達単独で考えたのでは気づけない発想やプロダクト定義を見つけて行こうという考え方に基づいている。
(これは、企業間活動と捉えた際のオープンイノベーションの問題意識にも近い)
実際の事業者の動きとしてケース観察すると、資料的には例えば神戸大の小川先生の、そのものタイトルである『ユーザーイノベーション』にも国内の事業者の主要ケースが整理されているが、ネット系を中心に特定事業者では大きく取り上げられているものの、広範に広がっているという状況にはまだ見えない。ハッカソンあたりが該当するが、試しに少しやってみて組織能力と経験として学習を進めている、との段階がまだ主流である。
■ 単発の活動から継続的活動への期待
とはいえ、オープンデータ界隈でも議論の遡上に挙がってきているが、継続的な活動にどうやって持っていくかとの議論が出てくるようになっている。オープンデータの場合は、行政サイドでのデータ公開を維持するための予算措置と体制作りの話と、周囲を継続的に巻き込んで動きを維持するにはどうすればいいかとの話が交わされ始めている。
当たり前であれば、イベントプロモーション的なものと、定常的な活動としては参加関与の方法から予算の位置づけまでいろんな運営条件が変わる。
大手事業者でも、共創やオープンイノベーションの動きは時限的なアクションとして取られるのは珍しくなくなってきているが、その次の一手については、期待や要望は出てきているもののまだ手を出しあぐねている感がある。ハッカソンの定期開催的な形に落ち着かせるのも一案ではあるが、せっかくなのでもう少し踏み込んだところまで見てみたいところである。
※おまけ
COI-T関連のシンポジウムで、文中にも取り上げました神戸大小川先生をお招きしています。ご興味のある方は是非に。

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渡辺 聡(わたなべ・さとし)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任助教。神戸大学法学部(行政学・法社会学専攻)卒。NECソフトを経てインターネットビジネスの世界へ。独立後、個人事務所を設立を経て、08年にクロサカタツヤ氏と共同で株式会社企(くわだて)を設立。大手事業会社からインターネット企業までの事業戦略、経営の立て直し、テクノロジー課題の解決、マーケティング全般の見直しなど幅広くコンサルティングサービスを提供している。主な著書・監修に『マーケティング2.0』『アルファブロガー』(ともに翔泳社)など多数。