年功序列は差別
Seniority-based pay is a form of discrimination
2015.07.03
Updated by Mayumi Tanimoto on July 3, 2015, 08:00 am JST
Seniority-based pay is a form of discrimination
2015.07.03
Updated by Mayumi Tanimoto on July 3, 2015, 08:00 am JST
日本では能力給を導入する大手企業がニュースになっていますが、まだまだ、多くの職場では、年功序列賃金が当たり前です。
ところで、日本よりコスト管理にエグく、能力給導入が盛んな欧州や北米では、年功序列賃金がある公共機関や古い大企業ですら、最近は年功序列賃金は廃止の方向です。スウェーデンでは公務員の年功序列賃金は廃止されています。
例えばイギリスは、一部の機関では、公務員の年功序列賃金さえ廃止の方向性です。イギリスの医療制度というのは日本と異なり、国が税金を使って国立病院機構(NHS)というのを運営しています。働いている人は、収入に応じた国民健康保険料を払うかわりに、医療費は無料です。医師や医療スタッフは一応公務員です。治療を受ける場合は、まず、GP(ジェネラルプラクティショナー)という家庭医に診てもらいますが、そのGPに関して、2020年から年功序列賃金が廃止されることになりました。年功序列賃金は、働く人の意欲をそぎ、技能や担当する仕事に対して支払うべき報酬とリンクしない、というのがその理由です。GPの医療知識や労働倫理には個人差が大きく、当たり外れが大きすぎるのに高い報酬を払うのはおかしい、という文句が以前からあったので、能力給を導入するというわけです。
最近では、年功序列というのは、報酬の平等性の観点から時代遅れである、という見方が強くなっています。働いている機関や年齢で報酬に差をつけることは、転職してきた人や、出産や家族の世話などで、キャリアを中断することが多く、男性に比べて就労年限が短くなりがちな女性に対する差別であるというのが訴えの内容です。さらに、イギリスだけではなく、欧州では同一労働同一賃金という、同じ仕事であれば同じ報酬をもらう、という考え方が一般的なので、仕事の内容や能力と全く関係がない年功序列は、同じく労働者差別に当たるという考え方が出てきています。
イギリスでは、2009年には、政府が運営する労働裁判で、年功序列は差別である、という訴えが80件以上起こされています。「Bernadette Cadman 対HSE」という訴訟では、年功序列は性差別である、と政府に対して訴えた女性が勝訴しています。つまり、報酬の点から見て、年功序列というのは、その人の仕事の成果や能力ではなく、年齢や勤続年数などの「属性」を重視することから、労働者に対する差別なのです。
日本では能力給の導入は、職場の調和を乱すとか、正社員のポストを削減したい、という声の方が一般的なようですが、年功序列は働く人に対する差別である、という見方も議論されるべきでしょう。
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