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ナウイストと騒がしさ

Be Nowist is the right way, But…

2016.07.26

Updated by Masakazu Takasu on July 26, 2016, 08:00 am JST

ごめんなさい、前回から3ヶ月以上もあけてしまいました。その間、シンガポール→東京→深圳→台湾→ベイエリア→東京と移動していました。

その中の深圳とベイエリアは、「早く決断する」「早く行動する」ことについての聖地です。いますぐに、軽く早くスタートして、早めに失敗して軌道修正して再スタートすることで、より早く成長する。どのような情報でもインターネット経由で手に入り、かつクラウドファンディングやPaypalなどで資金の移動や調達がインターネット経由で可能になり、何か事業を始めるときのコンピュータリソースがクラウドによってすぐに必要なだけ調達できるようになり、ついにはハードウェアの情報までデジタル化されつつあることにより、この「すぐに・早く・軽く」という流れはさらに加速しています。

たとえば、5年前に描かれたロードマップにはおそらくinstagramや自動運転は描かれていません。10年前だと、スマートホンが描かれていないでしょう。大きな変化が頻繁に起こるようになっていることで、長い計画を忠実に実行しようとすると、大きく間違える可能性が増えてきています。

ナウイストになろう

MITメディアラボの所長伊藤穣一は、TEDトーク「革新的なことをしたいなら、ナウイストになろう」で、この流れをシンプルに表現しました。

▼Joi Ito: Want to innovate? Become a "now-ist"

  • 世界中がインターネットにつながって、誰でもイノベーションが起こせることにより、
    未来はどんどん予測不能になっている。
  • イノベーションを起こす何かを始めるコストはどんどん下がっている。
  • 新しいことを学ぶコスト、それを世界中に広めるコストも下がっている。
  • なんでも、今すぐできるし、やってみなければわからない。
  • だから、「自分で」「今」始めるべきだ。

トークで説明されたこの考え方は、深圳の何でも作ってしまう街、製造業のすべてが一つの都市にまとまっているエコシステムの影響を受けています。
MITの卒業生も多く参加しているアクセラレータ(アイデアの持ち主に投資し、起業と成長をサポートするビジネス)HAXは、世界最大のハードウェア企業専門アクセラレータですが、ラボを深圳に置き、わずか111日で製品を開発させて発表させます。

▼5月18日に行われた、第8回のHAX Demo day. 新しく起業した15のハードウェア企業が、シリコンバレーの投資家を前にお披露目をする。
HAXDemoday-1
新しいアイデアを持った起業家と、アイデアが未完成な段階でとりあえず投資できる投資家が集まったシリコンバレーは、「とりあえず始めてみて、早く勝負をつける」ためには最高の場所です。ハードウェアに限ると、深圳の製造環境は、「シリコンバレーで1ヶ月かかることが深圳では1週間でできる」と、よりイノベーションを加速させます。

長期的な視点で考える

何でも考えることができるー人間の頭脳と同じようにー汎用人工知能「Deepmind」を開発しているデミス・ハサビスは、WiredのインタビューDeepMind4億ドルの超知能にこう答えています。

  • これはアポロ計画のようなもので、40カ国から100人の科学者を集めて、できるかどうかわからないものを開発する
  • 20年のスパンで考えている
  • 長期的な目標に集中するには、シリコンバレーは騒がしすぎる

ハサビスのインタビューには何度も「最短のプロセスで開発する」という話が出てきていて、インタビューの一部はより早く人工知能の開発を進めるためにGoogleの買収提案を受けたことについて割かれています。一生の間にできるかわからないような難しい目標を、なんとか20年に縮めるために努力しているので、「ナウイスト」の話とまったく矛盾しているわけではありませんが、この「シリコンバレーは騒がしすぎる」はよく聞く話で、僕もいくつかの知人の話からスピードの速さについて聞くことがあります。

前述のHAXのアクセラレーションプログラムに応募した別の知人は、研究をしているのですが、採用インタビュー時に「いますぐフルコミットでスタートアップ側に注力できるか?」を聞かれたそうです。実際にプログラムに参加している別の知人は、3年間で方向性の違う3つのプロダクトを世間に送り出しました。別の方向のプロダクトを作るたびに売上げが上がっているので、「早く始め、早く失敗する」の教科書的な事例ではありますが、3年続けて違うことをやるのは騒がしい話ではあります。

さらにGoogleに勤めている知人からは、同僚が同じ仕事内容で半年ぐらいでFacebookに移った話を聞きました。内容が変わらないので待遇が理由なんじゃないかと思われます。作っているものが変わらなくても会社を短期間で変わることが珍しくないわけです。

かつてHAXにアプライしながら途中で抜けた深圳の友達は、「あのプログラムだと、ちょっとアイデアを見つけて抜け目なく製品にすることが求められる。まるでキツネみたいな賢さが必要とされる。僕はもう少し、その基礎になる技術をゆっくり、ゾウとか坊さんみたいに追求したかったんだ」と語りました。スケールは違えど、ハサビスの話と似た方向性の言葉に思えます。

僕自身は「何でもすぐ自分でやってみて、フィードバックを受けてまた再トライしてみる」という考え方が大好きで、だいたいの場面ではそうしようと思っています。ゆっくり考える自分の頭にはあまり期待していません。その一方で、シリコンバレーと違うところでイノベーションを起こそうという考えには強い魅力を感じました。

告知:
この連載でも扱ったような、アジアのメイカー事情を、山形浩生さんや江渡浩一郎さんなどと、いろいろな寄稿を集めてまとめた書籍「メイカーズのエコシステム」が出ました。ご興味ある方はぜひ。

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高須 正和(たかす・まさかず)

無駄に元気な、チームラボMake部の発起人。チームラボニコニコ学会βニコニコ技術部DMM.Makeなどで活動をしています。日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』を行っています。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があり、メイカーズのエコシステムという書籍に活動がまとまっています。ほか連載など:http://ch.nicovideo.jp/tks/blomaga/ar701264

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